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膨張、破綻への危惧よそに
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ワシントンD.C.
ある程度は覚悟していたが…。
いざ本当に奪われると…世論にも、安全を保障すべき軍にも、ここまでの動揺があるとはな…。
複数の新聞を前に、アメリカ合衆国大統領ルーズベルトは嘆息した。
正直、ミッドウェー~ハワイ間でさえ、2200キロ以上は優に離れている。
まして我が本土の西海岸など。
…要するに日本軍に対しては「距離の暴力」と言う圧倒的な防壁、優位が存在するのだ。
しかし、メディアの無責任な煽りに乗った国民の少なからぬ層は、そうした冷静な分析など聞かず、集団ヒステリーの3歩手前の状態に陥っているのだ。
これでは…。
「大統領閣下、この状況では…いわば西海岸を要塞化して日本への備えは万全、と言う国民へのポーズ、と言ってはなんですが、そうした具体的アクションが必要になります。
無論ハワイのが先ですが」
コーデル・ハル国務長官の発言に、陸軍長官が目を剥いた。
「まさか…それを理由にアフリカ戦線への支援、派兵を削るかやめるかしろと申されるか?」
ハルは黙って頷く。
ルーズベルトもコーヒーを口に含むと、致し方あるまいと呟く。
「極力対ドイツのアフリカ戦線、イギリス本土には航空戦力や戦略物資は送り続ける。
しかし地上戦力は到底無理だ。
チャーチル自身も東洋艦隊が半ば壊滅して日本の脅威を体感しているだろうが…」
とにかく各種機動戦力の再建、生産に臨時予算増をしてでも集中する。
今は閣僚高官たちにその方針を再度強調するくらいしかできない。
日本 帝都東京。
「また提灯行列か…まあ悪い事ではありませんが…。」
「実際に勝利したのは事実であろう。
ところで総理にも了承いただきたい件がありましてな。」
杉山元帥陸軍大将。参謀総長である。
「例の中国大陸沿岸部。その打通完全制圧作戦でありますか。」
杉山は頷く。
「陛下にも上奏済み…ただ総理にも了承を得よと仰ったのでね。」
「うむ…そういう事でしたらば…しかし…」
東條は困惑の表情。
いわゆる高級軍人が濫用しがちな帷幄上奏というシステム。
大元帥たる天皇の承認を得れば文句はなかろうとばかりに、ここまでの陸海軍が方向性バラバラに暴走する遠因となっていた。
それにも何か手を打たなければ…。
「とは言え、ここまで膠着しておる支那戦線だ。
やはり何かカンフル剤が要る。
故に、本土防衛25万のうち半分を動員致したい。宜しいな。」
はぁ?
と東條でなければ声に出していただろう。
「今少し参謀本部で検討しては如何か?
ここ最近、敵の潜水艦群が東シナ海にも時折出没してきておる。
海上輸送路の危険も増してくるということだ。
海軍への航空兵力、護衛艦隊の協力要請の件もあります故…。」
「まぁ、そこらは現場の士気を上げることで突貫できよう。
では総理、これは決定事項ということで。」
さっさと茶菓子まで平らげ出て行ってしまう杉山。
どの道血気盛んな下の参謀達から突き上げられての事であろう。
押した方向にされるがままに動く「便所の扉」
と言われるだけはある。
溜め息をつき終わったタイミングで、それまで無言で侍っていた有明一郎が口を開く。
「今回に関しては大丈夫かと…。
北方のアリューシャン列島に関しては海軍の機動部隊(龍驤等の中型空母)が断続的に空爆しては退いてを繰り返してますし、米国といえどもいきなりミッドウェー以西で反撃作戦を行うまでには、簡単には再建できませんし…」
「うむ、まぁ、今回はそうであるがな…」
「一方で閣下の憂慮されることもわかりまする。
完全には無理でも、現状よりマシな統帥権の一本化についてはいかがでしょう、木戸内大臣に根回しをして、陛下に上奏し…『最高戦争指導会議』なるものを設置なされては?」
「ううむ!?」
「陸海軍の両大臣(陸軍大臣は現在東條が兼任)、外務大臣、参謀総長、海軍軍令部総長に、総理たる閣下。
これだけの顕職の方々がそろい、局面によっては天皇陛下の隣席を奏請すれば、6割程度は軍部の統制、政戦両略の一本化がなるかと考えます。」
東條はメモを走らせ、腕組みをする。
確かに、これならば総理の私のみが権力をお上の威を借り独占して、などという批判を免れて大戦略の一本化が出来る…。
そのような計画を具体化し、木戸内府や陛下の賛意を賜った頃。
また敵ではなく味方から、寝耳に水の報せを受ける。
7月20日。
日本海軍陸戦隊2000名でニューギニアの更に南方ガタルタナル島を確保。
その地に航空基地設営を開始せり。
トラック島から進出した機動部隊が交互に制海権、制空権を確保、一連の島の要塞化を援護す。
大本営参謀達の中には、素で、
「ガダルカナルってどこ?」
と訊き返す者さえ居た。
東條は流石に「オーストラリア遮断の為の拠点候補の一つ」としてギリギリ記憶していたが…。
それでも慌てて海軍軍令部や連合艦隊に問い合わせと顛末の確認をしたことには間違いない。
トラック沖、連合艦隊泊地。
「さて、これに大兵力を繰り出してきたアメリカを、思い通りに撃滅撃退できるか…。
だな。
しかもミッドウェーも維持しながら、だ。」
山本五十六司令長官は海図を見て呟く。
「下手をすると長官が恐れておられた消耗戦。
それそのものに巻き込まれる恐れもありますぞ。」
宇垣参謀長の言葉に重く頷く山本。
戦艦長門艦橋の窓からは、最優先建造艦の一つとして(例の一号艦の完成を年末までずれ込ませてまで)この戦線に間に合わせるように就役した、空母「大鳳」の姿があった。
ある程度は覚悟していたが…。
いざ本当に奪われると…世論にも、安全を保障すべき軍にも、ここまでの動揺があるとはな…。
複数の新聞を前に、アメリカ合衆国大統領ルーズベルトは嘆息した。
正直、ミッドウェー~ハワイ間でさえ、2200キロ以上は優に離れている。
まして我が本土の西海岸など。
…要するに日本軍に対しては「距離の暴力」と言う圧倒的な防壁、優位が存在するのだ。
しかし、メディアの無責任な煽りに乗った国民の少なからぬ層は、そうした冷静な分析など聞かず、集団ヒステリーの3歩手前の状態に陥っているのだ。
これでは…。
「大統領閣下、この状況では…いわば西海岸を要塞化して日本への備えは万全、と言う国民へのポーズ、と言ってはなんですが、そうした具体的アクションが必要になります。
無論ハワイのが先ですが」
コーデル・ハル国務長官の発言に、陸軍長官が目を剥いた。
「まさか…それを理由にアフリカ戦線への支援、派兵を削るかやめるかしろと申されるか?」
ハルは黙って頷く。
ルーズベルトもコーヒーを口に含むと、致し方あるまいと呟く。
「極力対ドイツのアフリカ戦線、イギリス本土には航空戦力や戦略物資は送り続ける。
しかし地上戦力は到底無理だ。
チャーチル自身も東洋艦隊が半ば壊滅して日本の脅威を体感しているだろうが…」
とにかく各種機動戦力の再建、生産に臨時予算増をしてでも集中する。
今は閣僚高官たちにその方針を再度強調するくらいしかできない。
日本 帝都東京。
「また提灯行列か…まあ悪い事ではありませんが…。」
「実際に勝利したのは事実であろう。
ところで総理にも了承いただきたい件がありましてな。」
杉山元帥陸軍大将。参謀総長である。
「例の中国大陸沿岸部。その打通完全制圧作戦でありますか。」
杉山は頷く。
「陛下にも上奏済み…ただ総理にも了承を得よと仰ったのでね。」
「うむ…そういう事でしたらば…しかし…」
東條は困惑の表情。
いわゆる高級軍人が濫用しがちな帷幄上奏というシステム。
大元帥たる天皇の承認を得れば文句はなかろうとばかりに、ここまでの陸海軍が方向性バラバラに暴走する遠因となっていた。
それにも何か手を打たなければ…。
「とは言え、ここまで膠着しておる支那戦線だ。
やはり何かカンフル剤が要る。
故に、本土防衛25万のうち半分を動員致したい。宜しいな。」
はぁ?
と東條でなければ声に出していただろう。
「今少し参謀本部で検討しては如何か?
ここ最近、敵の潜水艦群が東シナ海にも時折出没してきておる。
海上輸送路の危険も増してくるということだ。
海軍への航空兵力、護衛艦隊の協力要請の件もあります故…。」
「まぁ、そこらは現場の士気を上げることで突貫できよう。
では総理、これは決定事項ということで。」
さっさと茶菓子まで平らげ出て行ってしまう杉山。
どの道血気盛んな下の参謀達から突き上げられての事であろう。
押した方向にされるがままに動く「便所の扉」
と言われるだけはある。
溜め息をつき終わったタイミングで、それまで無言で侍っていた有明一郎が口を開く。
「今回に関しては大丈夫かと…。
北方のアリューシャン列島に関しては海軍の機動部隊(龍驤等の中型空母)が断続的に空爆しては退いてを繰り返してますし、米国といえどもいきなりミッドウェー以西で反撃作戦を行うまでには、簡単には再建できませんし…」
「うむ、まぁ、今回はそうであるがな…」
「一方で閣下の憂慮されることもわかりまする。
完全には無理でも、現状よりマシな統帥権の一本化についてはいかがでしょう、木戸内大臣に根回しをして、陛下に上奏し…『最高戦争指導会議』なるものを設置なされては?」
「ううむ!?」
「陸海軍の両大臣(陸軍大臣は現在東條が兼任)、外務大臣、参謀総長、海軍軍令部総長に、総理たる閣下。
これだけの顕職の方々がそろい、局面によっては天皇陛下の隣席を奏請すれば、6割程度は軍部の統制、政戦両略の一本化がなるかと考えます。」
東條はメモを走らせ、腕組みをする。
確かに、これならば総理の私のみが権力をお上の威を借り独占して、などという批判を免れて大戦略の一本化が出来る…。
そのような計画を具体化し、木戸内府や陛下の賛意を賜った頃。
また敵ではなく味方から、寝耳に水の報せを受ける。
7月20日。
日本海軍陸戦隊2000名でニューギニアの更に南方ガタルタナル島を確保。
その地に航空基地設営を開始せり。
トラック島から進出した機動部隊が交互に制海権、制空権を確保、一連の島の要塞化を援護す。
大本営参謀達の中には、素で、
「ガダルカナルってどこ?」
と訊き返す者さえ居た。
東條は流石に「オーストラリア遮断の為の拠点候補の一つ」としてギリギリ記憶していたが…。
それでも慌てて海軍軍令部や連合艦隊に問い合わせと顛末の確認をしたことには間違いない。
トラック沖、連合艦隊泊地。
「さて、これに大兵力を繰り出してきたアメリカを、思い通りに撃滅撃退できるか…。
だな。
しかもミッドウェーも維持しながら、だ。」
山本五十六司令長官は海図を見て呟く。
「下手をすると長官が恐れておられた消耗戦。
それそのものに巻き込まれる恐れもありますぞ。」
宇垣参謀長の言葉に重く頷く山本。
戦艦長門艦橋の窓からは、最優先建造艦の一つとして(例の一号艦の完成を年末までずれ込ませてまで)この戦線に間に合わせるように就役した、空母「大鳳」の姿があった。
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