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総統戦記外伝③魔弾のレギンレイヴ
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ドイツ軍の少女…アンネローゼは謎の凄腕女狙撃兵として密林を移動しつつ、敵のソ連軍の中級指揮官を次々と射殺していた。
仲間の軍医シュバルツも彼女をサポートすべく侍る。
敵…だけではない砲火が激しくなった。
味方が一時的にとは言え反転攻勢に出たのだ。
敵ソ連軍の混乱に乗じ、アンネローゼはおそらくは予め想定していたであろう将校クラスを狙い次々と狩り殺していく。
「こっちだ!急げ!」
「早くしろ!」
「畜生め!」
悲鳴と怒号が響き渡る中、シュバルツもまたその類い稀なる射撃技術で援護する。
「シュバルツ大尉」
「なんだ」
「どこで覚えたのです?」
苦笑まじりにアンネローゼは訊く。
それは無理もない事だった。
シュバルツはかつてナチス・ドイツのとある特殊部隊に属していたのだ。
その事を簡潔に話す。
アンネローゼもそれ以上は訊かない。
互いに横のつながりもない、そう言う部隊があって、そこにいた訳ありの人間と肩を並べこうして戦っている。
いまはそれだけで十分だ。
とにかく今は、自分たちのピンポイント狙撃で増した敵の混乱に乗じるしかない。
ソ連軍に視認されないギリギリまで近づく。
バグラミャンが、果たして都合よく視界に入るか…?
アンネローゼの眼前を閃光が走った。
機銃掃射だ。
こちらには気づいてない筈なのに何故!? 一瞬混乱するがすぐに思い直す。
ああ、そうか……。
私はもう「本命」を殺していたのか。
直接でなくとも間接的に…?
ソ連兵の叫び声の端々に一つの固有名詞が上がる。
では後は…。
シュバルツと2人生き残るだけだ。
だが、少ないとは言えソ連軍兵士が追ってくる以上、それも容易ではなかった。
「さて、行けるかだな!?」
「ええ……ここは私が食い止めます。大尉は先に!」
「な、何を言ってる?」
「いいから!貴方は生きてお姉さんに会うんでしょう!?」
そう言われて驚くシュバルツ。
何故知ってる?
写真を取り出した時、昨晩彼女は寝ていた筈だが。
いや、そんな事はどうでもいい。
今はこの場を切り抜ける事だ。
そして彼は彼女の言葉に従い脱出する。
アンネローゼはその背中を見送る。
さあ、これで気兼ねはなくなった。
彼女は覚悟を決める。
私一人でどこまで行けるかわからないけれど、最後まで戦い、1人でも多くの…大切な人達を奪ったソ連兵を地獄の道連れにするだけだ。
バグラミャンを戦死に追い込んだとは言っても、全ての清算が済んだわけではない。
そもそも、アンネローゼ自身の手も汚れているのだ。
彼女は木々の陰を電光のように移動し、次々とソ連兵を正確無比の射撃で撃ち斃す。
!?
シュバルツは逃げる途中、後方で何か大きな爆発音が響くのを聞いた。
「まさか……」
嫌な予感が頭をよぎる。
「アンネローゼ!」
思わず叫んでしまうシュバルツ。
ぐっ、どうする。
その時、別方面からの足音。
アンネローゼの右脚、左腕から鮮血…。
もうここまでか…。
残弾もない…。
ゆっくり、だが確実にソ連兵の足音。
もはやこれまで、ね……。
死を覚悟し、静かに目を閉じる。
銃声。
何発も。
ソ連兵達が倒れる気配。
アンネローゼはゆっくりと目を開け、確認する。
そこには、信じられない光景があった。
「赤軍ども覚悟しろ!!」
MP40を乱射するシュバルツだ。
他にも見知った顔がある。
彼女直接の上官クジライカ・シャリテ大尉とその部下達だ。つまり仲間達…。危険を冒して…。
「無事で良かったぜ。」
「大尉殿こそ」
そう言いつつシュバルツは少女の体を支える。
「言ったろ?俺達は運命共同体だって」
その笑顔を見てアンネローゼは思った。
ああ、この人はやっぱり優しい人だと。
だから惹かれてしまうのかもしれないと。
でもたぶん運命云々とは言ってないけど。
「通信傍受でも確認した。
死因は不明だが、君が、いや軍医殿も含め敵を著しく撹乱したおかげで、この方面軍の敵の主将が戦死した事は確かだ。」
シャリテ大尉はそう言い、全員で味方勢力圏に脱出すると宣言した。
それからしばらくして、彼らの乗った装甲車…予めいくつか密林、山中に用意していた獣道の一つはようやく安全圏に到達しつつあった。
その車内で手当てを受けたアンネローゼは疲れたのか、あるいは鎮痛剤の効果か眠ってしまった。
その寝顔を眺めながらシュバルツは思う。
彼女が自分の身を犠牲にしても、本懐を遂げようとしたのはわかる気がする。
それはきっと…俺と同じ…。
戦争はいまだ我がドイツに不利だが…きっと彼女は…いや俺たちならこの劣勢を覆す事ができるだろう。
それは希望的観測ではなく確信だった。
なぜなら、今、ここにいる全員が同じ思いを共有しているのだから。
「さあ、これから忙しくなるぞ。
まずはこの戦争に勝つ。
そして……」
「まあ、そうですな、彼女のような子が普通に生きられる世界にしたいですな。」
シュバルツはシャリテ大尉に、そう力強く答えた。
仲間の軍医シュバルツも彼女をサポートすべく侍る。
敵…だけではない砲火が激しくなった。
味方が一時的にとは言え反転攻勢に出たのだ。
敵ソ連軍の混乱に乗じ、アンネローゼはおそらくは予め想定していたであろう将校クラスを狙い次々と狩り殺していく。
「こっちだ!急げ!」
「早くしろ!」
「畜生め!」
悲鳴と怒号が響き渡る中、シュバルツもまたその類い稀なる射撃技術で援護する。
「シュバルツ大尉」
「なんだ」
「どこで覚えたのです?」
苦笑まじりにアンネローゼは訊く。
それは無理もない事だった。
シュバルツはかつてナチス・ドイツのとある特殊部隊に属していたのだ。
その事を簡潔に話す。
アンネローゼもそれ以上は訊かない。
互いに横のつながりもない、そう言う部隊があって、そこにいた訳ありの人間と肩を並べこうして戦っている。
いまはそれだけで十分だ。
とにかく今は、自分たちのピンポイント狙撃で増した敵の混乱に乗じるしかない。
ソ連軍に視認されないギリギリまで近づく。
バグラミャンが、果たして都合よく視界に入るか…?
アンネローゼの眼前を閃光が走った。
機銃掃射だ。
こちらには気づいてない筈なのに何故!? 一瞬混乱するがすぐに思い直す。
ああ、そうか……。
私はもう「本命」を殺していたのか。
直接でなくとも間接的に…?
ソ連兵の叫び声の端々に一つの固有名詞が上がる。
では後は…。
シュバルツと2人生き残るだけだ。
だが、少ないとは言えソ連軍兵士が追ってくる以上、それも容易ではなかった。
「さて、行けるかだな!?」
「ええ……ここは私が食い止めます。大尉は先に!」
「な、何を言ってる?」
「いいから!貴方は生きてお姉さんに会うんでしょう!?」
そう言われて驚くシュバルツ。
何故知ってる?
写真を取り出した時、昨晩彼女は寝ていた筈だが。
いや、そんな事はどうでもいい。
今はこの場を切り抜ける事だ。
そして彼は彼女の言葉に従い脱出する。
アンネローゼはその背中を見送る。
さあ、これで気兼ねはなくなった。
彼女は覚悟を決める。
私一人でどこまで行けるかわからないけれど、最後まで戦い、1人でも多くの…大切な人達を奪ったソ連兵を地獄の道連れにするだけだ。
バグラミャンを戦死に追い込んだとは言っても、全ての清算が済んだわけではない。
そもそも、アンネローゼ自身の手も汚れているのだ。
彼女は木々の陰を電光のように移動し、次々とソ連兵を正確無比の射撃で撃ち斃す。
!?
シュバルツは逃げる途中、後方で何か大きな爆発音が響くのを聞いた。
「まさか……」
嫌な予感が頭をよぎる。
「アンネローゼ!」
思わず叫んでしまうシュバルツ。
ぐっ、どうする。
その時、別方面からの足音。
アンネローゼの右脚、左腕から鮮血…。
もうここまでか…。
残弾もない…。
ゆっくり、だが確実にソ連兵の足音。
もはやこれまで、ね……。
死を覚悟し、静かに目を閉じる。
銃声。
何発も。
ソ連兵達が倒れる気配。
アンネローゼはゆっくりと目を開け、確認する。
そこには、信じられない光景があった。
「赤軍ども覚悟しろ!!」
MP40を乱射するシュバルツだ。
他にも見知った顔がある。
彼女直接の上官クジライカ・シャリテ大尉とその部下達だ。つまり仲間達…。危険を冒して…。
「無事で良かったぜ。」
「大尉殿こそ」
そう言いつつシュバルツは少女の体を支える。
「言ったろ?俺達は運命共同体だって」
その笑顔を見てアンネローゼは思った。
ああ、この人はやっぱり優しい人だと。
だから惹かれてしまうのかもしれないと。
でもたぶん運命云々とは言ってないけど。
「通信傍受でも確認した。
死因は不明だが、君が、いや軍医殿も含め敵を著しく撹乱したおかげで、この方面軍の敵の主将が戦死した事は確かだ。」
シャリテ大尉はそう言い、全員で味方勢力圏に脱出すると宣言した。
それからしばらくして、彼らの乗った装甲車…予めいくつか密林、山中に用意していた獣道の一つはようやく安全圏に到達しつつあった。
その車内で手当てを受けたアンネローゼは疲れたのか、あるいは鎮痛剤の効果か眠ってしまった。
その寝顔を眺めながらシュバルツは思う。
彼女が自分の身を犠牲にしても、本懐を遂げようとしたのはわかる気がする。
それはきっと…俺と同じ…。
戦争はいまだ我がドイツに不利だが…きっと彼女は…いや俺たちならこの劣勢を覆す事ができるだろう。
それは希望的観測ではなく確信だった。
なぜなら、今、ここにいる全員が同じ思いを共有しているのだから。
「さあ、これから忙しくなるぞ。
まずはこの戦争に勝つ。
そして……」
「まあ、そうですな、彼女のような子が普通に生きられる世界にしたいですな。」
シュバルツはシャリテ大尉に、そう力強く答えた。
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