6 / 49
奇策と正攻法の狭間で
しおりを挟む
ホーネット上でドーリットル中佐率いる爆撃隊がエンジンを起動した、その時。
2時方向!敵機接近!
各艦の見張り員が叫ぶ。
一式陸攻40機超だと!?
「バカな!?レーダー員は何をしていた!?」
「恐らくは海面ギリギリを這うように来たのかと!?」
ハルゼーの疑念に対し参謀達はそう答えるしかない。
「ワイルドキャット隊に排除させろ!」
しかし、完全にそのF4F戦闘機隊も逆を突かれた上、念の為の露払いとして25機しか上がっていなかった。
一直線に輪形陣を突破し、必死に追い縋るF4F戦闘機隊に犠牲を出しながらも2隻の空母に殺到する一式陸攻隊。
投下ーッ!
必殺の魚雷が8から10本づつ、エンタープライズとホーネットに向け驀進。
エンタープライズに2本、そしてホーネットには3本の魚雷が突き刺さる!
ぐおっ!
「被害状況知らせ!」
「我が艦もだがホーネットは!?」
ハルゼーの目の前に信じ難き光景。
傾斜したホーネットの甲板から、ずるずるとスタンバイしていたB25が海面に落ちていく。
ダメコン班の必死の復旧作業で、エンタープライズはなんとか航行面では可能。
しかし、ホーネットは…。
致命的な誘爆、沈没は回避したものの、機関復旧は絶望との連絡。
ハルゼーは傍の椅子を蹴りつけた。
なんてことだ…なんてことだ…。
確かにギャンブル的な敵国の首都奇襲爆撃作戦だったにせよ、復活強化に全力を上げる合衆国海軍の、今現在の手持ちの貴重なカードを失ってしまうとは!
「ぐう、半分弱は喰われたか…もう少し近けりゃ零戦の護衛も頼めたんだが…すまねえ。」
日本側臨時編成の一式陸攻決死隊、指揮官の野中五郎大尉はそうひとりごちた。
「しかし、あの情報が的確であったが故の戦果です。
どうにか報われたのが奇跡ですぜ。」
「ああ、正直博打と思ったが…。」
まさか、陸海軍の情報部から回した断片的な敵暗号通信から、本当に精確に割り出してしまうとは…。
目の前でお茶を差し出す青年に、東條英機は畏怖すら感じていた。
「…結果的に、陸攻隊の犠牲や、民間徴用した哨戒の漁船群を沈め、多くの死者を出してしまったことは無念です。」
青年…有明一郎は言葉にしてはそう発するのみであった。
今更だが、君は何者なのかね…。
いずれにせよ、陸海軍総力を挙げての情報戦に勝利し、「帝都空襲」という最悪の事態は避けられた。
だがアメリカは先手先手でこちらが各方面で進撃することを妨害し、なんなら戦力再建途上でも一大反撃戦を仕掛けてくるかもしれない。
それは、改めて警戒を促さねば。
新聞、ラジオではあえて事実を報じて、戦果を讃える一方でなりふり構わず牙を研ぎ澄ましアメリカ始め連合国が反撃の機会を伺っていると軍民問わず引き締めを促す内容とした。
「これで、インド洋、オーストラリア封鎖作戦、そしてミッドウェーを抜きハワイ攻略、が一時的とは言え同時展開が可能になったと軍令部や大本営は息巻いているが…」
呉軍港の長門艦橋で、山本五十六が嘆息する。
「いつから我が戦力は数倍に増えたのか、と心の底から問いたいですな。」
宇垣連合艦隊参謀長が苦笑混じりに言う。
「まあ、確かにホーネットを屠ったのは大きい。
予想以上に燃料関係も含めてアメリカが真珠湾の港湾能力の復旧を成して、さあこれからと言うその出鼻を挫いてやった。
だがやはり、俺は最短距離でアメリカ西海岸に迫って早期講和に拘りたいが…。
そうはいかないだろうな…。」
具体的な連合艦隊のアクションとしては、MO作戦(オーストラリアの北の要衝、ポートモレスビー攻略)の支援としての航空艦隊派遣が、軍令部から求められていた。
実戦部隊の連合艦隊サイドとしては、少し空母部隊、パイロットも艦隊要員も休ませたいところなのだが…。
「陸軍のみならず、第四艦隊も矢の催促ですから仕方ありますまい。
どうしてもというなら臨時の任務部隊として、五航戦に(翔鶴、瑞鶴を基幹)要員機材の再補充なった空母蒼龍を加えて援護の機動部隊としてはいかがでしょう。」
航空参謀の源田の提案に、山本は頷く。
それならベテラン勢も半分は休ませられる。
そしてアメリカ側が手持ちの総力で殴りかかって来たとしても、最悪でも質量双方で負けることは無い。
「しかし肝心なのは…、誰に指揮を執らせるかです。
本来は実戦指揮官は原少将ですが、体調がすぐれないのなんのと…」
宇垣はそう問いかける。
山本は腕組みをしつつ2秒ほど迷った様だが、口を開いた。
「なら、小沢君で行こう、むろん南遣艦隊司令の立場はあるが、誰か代行を補充して、方面にいる提督としては彼が1番航空戦に通じている。
まあ軍令部はうるさいだろうが、そこは俺がなんとかしておく。」
「小沢治三郎中将…ですか。」
宇垣は長官のお決めに成ったことなら、といい、源田実は積極的に賛意を示した。
(で、今はここに俺がいると言う訳か…)
5月1日、ポートモレスビー攻略、通称MO部隊。
将官でもうひとり、この編成の艦隊事情をしる高木武雄少将を副司令官とし、補佐を頼み、ここ旗艦翔鶴に居る小沢中将。
序列上は色々ありえない臨時人事、山本さんとは言えよく通したな、とは思うが…。
とにかく本来は虎の子の航空艦隊の半分の戦力、慎重かつ大胆に任務を遂行しなければ…。
こうして彼の指揮のもと、世に言う「珊瑚海海戦」に日本機動部隊は挑むのである。
2時方向!敵機接近!
各艦の見張り員が叫ぶ。
一式陸攻40機超だと!?
「バカな!?レーダー員は何をしていた!?」
「恐らくは海面ギリギリを這うように来たのかと!?」
ハルゼーの疑念に対し参謀達はそう答えるしかない。
「ワイルドキャット隊に排除させろ!」
しかし、完全にそのF4F戦闘機隊も逆を突かれた上、念の為の露払いとして25機しか上がっていなかった。
一直線に輪形陣を突破し、必死に追い縋るF4F戦闘機隊に犠牲を出しながらも2隻の空母に殺到する一式陸攻隊。
投下ーッ!
必殺の魚雷が8から10本づつ、エンタープライズとホーネットに向け驀進。
エンタープライズに2本、そしてホーネットには3本の魚雷が突き刺さる!
ぐおっ!
「被害状況知らせ!」
「我が艦もだがホーネットは!?」
ハルゼーの目の前に信じ難き光景。
傾斜したホーネットの甲板から、ずるずるとスタンバイしていたB25が海面に落ちていく。
ダメコン班の必死の復旧作業で、エンタープライズはなんとか航行面では可能。
しかし、ホーネットは…。
致命的な誘爆、沈没は回避したものの、機関復旧は絶望との連絡。
ハルゼーは傍の椅子を蹴りつけた。
なんてことだ…なんてことだ…。
確かにギャンブル的な敵国の首都奇襲爆撃作戦だったにせよ、復活強化に全力を上げる合衆国海軍の、今現在の手持ちの貴重なカードを失ってしまうとは!
「ぐう、半分弱は喰われたか…もう少し近けりゃ零戦の護衛も頼めたんだが…すまねえ。」
日本側臨時編成の一式陸攻決死隊、指揮官の野中五郎大尉はそうひとりごちた。
「しかし、あの情報が的確であったが故の戦果です。
どうにか報われたのが奇跡ですぜ。」
「ああ、正直博打と思ったが…。」
まさか、陸海軍の情報部から回した断片的な敵暗号通信から、本当に精確に割り出してしまうとは…。
目の前でお茶を差し出す青年に、東條英機は畏怖すら感じていた。
「…結果的に、陸攻隊の犠牲や、民間徴用した哨戒の漁船群を沈め、多くの死者を出してしまったことは無念です。」
青年…有明一郎は言葉にしてはそう発するのみであった。
今更だが、君は何者なのかね…。
いずれにせよ、陸海軍総力を挙げての情報戦に勝利し、「帝都空襲」という最悪の事態は避けられた。
だがアメリカは先手先手でこちらが各方面で進撃することを妨害し、なんなら戦力再建途上でも一大反撃戦を仕掛けてくるかもしれない。
それは、改めて警戒を促さねば。
新聞、ラジオではあえて事実を報じて、戦果を讃える一方でなりふり構わず牙を研ぎ澄ましアメリカ始め連合国が反撃の機会を伺っていると軍民問わず引き締めを促す内容とした。
「これで、インド洋、オーストラリア封鎖作戦、そしてミッドウェーを抜きハワイ攻略、が一時的とは言え同時展開が可能になったと軍令部や大本営は息巻いているが…」
呉軍港の長門艦橋で、山本五十六が嘆息する。
「いつから我が戦力は数倍に増えたのか、と心の底から問いたいですな。」
宇垣連合艦隊参謀長が苦笑混じりに言う。
「まあ、確かにホーネットを屠ったのは大きい。
予想以上に燃料関係も含めてアメリカが真珠湾の港湾能力の復旧を成して、さあこれからと言うその出鼻を挫いてやった。
だがやはり、俺は最短距離でアメリカ西海岸に迫って早期講和に拘りたいが…。
そうはいかないだろうな…。」
具体的な連合艦隊のアクションとしては、MO作戦(オーストラリアの北の要衝、ポートモレスビー攻略)の支援としての航空艦隊派遣が、軍令部から求められていた。
実戦部隊の連合艦隊サイドとしては、少し空母部隊、パイロットも艦隊要員も休ませたいところなのだが…。
「陸軍のみならず、第四艦隊も矢の催促ですから仕方ありますまい。
どうしてもというなら臨時の任務部隊として、五航戦に(翔鶴、瑞鶴を基幹)要員機材の再補充なった空母蒼龍を加えて援護の機動部隊としてはいかがでしょう。」
航空参謀の源田の提案に、山本は頷く。
それならベテラン勢も半分は休ませられる。
そしてアメリカ側が手持ちの総力で殴りかかって来たとしても、最悪でも質量双方で負けることは無い。
「しかし肝心なのは…、誰に指揮を執らせるかです。
本来は実戦指揮官は原少将ですが、体調がすぐれないのなんのと…」
宇垣はそう問いかける。
山本は腕組みをしつつ2秒ほど迷った様だが、口を開いた。
「なら、小沢君で行こう、むろん南遣艦隊司令の立場はあるが、誰か代行を補充して、方面にいる提督としては彼が1番航空戦に通じている。
まあ軍令部はうるさいだろうが、そこは俺がなんとかしておく。」
「小沢治三郎中将…ですか。」
宇垣は長官のお決めに成ったことなら、といい、源田実は積極的に賛意を示した。
(で、今はここに俺がいると言う訳か…)
5月1日、ポートモレスビー攻略、通称MO部隊。
将官でもうひとり、この編成の艦隊事情をしる高木武雄少将を副司令官とし、補佐を頼み、ここ旗艦翔鶴に居る小沢中将。
序列上は色々ありえない臨時人事、山本さんとは言えよく通したな、とは思うが…。
とにかく本来は虎の子の航空艦隊の半分の戦力、慎重かつ大胆に任務を遂行しなければ…。
こうして彼の指揮のもと、世に言う「珊瑚海海戦」に日本機動部隊は挑むのである。
16
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
日は沈まず
ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。
また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる