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選ばれし者だからこそ
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地中海 シチリア島
「ハスキー作戦」の名のもとにバーナード・モントゴメリー大将指揮のイギリス第8軍は、戦艦数隻による艦砲射撃の支援を受けつつ、島の東南側海岸に上陸して北上、シラクーザから東北端のメッシーナを目指した。またジョージ・パットン中将のアメリカ第7軍は、南西側海岸ジェーラに上陸後、モントゴメリーの側面を援護しつつパレルモを目指して北上する。
だが上陸当初、艦砲による準備射撃に甚大な損害を被りつつもドイツ・イタリア枢軸軍は連合軍に対して善戦、ドイツ軍のヘルマン・ゲーリング装甲師団はジェーラ海岸に上陸したアメリカ軍歩兵部隊を包囲し、数百名を捕虜にしている。
Ⅳ号戦車G型を少数ながら支給された旧ドイツアフリカ軍団も大いにアメリカ第7軍を苦しめる。
またイタリア軍のリヴォルノ歩兵師団も、88㎜対戦車砲などの対戦車戦力と肉迫攻撃で勇敢に戦った。
結局、連合軍はここを陥落させるのに4ヶ月を費やすこととなる。
しかも陥落後も10数万の枢軸側兵力に海路脱出を許してしまうのであった。
さて、クルスク戦終了後、半月が経ったある日。
僕はエヴァとともに(なんだかんだで数日に一回は会っていた)大本営の映写室である映画を見た。
まあ、僕にとっては退屈な恋愛映画なのだが…脇役で出ていたある若手女優の美しさに、僕は内心魅せられてしまった…。
ラストのエンドロールで…女優の名がアイリスディーナ・ブレーメということを知る。
そして…。
(内心嫌っていた)ゲッベルスに連絡を取り、僕は3日後の夜、彼女を私室に呼び寄せることとなる。
無論二人きりだ。
ああ…何権力濫用してんだ僕は…。
「総統閣下、お招きに与り光栄でございます。」
栗色の髪と透き通るような碧眼…。
美しい…白黒のスクリーンで見るよりずっと…。
しかもまだ19歳。その美しさは今後さらに深みを増しうるのだ。
「こちらこそお会いできて光栄だ。スクリーンでの演技はすばらしかった…。今日はどうか寛いでほしい。」
自らワインとチーズを出し、ささやかながらもてなす。
軽くワインに口をつけただけで、あでやかに頬を染める。
それもまた綺麗だ…。
思わず彼女の手を取ってしまう。
「アイリと呼んでも?」
独裁者でなければ完全に只のキモいおっさんである。
しかし彼女は艶然と微笑みながらうなずいてくれた。
こらえきれなくなった僕は体を寄せ、キスをした。
そして形の良い胸に手を伸ばす。
かすかに猫のような嬌声を、アイリは漏らした。
翌朝、朝食後のコーヒーを啜りながら、昨夜の情事の余韻に浸る。
肌を重ねた感触がまだ、身体に残っている…。
また…逢いたい…。
そう想いを巡らしているところへ、ノックの音。
ボルマンであった。
「総統閣下。ヒムラー長官との面談のお時間です。」
来たか。
実質会うのは「初めて」だ。
神経質そうな眼鏡の男が入室してきた。
「マイン・フュ―ラー。東部戦線にてアインザッツグルッペンの行動に制限をかけられるとは如何なるご意思があってのものかお伺いしたい!」
ヒムラーの鼻息は荒い。自分こそがアドルフ・ヒトラー及びNS(ナチス)の思想を先頭切って体現する者であるという自負が強くあるのであろう。
「ユダヤ人の処理をお禁じになられるのみならず。親衛隊をことごとく最前線の部隊に再編なさるとの噂もありますが…。」
「確かに検討しておる。今は前線で戦う部隊が一兵でも多くほしいでな。」
「それではわがNSの理想はどうなります。ユダヤ人をのさばらせて…。総統、恐れながら、『寛容さは弱さの証』ですぞ!」
僕は執務机を叩いた。
「出過ぎるなヒムラー!私が決めたことだ。貴官にはアメリカやイギリスに対する高度な政治的判断、配慮が分かるというのか⁉」
「…は、はっ、申し訳ございません…。」
一応恐縮したヒムラーであったが、どこまで納得したかどうか。
マンシュタインのような高潔かつ有能な将軍に対しては謙虚になれても、ヒムラーのように弱者を弾圧虐殺して嬉々としているような輩には、プライドに配慮して丁寧に説いてやるような気になれない。
「総統としての黒田泰年」の欠点なのかも知れぬが…。
ヒムラーが去って20分後、今度は僕がたっての願いで招いた人物が入室してきた。
女優ではない、男だ。それも男の中の男…。
マックス・シュメリング 元ボクシング世界ヘビー級王者。
高校のころ、彼の伝説を知り胸が高鳴った記憶がよみがえる。
ライン川の黒い槍騎兵と呼ばれた豪打。
女優アニー・オンドラとのロマンス。
そして褐色の爆撃機ジョー・ルイスとの激闘…。
…第二次世界大戦が始まってからは降下猟兵として戦っていたが、足を負傷し現在は除隊となった身…。
「お会いできて光栄だ。あなたの記録映画は繰り返し見させてもらった。」
僕はそういって握手を求めたが、シュメリングは応じない。
「あなたの党に入党しろ、宣伝に力を貸せというのであれば応じかねる。
リングでも戦場でも、私は自分と家族のためにのみ戦ってきたのであって、あなたのためではない。」
鋭い眼光で、シュメリングははっきりそう言った。
傍らにいたボルマンが何か言いかけたが、僕は片手で制する。
「それは、分かる。私や私の党が主張してきたことに賛同はしないというのは…。
だがそれが分かってもなお、私はあなたを尊敬する。
そんな只の一人の男との握手だと思って、応じてくださらないか。」
軽く当惑した表情を浮かべた元世界チャンピオンだったが、最終的には力強く握手に応じてくれた。
「ハスキー作戦」の名のもとにバーナード・モントゴメリー大将指揮のイギリス第8軍は、戦艦数隻による艦砲射撃の支援を受けつつ、島の東南側海岸に上陸して北上、シラクーザから東北端のメッシーナを目指した。またジョージ・パットン中将のアメリカ第7軍は、南西側海岸ジェーラに上陸後、モントゴメリーの側面を援護しつつパレルモを目指して北上する。
だが上陸当初、艦砲による準備射撃に甚大な損害を被りつつもドイツ・イタリア枢軸軍は連合軍に対して善戦、ドイツ軍のヘルマン・ゲーリング装甲師団はジェーラ海岸に上陸したアメリカ軍歩兵部隊を包囲し、数百名を捕虜にしている。
Ⅳ号戦車G型を少数ながら支給された旧ドイツアフリカ軍団も大いにアメリカ第7軍を苦しめる。
またイタリア軍のリヴォルノ歩兵師団も、88㎜対戦車砲などの対戦車戦力と肉迫攻撃で勇敢に戦った。
結局、連合軍はここを陥落させるのに4ヶ月を費やすこととなる。
しかも陥落後も10数万の枢軸側兵力に海路脱出を許してしまうのであった。
さて、クルスク戦終了後、半月が経ったある日。
僕はエヴァとともに(なんだかんだで数日に一回は会っていた)大本営の映写室である映画を見た。
まあ、僕にとっては退屈な恋愛映画なのだが…脇役で出ていたある若手女優の美しさに、僕は内心魅せられてしまった…。
ラストのエンドロールで…女優の名がアイリスディーナ・ブレーメということを知る。
そして…。
(内心嫌っていた)ゲッベルスに連絡を取り、僕は3日後の夜、彼女を私室に呼び寄せることとなる。
無論二人きりだ。
ああ…何権力濫用してんだ僕は…。
「総統閣下、お招きに与り光栄でございます。」
栗色の髪と透き通るような碧眼…。
美しい…白黒のスクリーンで見るよりずっと…。
しかもまだ19歳。その美しさは今後さらに深みを増しうるのだ。
「こちらこそお会いできて光栄だ。スクリーンでの演技はすばらしかった…。今日はどうか寛いでほしい。」
自らワインとチーズを出し、ささやかながらもてなす。
軽くワインに口をつけただけで、あでやかに頬を染める。
それもまた綺麗だ…。
思わず彼女の手を取ってしまう。
「アイリと呼んでも?」
独裁者でなければ完全に只のキモいおっさんである。
しかし彼女は艶然と微笑みながらうなずいてくれた。
こらえきれなくなった僕は体を寄せ、キスをした。
そして形の良い胸に手を伸ばす。
かすかに猫のような嬌声を、アイリは漏らした。
翌朝、朝食後のコーヒーを啜りながら、昨夜の情事の余韻に浸る。
肌を重ねた感触がまだ、身体に残っている…。
また…逢いたい…。
そう想いを巡らしているところへ、ノックの音。
ボルマンであった。
「総統閣下。ヒムラー長官との面談のお時間です。」
来たか。
実質会うのは「初めて」だ。
神経質そうな眼鏡の男が入室してきた。
「マイン・フュ―ラー。東部戦線にてアインザッツグルッペンの行動に制限をかけられるとは如何なるご意思があってのものかお伺いしたい!」
ヒムラーの鼻息は荒い。自分こそがアドルフ・ヒトラー及びNS(ナチス)の思想を先頭切って体現する者であるという自負が強くあるのであろう。
「ユダヤ人の処理をお禁じになられるのみならず。親衛隊をことごとく最前線の部隊に再編なさるとの噂もありますが…。」
「確かに検討しておる。今は前線で戦う部隊が一兵でも多くほしいでな。」
「それではわがNSの理想はどうなります。ユダヤ人をのさばらせて…。総統、恐れながら、『寛容さは弱さの証』ですぞ!」
僕は執務机を叩いた。
「出過ぎるなヒムラー!私が決めたことだ。貴官にはアメリカやイギリスに対する高度な政治的判断、配慮が分かるというのか⁉」
「…は、はっ、申し訳ございません…。」
一応恐縮したヒムラーであったが、どこまで納得したかどうか。
マンシュタインのような高潔かつ有能な将軍に対しては謙虚になれても、ヒムラーのように弱者を弾圧虐殺して嬉々としているような輩には、プライドに配慮して丁寧に説いてやるような気になれない。
「総統としての黒田泰年」の欠点なのかも知れぬが…。
ヒムラーが去って20分後、今度は僕がたっての願いで招いた人物が入室してきた。
女優ではない、男だ。それも男の中の男…。
マックス・シュメリング 元ボクシング世界ヘビー級王者。
高校のころ、彼の伝説を知り胸が高鳴った記憶がよみがえる。
ライン川の黒い槍騎兵と呼ばれた豪打。
女優アニー・オンドラとのロマンス。
そして褐色の爆撃機ジョー・ルイスとの激闘…。
…第二次世界大戦が始まってからは降下猟兵として戦っていたが、足を負傷し現在は除隊となった身…。
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僕はそういって握手を求めたが、シュメリングは応じない。
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リングでも戦場でも、私は自分と家族のためにのみ戦ってきたのであって、あなたのためではない。」
鋭い眼光で、シュメリングははっきりそう言った。
傍らにいたボルマンが何か言いかけたが、僕は片手で制する。
「それは、分かる。私や私の党が主張してきたことに賛同はしないというのは…。
だがそれが分かってもなお、私はあなたを尊敬する。
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