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圧倒

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「まだ、せいぜい敵主力艦の4分の1弱を削ったに過ぎない。ハルゼーの本隊を含めれば。」
臨時機動部隊旗艦の信濃艦橋で、山口多聞提督は呟く。
それも撃沈は確実なものは駆逐艦数隻のみ、あとは当座の戦闘能力…空母で言えば甲板や下の格納庫破壊…を奪うにとどまるレベルである。
如何に人機一体となったわが航戦が無敵を誇ろうとも、戦力の絶対値が違いすぎる…。

さらには追い討ちをかけるようなハルゼーの本隊が動いたの報告。
それにあえて正面からの殴り合いに応じる。
それが山口多聞、俺の機動部隊の流儀。
そしてその真の目的は…。

各空母の甲板上では全力で発艦作業が行われていた。
整備員でもない一般の水兵ですら、手空きの者は機体移動等を手伝う。
「各艦の電探に感あり!
敵戦爆連合400機以上、接近中!」
報告に山口は拳を握りしめる。
「15分、いや10分以内で全攻撃隊発艦いけるか!?」
「かろうじて…いや、やり切って見せます!」
頼んだぞ…。
攻撃隊を送り出した直後、増派しても艦隊防空に残せる戦力は烈風85機のみ。
あとは対空砲火の槍衾で耐え抜くしか無い。
全将兵、俺と死ね、そして生きろ!!
「岩本一番、出る!」
第二次攻撃隊発進。
敵の本命の攻撃隊。
それが入れ違いに日本機動部隊に殺到したのはそれから10分後であった。

「敵機、200機前後と思われます。」
こちらはアメリカ機動部隊、ハルゼーの総旗艦、戦艦ニュージャージーである。
「フン、こちらの直掩戦闘機より少ないではないか。
高度の優位を保ちつつ、艦隊手前で全て落とせ!」
「イエッサー!」

来たか…。
攻撃隊指揮官友永中佐は呟く。
もう15秒で敵は撃ってくるだろう。
まさに雲霞の如きヘルキャットの大群。
もう一度頼むぞ。烈風隊。わが流星隊。
そしてその心臓たる誉エンジン!

「奇跡はないね♂かかれ!」
上空から隕石群のように急降下するグラマンF6Fヘルキャット。
が…
ぬおっ!消えた!?
またか。いや。これは…。
「上…!だと!?」
瞬間移動でもしたのかコイツら!
烈風隊の上方からの強襲に、3倍近い数的優位を持つ筈のヘルキャットの群れは一時パニックとなる。
「落ち着け!敵戦闘機隊はVF201から5、残りは敵攻撃機隊を叩け!」
しかし、向こうは数的不利がないものかのように次々と味方をブチ墜していく。
う、嘘だろ…
こんなことが…こんな事が許されていいのか!?

装備も数も、錬成訓練も十分と備え、まさにここから本領を発揮するはずの、我がアメリカ合衆国の最強航空機動部隊が…!

「ぬう、これ程とは…。」
静止目標のように次々とヘルキャット群に最大の効率で20ミリ弾を叩き込みつつ、引き出された烈風の真の性能に少なからず畏怖を覚える岩本中尉。
これが誉エンジン…これが烈風…。
そして海軍航空隊の精鋭…!
見えない巨人にカチ上げられたかのような上昇力。
零戦と同等の機動力。
当然数倍となる負荷に耐える強靭でしなやかな機体!
恐らくはヘルキャットより数十キロ優速。
旋回からの立ち上がり…加速力は消えたかのように見えるであろう。
エネルギーを失うどころかエンジンに引っ張られたかのように…。
誉エンジン整備班の整備体系が一新されたのもわかる。
熟練工がなんやかや徴兵から免除され量産品も精度は良好。
決戦用燃料92オクタンをふんだんに今回に関しては使えているのも…
しかし、これほどの駿馬、名馬とは!
最低でも開戦前夜から飛んでいるベテランパイロット陣。
なんやかやと零戦の要所を抑えた防御装備に命拾いをしたものも少なくない。
また、南方作戦で懸念された長期消耗戦の泥沼化もさほどなく、大局的には後退せざるを得なかったとは言え、各個の戦場は一撃で効率よく戦術的勝利を収め、若手もよく働きベテランが反復任務で疲弊し力尽きていくと言う状況は発生しなかった。
例えば藤浪ヤツやその後に来た新人もなんやかや生き残り成長するチャンスが増えたのも大きい。
そして俺たち先任のベテラン自身も、この大戦で更なる高みへ…。
そう、戦死しては何もならない。
生還してこそ、次があってこそ上達がある。
そう若手に檄を飛ばしている俺たちもまた、技量が開戦時と比べ圧倒的に進化しているのだ。
遂に戦闘機隊の勇戦に応えるように、日本攻撃隊はアメリカ機動部隊の外輪に達した。

見える…私にも見えるぞ…。
否、見える、ではない。先任らが言っていた、
「敵機を感じる」ことができている!
藤浪進次郎中尉ら日本機動艦隊上空直掩の戦闘機…烈風隊も猛威を奮っていた。
頑丈なヘルキャットが、アベンジャーが、高初速の20ミリをエンジンやコクピットに浴びて撃破されていく。
たとえ撃墜は免れ、運良く母艦帰投まで耐えられたとしても、高度な戦闘機動はもうできない。

アメリカ攻撃隊指揮官メンチ少佐は呻く。
「クソが、敵が凄腕なのはわかる、機体性能も…しかしどう見ても100機もいない状況で…こちらは250機前後を×2波だぞ!?
まるで彼我の数的優位が逆のように…?」
どうも敵は20数機づつ、3か4グループに分かれ、我が護衛戦闘機、爆撃機雷撃機と担当をきっちり割り振っているようなのだ。
馬鹿な!実質1機で5から7機を相手にするつもりか!?
しかし、実際黒煙を吹いて墜ちていくのは味方ばかりである。
こいつらどういう…。
こちらにも少数ながらベテランはいる。
仮に実戦は初の新人でも高度な訓練を十分に受けている。
素人では絶対にない。
だが、ジャップのパイロットたちの戦技は…
我々全員がヒヨッコ、いや七面鳥ターキーのように…。
まだ、アメリカ機動部隊の悪夢は続く。







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