re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ

俊也

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マリアナの海よ

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日本第二艦隊
「なんだと!山本長官からの命令か!?」
「ああ、だが、軍令部からの厳命でもある。」
「バカな!あと40分もあれば敵は入れ食い状態、サイパン上陸部隊、艦隊を根こそぎ壊滅させられるのに!?」 
山口多聞中将の猛抗議はおそらく全将兵の本音であろう。
戦艦は大和、陸奥のみがフル稼働可能。
しかし重巡以下の水雷戦隊は現在。
砲雷撃で、確実に上陸途中の敵地上部隊とスプルーアンスの主力艦隊を殲滅できる。
もちろんこちらも甚大なる損害は受けようが、これはそもそもそういう決戦ではなかったのか。
しかし、近藤司令は首を縦には降らなかった。
「軍令部からの厳命となれば、是非に及ばずだよ山口くん。」
それは、もちろん山口も理解はしていたのだが…。
日本海軍に根強く残る艦隊保全主義か、それに関連して大和や国民に存在を知られた陸奥を失うのを恐れてか…。
なにか目先の、しかし最重要の戦果より守りたいものがあるのか上は…。

ぐぬうっ、確かに是非に及ばずだが…。なんだが…。
嗚呼、最大の戦機去る…。
数分後、艦隊は本格的な反転機動に入る…。

「命拾いした…かもしれんが油断はするな。
敵の航空攻撃を排除しつつ、5万の友軍と物資を確実に揚陸!」
「ハッ!」
スプルーアンスの再度の命令に幕僚達は改めて自らを引き締める。
ここまでもかなりの犠牲は払った。引き換えに戦果も上げた。
だが、サイパン、テニアン中心のマリアナ諸島制圧に成功せねば何の問題もない。
支援と並行して砲爆撃で敵防衛軍に少しでも損害を与え、島々の制圧が早まれば戦争終結も大きく近づく…。

「よし、当初計画通りの拠点確保次第、飛行場要地を先ず制圧せよ。」
アメリカ海兵隊総指揮を執るスミス少将が叱咤する。
5キロ程度は平坦なエリア、装甲車両を前面に押し出し進軍を開始する…。
!!
突如爆音。
味方の艦砲射撃では…ない!
敵の重砲群…。それもかなりの数を山中などに隠匿していた…!?
「こちらベータ3!敵の猛砲撃を受けている!
早急に排除されたし!」
沿岸の支援艦隊に緊急電。
そうしている間にも敵の砲撃で、精強な海兵隊員や装備が悲鳴と共に薙ぎ倒されていく。
ようやく、沖合の巡洋艦群が艦砲射撃、艦載機群が発射地点を特定の上空爆を開始したが…。
「ひゃっほう!そうは簡単にやられるかってんだ!」
神戸砲兵少佐がはしゃぐように言いながら、念の為ほぼコンクリートの壕に入った重砲群をさらに奥に引き込ませる。
まだまだこんなもんじゃねえぞ?

砲撃が沈黙したか、あるいは敵砲兵が退避したか、
「いずれにせよ前進!夕刻までに飛行場確保!」
各前線指揮官の指示のもと、整然と進撃再開するアメリカ地上部隊。
だが…。
「なんだ!?キャタピラーが!?」
「草むらにバリケードだと!?」
「シット!こっちもジープ2台が!」

そう…草むらや細かい地面の高低差に隠されていたのは、鉄骨3本を立体的に組んだごく単純な遮蔽物であった。
それが飛行場に近づくにつれ密に敷き詰められている。
兵士2人がかりで退かし、進撃を開始しようとしたところ…。
鉄火のオーケストラ。
100丁近い敵の軽機関銃、そして擲弾筒の一斉射撃であった。
それらもまた、飛行場手前や周辺の塹壕やトーチカから撃ち込まれている。
「シット!」
「撃ち返…アーッ!!」
沿岸と上空からの十分な支援砲撃、空爆…。
それらの元に堅実に攻めていた筈であった。
だが、足りない。
「やはり、戦艦群抜きでの艦砲射撃では完全制圧は不可能…艦載機、空母の損害が膨らんだのも…。」
沖合の旗艦インディアナポリスで、スプルーアンスはほぞを噛んだ。
私の責任だ…。
あと36時間待てば、地上部隊増援6万の輸送船団に加え護衛空母や巡洋艦、駆逐艦群も80隻近く駆けつけてくれるが…。
それでも泥沼の地上戦は避けられまい。
最終的には12万対6万の優位は築けると言えども…。
「スプルーアンス閣下、増援が到着次第、機動部隊の残りは一旦ハワイに後退するように、とニミッツ長官からの命令です。」
参謀長の言葉に、スプルーアンスは虚ろに頷いた。

初日の戦闘で実に4000人以上の人的損害をアメリカ側に与えた日本軍は、大いに士気を高め、陸軍守備隊斎藤中将、作戦参謀八原中佐も初動の戦果としては手ごたえを感じていた。
「連合艦隊がついでに沖合の艦隊を蹴散らしてくれればよかったのだが…」
「いえ、斎藤閣下、敵戦艦部隊が艦砲射撃の戦列から離れただけでも、これは僥倖となりましょう。」

一方、疲弊しつつもウルシー泊地に凱旋した連合艦隊である…。
帰路の途中、虎の子の油槽船2隻が敵潜水艦に沈められ、元々辛勝で勝敗が危うい状態であった主力艦隊の帰還がギリギリの線になった。
それで軍令部が焦って反転命令を出した。
その辺の経緯を聞き、当初猛反発した主力の第二艦隊司令部はどうにか頭を冷やしたという態であった。

「まあ、確かに敵さんの戦艦部隊脱落は大きい。いくらアメリカでも2ヶ月以上は、今回並みの機動戦力は出してこれまい。」
「だと良いですが…我が方も戦艦は太平洋に稼働が長門含め3隻…空母、艦載機も…。」

近藤にそう答えつつ、マリアナ、サイパンの方に向け、山口多聞は視線を向けた。
なんとか耐えてくれ…。
おそらくはこの周辺の海と空は、これまで以上に赤く染まることとなろう。


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