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突貫あるのみ

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現在の臨時編成の日本機動艦隊。
アメリカ側の分析通り、規模としては前回の半分であった。
大和、新造の同型艦武蔵は燃料事情で出撃出来ず、空母は7隻。
それを護る戦艦は、修理を突貫で間に合わせた金剛級4隻のみ…。
しかし烈風隊の牙を逃れた100機超のアメリカ攻撃隊機の前に立ちはだかったのは、斜め上の対空砲火の嵐であった。
「なんだこれは…」
雷撃機隊総指揮官メイ少佐は愕然とする。
金剛級戦艦の副砲部分。
そして巡洋艦の主砲部分。
それらが例の「激ヤバ」対空兵装・2式6連47ミリ対空機関砲であった。(装甲を一部パージして低スペック艦でも運用可能とした)
ミドルレンジに入った瞬間一気に咆哮。
極太の火箭が鞭のように幾重にもしなり、味方機を次々と薙ぎ払う。
そんなイメージすらあった。
「だがそれでも、推して参る!」
自らのアベンジャーを駆り海面スレスレを這う…。
この魚雷をあの空母デカブツのどてっ腹に叩き込む!
隣の機体が海面に叩き付けられ、後席の機銃手は恐怖の叫びを上げているが、無論無視する。
なんという……直近のフレッチャー艦隊の攻撃隊もこれを喰らったのか。
機体に破片が当たる。もっとだ、低空を這え…日本機ヤツラのように…。

1200…1100…1000…OKOK
「喰らえ!」
投下された魚雷。敵の横腹ど真ん中…
そんなのを視認する間も無論なく急上昇。
うおおおお!
敵の弾よ!
俺達を避けろ!
「当たった!水柱!」
意識の隅に機銃手の声が聞こえるが、メイは覚えていない…。

一方で、アメリカ機動部隊周辺も地獄であった。
あっさりと日本の流星改の群れに輪形陣外輪の駆逐艦群が破られ、浸透を許す。
「敵、90ないし100機!」
「なんだこの醜態は!
一機も逃すな撃ちまくれ!」
ハルゼーが吠えるまでもなく、アメリカ機動部隊が完成させた統制射撃システムは無数のボフォース40ミリ機関砲と、電波信管入り両用砲で鉄火の豪雨を築いていた。
何機かは確実に墜とした。
しかし、確実に大半の日本機は海面ギリギリを、まさにペラが海面を叩かんばかりの勢いで飛び驀進してくる。
こいつら全員…プロだ。
アメリカ各艦の対空射撃員は戦慄した。
まずい、まずい。
ついに敵前衛が空母、戦艦群に…!
戦艦ノースカロライナに魚雷2発!
同じくウィスコンシンに3発!!
そして…。
空母フランクリン、爆弾2発命中!
タイコンデロガに3発…
プリンストンⅡ…
「奴ら…攻撃方法を統一している…!?」
ハルゼーの呻きに、カーニー参謀長は一瞬戸惑いを見せたが直ぐに気づく。
敵爆撃機隊で空母の甲板を破壊。
雷撃機隊は戦艦や重巡の喫水線に魚雷を叩き込み、浸水をもたらす。

どちらも恐らく撃沈までは狙っていない。
いかに神がかりな技量を誇る奴らでも、絶対数が足りない。
この質を保って3倍居ればまだしも、我が合衆国のタフネスな艦艇に致命傷までは…
しかし、脆弱な空母甲板を狙い、あわよくば誘爆を狙って艦載機、あるいは人的に甚大な損害を与えることは出来る。
戦艦に浸水を与えて航行に支障を一時的に与え、マリアナ砲撃支援から脱落させることはできる(後方に潜んでいる日本の巨大戦艦が襲いかかってくる可能性もある。)

それでは絶対的な力を誇る筈の我が機動部隊の中軸が麻痺してしまいかねない。
だが、もはや止められなかった。
ニュージャージー、直撃来ます!
「総員対ショック体勢取れ!」
ハルゼー自らも操作盤に掴まる。
立て続けに2発の被雷音と揺れ。
(クソが、いつぞやのアレを思いださせやがって!)
ニュージャージーは傾斜回復、ダメコンの結果速度が25ノットまで落ちる。
が、戦闘と旗艦能力には支障なしと判断され、マシソン艦長とも話し合いハルゼーはそのまま将旗を動かさないようにした。
だが、その旗艦CICで凶報の嵐を受け止める事となる。
大小12隻の空母が中破以上。
戦艦5隻、巡洋艦7隻が被雷1から3本
駆逐艦9隻撃沈。
あの機数で、我が防御網を掻い潜ってのこの命中率…!
悪魔か!
怒りの反撃を命じたいのは山々だが、その後に飛び込んできた凶報に、さすがのハルゼーも折れかけてしまう。
攻撃隊、上空援護合わせ、未帰還が70パーセント超えだと…!

「かなり傷付いてるぞ!胴体着艦かもしれん!」
「救護班急げ!」
攻撃隊収容が完全に夜間となった日本側機動部隊の空母も、それぞれの甲板上が修羅場であった。
(皆、本当によくやってくれた…。)
有り合わせのような臨時編成の航空艦隊。
その中で奮迅したベテラン、エースパイロット達。
少なくともハルゼーの行き足を止め、サイパン方面への支援を大幅に減殺する事ができた。

これには間違いない。
だが、未帰還120機以上…。
いかに甚大な損害を与えても、貴重かつ優秀なパイロット達を…。
予想の内だが最悪を極められてしまった。
山口多聞提督は瞑目した。
艦艇も沈没はなかったが翔鶴以下空母3隻が中破。

十分すぎるほどやってくれた。
あとは司令官としては皆がこれ以上死なぬ判断をすべし。
全艦、反転せよ!

「どうにか生き残ったやでえ…」
瑞鶴甲板で愛機の翼に乗りつつ、藤浪進次郎は煙草をふかした。


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