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老いたる虎

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そんな中、彼はモスクワに呼び出しを受けたのである。
クレムリンの執務室に入ると…。
同志書記長閣下は、グルジアワインを堪能していた。
机の上には…何者かの頭蓋骨が置かれていた。
「おお、ジュ~コフ。
お前も飲むか?んん?」
「は、では一杯だけ…。」
「ファシストと資本主義者どもがここに迫ってきておるらしいな。」
「はっ。しかし必ずや阻止してご覧にいれます。」
「ふむ…。そんなお前に新たなる戦力を授けようではないか。」
渡された資料を見て、ジューコフは若干目を丸くした。
「これは…これだけの戦力をお預けいただければ…。」
「ふふ…ここまでしてやるからには…失敗は許されんぞジュ~コフ。
いままでブルジョワとは程遠い、貧農出身故許されてきた面があるが。これ以上失態を重ねれば…。」
スターリンは手元の頭蓋骨をトントンと叩いた。
「わかっておろうな…。」
「は、ははっ!」

7月18日
泥濘期を脱するのと同時に、連合軍機甲部隊は進撃を再開する。
スモレンスクを抜いてからも、抵抗は軽微であった。
「諦めてスターリンはモスクワを明け渡すつもりなのではないか?」
そんな希望的観測が、かすかに連合国将兵の間に流れたとき。
それを打ち砕く偵察情報が、彼らにもたらされた。
「モスクワに通じる街道上のクベンカに、ソ連軍が集結しつつあり。」
「よし、敵の最後のあがきだ。奴らを潰せば、あとはモスクワになだれ込むだけだ、気合を入れろ!」
パットン将軍は配下の将兵を叱咤した。

そして7月25日…。
クベンカに連合軍戦闘車両6500両が進出する。
同時に航空機5000機も上空域に達する。
「まずは確実に敵機を排除して、制空権を握るぞ!」
そう言って愛機のスロットルをあおったヘリントン大尉の目に、信じがたい光景が映った。
「な…なんだあれは…。」
「そ、空が見えません!」
周辺の空を埋め尽くさんばかりのソ連機。しかも、その機種は…。
「気をつけろ、ジェット機だ!」
「ばかな!あれはドイツの…。」
そう、メッサーシュミットMe262に酷似した…というより鹵獲した本機を参考に完成させたソ連の新鋭戦闘機Su―9。
彼らはそれを実に6000機、一斉に同一空域に投入したのである。
次々とP―51が、スピットファイアが、疾風が、強力な37㎜機関砲の前に撃墜されていく。
Me262HGと旋風が、性能的に拮抗し得る機種であったが、いかんせん数的に差がありすぎる。
ハルトマンの率いる中隊も、次々襲い来るSu―9の攻撃を回避するのが精一杯である。
そして…制空権を奪うと同時に、IL―2に代表される攻撃機が、連合国のティーガーⅡに、M4に、センチュリオンに襲い掛かる。
「糞ッ!空の連中は何してやがんだ!」
クニスペルのティーガーⅡはなんとか空爆の牙から逃れ、敵戦車を射程に収める。
しかしテレスコープを覗いた砲手の顔色が変わる。
「なんだあの戦車は!」
言いながらも8,8cm砲を叩き込むが、傾斜装甲にあえなく弾き返される。
「新型だ!たしかIS―3とかいう…。」
ソ連重戦車開発の極致ともいえる怪物戦車である。
資料では見たことがあるが、こうも大量に配備されているとは…。
「やばい!正面からでは無理だ!後退しろ!」
全速でバックするティーガーⅡ、友軍の他の車両もそれに倣うが、次々と122mm砲の前に撃破されていく。
勇敢なパンター群が側面に回り、装甲の薄い場所を狙い撃ちして一両を仕留めたが…。
それらも他のIS―3に次々と潰されていく。
「化け物だ…。」
必死に逃げるが、彼らは重厚な車体の割にスピードも速い。
追いすがられ、キャタピラー部分に被弾してしまう。
「糞ッ!またかよ!脱出だ!」
必死に部下と疾走しつつ振り返ると…。
イギリスのセンチュリオン隊がIS―3と正面から互角の殴り合いを演じていた。
無敵を誇ったティーガーも、もう時代遅れなのか…。
乗員一同、またしても無事に脱出出来た悪運を喜びつつも、一抹の寂しさをクニスペルは感じていた。

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