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総統戦記外伝 魔弾のレギンレイヴ
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1944年6月某日。
未だソビエト連邦の一角を勢力下に置くドイツ軍に対し、スターリンはバグラチオン作戦を発令。
空陸一帯の膨大な兵力。いわば鉄のロードローラーを繰り出し、一気呵成に自国領奪回、ポーランドを飲み込み一息に突き進む、大陸規模の「史上最大の作戦」であった。
対するナチスドイツ軍は「総統ヒトラー」の指示により、拠点固守にはこだわらずに迅速に退避…と言うよりソ連赤軍の大攻勢を8割方先読みしていたのだが。
さりとて、ドイツ軍としても逃げるばかりでは当然、不可逆的に全戦線が破綻してしまう。
要衝ミンスク奪回直後のソ連軍を狙い、精度は大雑把とはいえ無数の新型弾道ロケットを撃ち込み、あるいは有力な機甲打撃群や航空戦力が一撃離脱で驀進するソ連軍に痛撃を与えては退くを間断なく繰り返し、出血を強い、進撃を度々遅滞させていた。
そんな中…。
ミンスクやや西方の村。
「へっへ、待たせな同志ども。
やりてえならまだいるぜ?
男は息してねえし、母親は20代後半、娘は10歳ねえな。逃げられねえように脚の腱切っているからよ?」
戦場で紳士的、とはとても言い難い部下兵士達も、この時ばかりはこの上官のやりように明らかに引いていた。
「同志ベルンスキー中尉殿、流石に同じソ連人民にそういう狼藉は…」
おそるおそる発言した部下に、ベルンスキーは鉄拳を浴びせる。
「貴様反革命か!?この村の連中はナチス…ファシストの支配下にあった。
そいで解放された今ぬくぬくと暮らしてるって事はファシストに協力してたってことだ!
そんな一家はナニ犯ろうが殺ろうがお構いなしに決まってんだろ!?
よし次はお前行け。
心配ねえ、壁にいくつかデカデカと鉤十字書いといた。
無理矢理ファシストのせいにしちまえば無問題!がはははははははがばらっ!!!?」
何ッ!?
ベルンスキーの頭部がスイカの様に弾ける。
間抜けな表情はそのままに仰向けに倒れ、赤黒い脳漿をぶちまける。
「クッ狙撃手だ!」
「伏せろ!」
ベルンスキーの死を悼んだ者は誰一人居なかったが、指揮官を斃された以上は報復も視野に入れ、上位者の指示を仰ぐ必要がある。
恐らくというか確実にあの山中から…。
1.5キロは離れているな。
凄腕ならば益々放置できない。
「おおよそで構わん!まず迫撃砲を山に撃て!」
中腰で、まさに都合良くも現着した別の中尉…たしか名前は…。
「がわばあっ!?」
その中尉が、いったん伏せる動作に移った瞬間、顔面を撃ち抜かれる…!
いっ、ひいいいい…
新兵らは恐慌寸前である。
他の下士官達も、指揮の引き継ぎ以前に自らの命を守ることに精一杯である。
「ああああああああぃ!?」
1人の新兵が糸を切らしてしまい、立ち上がり小銃を乱射する。
が、当然額を射抜かれ昏倒。
「伏せろ!耐えろ!」
ヤボンスキー軍曹が怒鳴る。
このまま彼が先任としてこの場のソ連軍の指揮を取るか…と思われた時。
なんだ!何の騒ぎか!?
よりによって尊大な態度の、少佐の徽章をつけた男が、米軍供与のジープに乗り付けてやってきたのだ。
あ…バカ。
ヤボンスキーらが口の中で呟く間に、少佐は頭を撃ち抜かれがくりと崩れ落ちる。
エンジンのアイドリング音が虚しく響く。
やべえな…佐官級までヤられてただ逃げ帰っただけとなると…。
明日の今頃は地雷原を歩かされていてもおかしくはない。
「おい、重火器はあるか!?」
草むらに伏せたまま、ヤボンスキーは周囲を見回す。
「擲弾筒が…」
「5門ですかね…」
「よし上出来だ。」
ニヤリとヤボンスキーは獰猛な笑みを浮かべると、地べたに這ったまま部下に手早く指示をだす。
実質射程はギリギリだが、射線はおおよそ記憶した。
「5つ数えたら2時方向、仰角35°だ。」
「ダー。」
よし!
最低限に頭の高さを抑えつつ、それなりに経験のある兵達が擲弾筒を手早くセッティング、発射する。
マニュアル無視で強引に発射した割には上手く山の中腹に爆炎が上がる。
「よしっ!」
「後は死体は見つからなかった、で何とか通るだろ…。」
が、兵卒達は愕然とした。
唯一指揮を取りうる、下してくれた軍曹が斃れていたのである。
「ひいいいっ!」
何度もひっくり返りながら、残りのソ連兵達は逃げ出した。
その「山中」
時折木の幹に手をつきながら、「彼女」は歩き続けていた。
先刻まで赤軍将校を屠り続けていた狙撃銃とともに…。
左足ふくらはぎからは流血…
そこへ誰何の声。
「か、官姓名を名乗れっ」
ドイツ語…。
「ヤー!武装SS特命狙撃兵、アンネローゼ・ヴァレンシュタイン曹長!」
「女…しかもSSか。
私は軍医官のオットー・シュバルツ中尉。」
敬礼を一応返す。男…シュバルツの方が森林内で味方に会えてホッとしたという態であった。どちらかといえば。
「貴官は何故、単独行動を?」
「軍機につきご容赦願い…ます。」
「そうか、私…僕の方ははぐれただけなんだがな。」
アンネローゼは思わず失笑を漏らした。
「だが一応患者が出来た。診せてみなさい。」
目を凝らすシュバルツ。砲弾の破片か何か?
しかし、飛んできたそれが大きかったのが幸いし、体内に食い込んではいないようだ。
どうにか止血と消毒は出来る。
「だが、少し休んだ方がいい。
敵さんも多分山狩りする余裕まではない。」
かぶりをふるアンネローゼ。
「なんでそう焦る?任務以外に何か?」
その問いに無言だが、鋭くどきりとするような眼光を、少女狙撃兵は浮かべた。
…………?
仕方ない。成り行きだ。
私も付き合うか…
たった2人の軍隊は、再び行軍を始めることとなる。
(続)
未だソビエト連邦の一角を勢力下に置くドイツ軍に対し、スターリンはバグラチオン作戦を発令。
空陸一帯の膨大な兵力。いわば鉄のロードローラーを繰り出し、一気呵成に自国領奪回、ポーランドを飲み込み一息に突き進む、大陸規模の「史上最大の作戦」であった。
対するナチスドイツ軍は「総統ヒトラー」の指示により、拠点固守にはこだわらずに迅速に退避…と言うよりソ連赤軍の大攻勢を8割方先読みしていたのだが。
さりとて、ドイツ軍としても逃げるばかりでは当然、不可逆的に全戦線が破綻してしまう。
要衝ミンスク奪回直後のソ連軍を狙い、精度は大雑把とはいえ無数の新型弾道ロケットを撃ち込み、あるいは有力な機甲打撃群や航空戦力が一撃離脱で驀進するソ連軍に痛撃を与えては退くを間断なく繰り返し、出血を強い、進撃を度々遅滞させていた。
そんな中…。
ミンスクやや西方の村。
「へっへ、待たせな同志ども。
やりてえならまだいるぜ?
男は息してねえし、母親は20代後半、娘は10歳ねえな。逃げられねえように脚の腱切っているからよ?」
戦場で紳士的、とはとても言い難い部下兵士達も、この時ばかりはこの上官のやりように明らかに引いていた。
「同志ベルンスキー中尉殿、流石に同じソ連人民にそういう狼藉は…」
おそるおそる発言した部下に、ベルンスキーは鉄拳を浴びせる。
「貴様反革命か!?この村の連中はナチス…ファシストの支配下にあった。
そいで解放された今ぬくぬくと暮らしてるって事はファシストに協力してたってことだ!
そんな一家はナニ犯ろうが殺ろうがお構いなしに決まってんだろ!?
よし次はお前行け。
心配ねえ、壁にいくつかデカデカと鉤十字書いといた。
無理矢理ファシストのせいにしちまえば無問題!がはははははははがばらっ!!!?」
何ッ!?
ベルンスキーの頭部がスイカの様に弾ける。
間抜けな表情はそのままに仰向けに倒れ、赤黒い脳漿をぶちまける。
「クッ狙撃手だ!」
「伏せろ!」
ベルンスキーの死を悼んだ者は誰一人居なかったが、指揮官を斃された以上は報復も視野に入れ、上位者の指示を仰ぐ必要がある。
恐らくというか確実にあの山中から…。
1.5キロは離れているな。
凄腕ならば益々放置できない。
「おおよそで構わん!まず迫撃砲を山に撃て!」
中腰で、まさに都合良くも現着した別の中尉…たしか名前は…。
「がわばあっ!?」
その中尉が、いったん伏せる動作に移った瞬間、顔面を撃ち抜かれる…!
いっ、ひいいいい…
新兵らは恐慌寸前である。
他の下士官達も、指揮の引き継ぎ以前に自らの命を守ることに精一杯である。
「ああああああああぃ!?」
1人の新兵が糸を切らしてしまい、立ち上がり小銃を乱射する。
が、当然額を射抜かれ昏倒。
「伏せろ!耐えろ!」
ヤボンスキー軍曹が怒鳴る。
このまま彼が先任としてこの場のソ連軍の指揮を取るか…と思われた時。
なんだ!何の騒ぎか!?
よりによって尊大な態度の、少佐の徽章をつけた男が、米軍供与のジープに乗り付けてやってきたのだ。
あ…バカ。
ヤボンスキーらが口の中で呟く間に、少佐は頭を撃ち抜かれがくりと崩れ落ちる。
エンジンのアイドリング音が虚しく響く。
やべえな…佐官級までヤられてただ逃げ帰っただけとなると…。
明日の今頃は地雷原を歩かされていてもおかしくはない。
「おい、重火器はあるか!?」
草むらに伏せたまま、ヤボンスキーは周囲を見回す。
「擲弾筒が…」
「5門ですかね…」
「よし上出来だ。」
ニヤリとヤボンスキーは獰猛な笑みを浮かべると、地べたに這ったまま部下に手早く指示をだす。
実質射程はギリギリだが、射線はおおよそ記憶した。
「5つ数えたら2時方向、仰角35°だ。」
「ダー。」
よし!
最低限に頭の高さを抑えつつ、それなりに経験のある兵達が擲弾筒を手早くセッティング、発射する。
マニュアル無視で強引に発射した割には上手く山の中腹に爆炎が上がる。
「よしっ!」
「後は死体は見つからなかった、で何とか通るだろ…。」
が、兵卒達は愕然とした。
唯一指揮を取りうる、下してくれた軍曹が斃れていたのである。
「ひいいいっ!」
何度もひっくり返りながら、残りのソ連兵達は逃げ出した。
その「山中」
時折木の幹に手をつきながら、「彼女」は歩き続けていた。
先刻まで赤軍将校を屠り続けていた狙撃銃とともに…。
左足ふくらはぎからは流血…
そこへ誰何の声。
「か、官姓名を名乗れっ」
ドイツ語…。
「ヤー!武装SS特命狙撃兵、アンネローゼ・ヴァレンシュタイン曹長!」
「女…しかもSSか。
私は軍医官のオットー・シュバルツ中尉。」
敬礼を一応返す。男…シュバルツの方が森林内で味方に会えてホッとしたという態であった。どちらかといえば。
「貴官は何故、単独行動を?」
「軍機につきご容赦願い…ます。」
「そうか、私…僕の方ははぐれただけなんだがな。」
アンネローゼは思わず失笑を漏らした。
「だが一応患者が出来た。診せてみなさい。」
目を凝らすシュバルツ。砲弾の破片か何か?
しかし、飛んできたそれが大きかったのが幸いし、体内に食い込んではいないようだ。
どうにか止血と消毒は出来る。
「だが、少し休んだ方がいい。
敵さんも多分山狩りする余裕まではない。」
かぶりをふるアンネローゼ。
「なんでそう焦る?任務以外に何か?」
その問いに無言だが、鋭くどきりとするような眼光を、少女狙撃兵は浮かべた。
…………?
仕方ない。成り行きだ。
私も付き合うか…
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(続)
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