5 / 50
快進撃、その裏で。
しおりを挟む
日本海軍の攻勢の中軸にして切り札、第一航空艦隊。
真珠湾攻撃というギャンブルに勝利した代償として、虎の子の航空戦力を3割近く消耗してしまった関連で、再建の為インド洋方面の作戦参加が遅れてしまっていた。
もっとも、結果的には水上艦艇や陸軍航空隊、あるいは海軍の陸上基地部隊の上陸支援等で、全軍レベルでの計画の遅れはさほどなかったが。
強引に第二段攻撃をかけ、あの日に真珠湾の燃料タンク群を破壊したのも大きかった。
勿論オーストラリア方面を補給基地として迂回するなどで全く作戦能力0とはならないが、アメリカ側としては「せめてもの反撃」としての空母機動部隊による各方面への嫌がらせ的攻撃。
さらに重要な潜水艦群によるシーレーン、通商破壊戦の展開に重大な障害になっている事は間違いない。
「それはそれとして…」
山本五十六連合艦隊司令長官は、空母赤城の第一航空艦隊司令部を訪れていた。
「航戦自体の立て直しの事情もあるが、当面は加賀、翔鶴抜きの変則編成でやってもらう。
申し訳ないがよろしく頼む。」
「は、まあ…油断をせねば数的には優勢を保てるかと考えます…」
司令の南雲はそう返す。
「自分も大丈夫とは考えますが…」
やや牽制気味に発言したのは、第二戦隊(今回は蒼龍、飛龍)を率いる山口多聞少将であった。
「気になるのは補充用員としてきたパイロット達です。
内地で十分訓練を重ねたのは分かります。
パイロット大量育成の方針も…。
ただ実戦経験がない者を…。まあ、預けられたからにはベテランの列機に加えて慣らしていくしかないですが。」
「うむ…なるべく長期戦への備えと言うより精鋭で固めて一気に短期決戦と行きたい、俺としても引っかかりがないわけではないが…軍令部の命令に加えて陸軍さんの航空軍も右へならえ…では従うしかあるまい。」
「妙ですね、勿論悪い事ではないが、ここに来て急激な方針転換…かなり上の上で決まっている事としか考えられませんが…。
まぁ、今ここで云々しても仕方ありませんな。」
山口の言葉に、一同は頷き、作戦内容の再確認に話題を移す。
1942(昭和17年)4月2日、南雲中将率いる第一航空艦隊はインド洋に進出。
そして要衝セイロン島への攻撃の前段としてコロンボ空襲を行う。
空母、瑞鶴甲板上。
「直掩戦闘機隊より、順次発進せよ!」
「コンターック!」
幾重もの栄エンジンの唸り。
それが、藤浪の緊張の鼓動をかき消す。
いよいよだ。
初陣…実戦…大丈夫だ…俺は。
「緊張も良いが気負うな、俺の後ろから離れるな。
俺が撃ったら一緒に撃て。
離脱したら一緒に離脱しろ。」
小隊長の岩本徹三飛曹長が肩を叩いてくれた。
精一杯の敬礼を返すと、愛機に飛び乗る。
次々と僚機が発進していく。
頭が真っ白のような、冴え渡っているような。
しかし、繰り返した操作手順を無意識に行い、気がつけば藤浪の零戦は飛翔していた。
で、なんやかやで空中合流も成功する。
緊張で…小便がしたい。
目標到達まで5分を切った所である。
しかし、もうそうした生理的感覚も切らなければ。
藤浪は全周を目を皿にして見渡す。
そして岩本機を見る。
これをひたすら繰り返す。
そして岩本機がバンク、翼を振る動作。
来た、来ていた。敵機だ。
何の機種かなど考える暇はない。
加速、上昇機動に入る岩本機についていくので精一杯。
油断すれば離されそうになる。
気がついたら高速旋回。凄まじいGだ。
ギリギリ耐え、敵機というより岩本機に食いついていくのに精一杯!
だが、照準レクティルに黒い影。
敵機!?
気がつけば引き金を引いていた。
当たっているか、いないのか、20ミリ機関砲の軌道が垂れる弱点もここまで肉薄すれば!?
墜ちろ!墜ちたな…!
しかし、喜ぶ間もなく岩本機はターンする。
!?
そうだ、戦場空域で真っ直ぐ飛び続ける…ことは即、死につながる!
その教えを反芻する余裕も無論ない。
股間の濡れにも気づかず、藤浪はとにかくその後も岩本の影を追いつづけた。
ギリギリ合格ラインの着艦動作をこなし、蒼ざめた顔で風防から出てきた藤浪を、岩本が苦笑しつつ迎える。
「今回は一度もはぐれなかった一点だけで褒めてやる。
まあ、ついでに共同撃墜2機と上にも報告してやるよ。
後方警戒やら何やら、教えることは山ほどあるが、まずはまあ、休め。」
あ、ありがとうございますと敬礼を返すのが精一杯であった。
その後、本命であるセイロン島方面の航空戦。
日本側は圧勝し、空母「ハーミズ」を始めとしてイギリス東洋艦隊に大打撃を与えた。
さらには行動限界ギリギリまで索敵を行い、英サマヴィル提督麾下のもう一つの有力艦隊をも捕捉。
全般に残弾と航空燃料の不足で不徹底だったとは言え、空母「インドミダブル」等の主力艦に中破以上のダメージを与え、イギリス海軍東洋艦隊を一時的にとは言え機能不全に追い込み、間接的にとは言え同盟国のドイツやイタリアのアフリカ方面での戦局に少なからぬ寄与をしている。
4月20日
「いよいよ、復讐の時間だ。」
アメリカ海軍、ハルゼー提督が舌なめずりせんばかりの表情を浮かべる。
旗艦の隣、空母ホーネットの甲板上には、本来空母発進不可能な筈の陸軍B25爆撃機。
あらゆる工夫をこらし、空母発進と友邦中国までの飛行を可能とした。
爆撃目標は、東京。発進まで30分。
今度はこちらが奇襲奇策で殴りつける番だぜ…!?
真珠湾攻撃というギャンブルに勝利した代償として、虎の子の航空戦力を3割近く消耗してしまった関連で、再建の為インド洋方面の作戦参加が遅れてしまっていた。
もっとも、結果的には水上艦艇や陸軍航空隊、あるいは海軍の陸上基地部隊の上陸支援等で、全軍レベルでの計画の遅れはさほどなかったが。
強引に第二段攻撃をかけ、あの日に真珠湾の燃料タンク群を破壊したのも大きかった。
勿論オーストラリア方面を補給基地として迂回するなどで全く作戦能力0とはならないが、アメリカ側としては「せめてもの反撃」としての空母機動部隊による各方面への嫌がらせ的攻撃。
さらに重要な潜水艦群によるシーレーン、通商破壊戦の展開に重大な障害になっている事は間違いない。
「それはそれとして…」
山本五十六連合艦隊司令長官は、空母赤城の第一航空艦隊司令部を訪れていた。
「航戦自体の立て直しの事情もあるが、当面は加賀、翔鶴抜きの変則編成でやってもらう。
申し訳ないがよろしく頼む。」
「は、まあ…油断をせねば数的には優勢を保てるかと考えます…」
司令の南雲はそう返す。
「自分も大丈夫とは考えますが…」
やや牽制気味に発言したのは、第二戦隊(今回は蒼龍、飛龍)を率いる山口多聞少将であった。
「気になるのは補充用員としてきたパイロット達です。
内地で十分訓練を重ねたのは分かります。
パイロット大量育成の方針も…。
ただ実戦経験がない者を…。まあ、預けられたからにはベテランの列機に加えて慣らしていくしかないですが。」
「うむ…なるべく長期戦への備えと言うより精鋭で固めて一気に短期決戦と行きたい、俺としても引っかかりがないわけではないが…軍令部の命令に加えて陸軍さんの航空軍も右へならえ…では従うしかあるまい。」
「妙ですね、勿論悪い事ではないが、ここに来て急激な方針転換…かなり上の上で決まっている事としか考えられませんが…。
まぁ、今ここで云々しても仕方ありませんな。」
山口の言葉に、一同は頷き、作戦内容の再確認に話題を移す。
1942(昭和17年)4月2日、南雲中将率いる第一航空艦隊はインド洋に進出。
そして要衝セイロン島への攻撃の前段としてコロンボ空襲を行う。
空母、瑞鶴甲板上。
「直掩戦闘機隊より、順次発進せよ!」
「コンターック!」
幾重もの栄エンジンの唸り。
それが、藤浪の緊張の鼓動をかき消す。
いよいよだ。
初陣…実戦…大丈夫だ…俺は。
「緊張も良いが気負うな、俺の後ろから離れるな。
俺が撃ったら一緒に撃て。
離脱したら一緒に離脱しろ。」
小隊長の岩本徹三飛曹長が肩を叩いてくれた。
精一杯の敬礼を返すと、愛機に飛び乗る。
次々と僚機が発進していく。
頭が真っ白のような、冴え渡っているような。
しかし、繰り返した操作手順を無意識に行い、気がつけば藤浪の零戦は飛翔していた。
で、なんやかやで空中合流も成功する。
緊張で…小便がしたい。
目標到達まで5分を切った所である。
しかし、もうそうした生理的感覚も切らなければ。
藤浪は全周を目を皿にして見渡す。
そして岩本機を見る。
これをひたすら繰り返す。
そして岩本機がバンク、翼を振る動作。
来た、来ていた。敵機だ。
何の機種かなど考える暇はない。
加速、上昇機動に入る岩本機についていくので精一杯。
油断すれば離されそうになる。
気がついたら高速旋回。凄まじいGだ。
ギリギリ耐え、敵機というより岩本機に食いついていくのに精一杯!
だが、照準レクティルに黒い影。
敵機!?
気がつけば引き金を引いていた。
当たっているか、いないのか、20ミリ機関砲の軌道が垂れる弱点もここまで肉薄すれば!?
墜ちろ!墜ちたな…!
しかし、喜ぶ間もなく岩本機はターンする。
!?
そうだ、戦場空域で真っ直ぐ飛び続ける…ことは即、死につながる!
その教えを反芻する余裕も無論ない。
股間の濡れにも気づかず、藤浪はとにかくその後も岩本の影を追いつづけた。
ギリギリ合格ラインの着艦動作をこなし、蒼ざめた顔で風防から出てきた藤浪を、岩本が苦笑しつつ迎える。
「今回は一度もはぐれなかった一点だけで褒めてやる。
まあ、ついでに共同撃墜2機と上にも報告してやるよ。
後方警戒やら何やら、教えることは山ほどあるが、まずはまあ、休め。」
あ、ありがとうございますと敬礼を返すのが精一杯であった。
その後、本命であるセイロン島方面の航空戦。
日本側は圧勝し、空母「ハーミズ」を始めとしてイギリス東洋艦隊に大打撃を与えた。
さらには行動限界ギリギリまで索敵を行い、英サマヴィル提督麾下のもう一つの有力艦隊をも捕捉。
全般に残弾と航空燃料の不足で不徹底だったとは言え、空母「インドミダブル」等の主力艦に中破以上のダメージを与え、イギリス海軍東洋艦隊を一時的にとは言え機能不全に追い込み、間接的にとは言え同盟国のドイツやイタリアのアフリカ方面での戦局に少なからぬ寄与をしている。
4月20日
「いよいよ、復讐の時間だ。」
アメリカ海軍、ハルゼー提督が舌なめずりせんばかりの表情を浮かべる。
旗艦の隣、空母ホーネットの甲板上には、本来空母発進不可能な筈の陸軍B25爆撃機。
あらゆる工夫をこらし、空母発進と友邦中国までの飛行を可能とした。
爆撃目標は、東京。発進まで30分。
今度はこちらが奇襲奇策で殴りつける番だぜ…!?
16
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。

小沢機動部隊
ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。
名は小沢治三郎。
年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。
ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。
毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。
楽しんで頂ければ幸いです!


甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる