40 / 41
その先にあるもの。互いに譲れないもの。
しおりを挟む
続く明智。
(せめて俺たちの方でもハードスライダーをカットして無力化できれば…)
だが…
『で、出たあ!俺にも出来るとばかりに170キロストレート!』
なんだと…。
コンパクトに、しかし強く叩く!
そう言う気迫で打ちにいくも虚しく空を切る明智のバット。
結局三振であった。
淡々とした表情だが、闘志と怒りは隠しきれない室戸重信。
とにかく攻守交代である。
「やるやんけ室戸!」
「っぱ恵体とパワーしか勝たんわ!」
「彩奈さん…」
そして4回裏である。
(こっちもあの女攻略してんねや。初速のイメージ以上に高い位置にくる速球には…。)
2番竹内は、飛来する彩菜のストレートの体感よりボール2つ分くらいを振る。
だがギアを一旦落とした160キロ前後でなお、ミートは容易ではない。
2球ほどカットしたがそれが精一杯。
カウント0ー2からの5球目を三振。
しかし、続く3番岡田は、2球目のインハイを叩く。
『高ーく上がった!
しかしこれはセンター定位置より一歩下がって…フライアウトです。』
(とは言え…普通に危ないぞ。)
捕球、返球しながらも立浪は危惧する。
明智も腕組み。
(こいつとの対戦のみに全力を温存しようってんだろうが…
他のバッターも超高校級揃い。
彩奈も十分わかっているんだろうが…)
当の本人は歓声の嵐のなか、軽く息をつくのみ。
特に気負いや疲労は感じられないが…。
だが、とにかく…。
4番、ピッチャー、室戸くん。
『さあ室戸だ!
前回は何と総見寺の170キロを特大アーチで打ち砕きましたが…。』
『普通なら勝負を避けるところでしょうが…』
アナウンスをよそに、彩奈は第1球。
!!!?
125キロ。
彩奈の投げた、何の変哲もない棒球ストレートである。それもど真ん中。
かすかに顔をしかめつつも、不動の体勢で見送る室戸。
どよめくスタンド。
「おいなんだ今の?」
「変化球じゃねえな、まさか緩急で裏をかこうとか、そんな感じか?」
「室戸にはそう言う小細工通用しないっぽいが…」
明智も内心驚き、危惧も抱いた。
(まさか、累積疲労で…今までの全力勝負が挑めなくなっているのか…?
考えてみればこれまでの連投その他…仕方のない事だが…。)
だが、それならいまからでも敬遠すべきだが。
そして2球目!
155キロ!しかも右打者の頭をかすめるようにして、そこから弧を描く…。
何だ、アレを投げられるじゃないか…それなら…。
ガキイン!
!!!
『あ打ったーッ!!あの魔球ブーメランスイーパーを膝下に来たところでジャストミート!!
打球は…こんどはバックスクリーンめがけて飛ぶゥー!
飛翔再び!この男に不可能はないのか!?
室戸重信、2打席連続、勝ち越しのホームランだー!』
再び熱狂する全甲子園!
「凄え!あの魔球を打っちまった…。」
「やっぱ室戸しか勝たん!」
「体格パワーだけでなくキャリアも違うしね!」
…流石に、一旦内田はナインをマウンドに集める。
まあ案の定彩奈は、大丈夫だよ。を繰り返すのみだったが、解散間際に一言。
「あの球は打たれても、それで終わりじゃないから。」
??
…とにかく160キロアウトローで5番牛田をしとめ、チェンジとなる。
5回表…。
「ちぇりゃあっ!!」
気迫を前面に出した室戸の豪球。
成川を何と171キロのストレートで三振。
「がおらあっ!」
ゴキッ!
『なんと扇風機枠の山倉くんが当てたあ!169キロを!しかしこれはセンターの守備範囲。』
もちろんがっしりと捕球され2アウト。
(このまま室戸の気迫に呑まれてはダメだ。)
内田は左打席に立つ。
??
『なんとここで、クローズドスタンスです、7番内田。』
かすかに端正な顔をしかめる室戸。
(どう言うつもりだ…今投げてないハードスライダー狙い?逆にあえて誘うつもりか?)
(いや、ただの撹乱だろ。仮に何かあってもお前の本気の球は誰にも打てん。
正攻法でインハイに来い。170キロ級でな。)
キャッチャー牛田のサインに頷く。
その構えでは完全に見えないし、ましてや当てる事など!
「ぜりゃあっ!」
171キロ!そのまさに刹那!
信じられないコンパクトさで、内田の全身がコマのように回り、バットが身体に巻き付く!しかもミート音と共に!
『打ったあー!170キロ超えを、総見寺以外の打者が完璧に捉えた!ボールは右中間ど真ん中に伸びる!』
「何ウソやろこいつ!」
牛田がキャッチャーマスクを外す。
センター、ライトが必死に追う!
「いけえー!」
「抜け!抜けろー!」
ファラリス学園サイドは当然叫ぶ。
(やられた…スタンスは擬態…内田という奴…最初から重心を前脚に置いて、あとはシンプルにそこを軸に身体を回転させて…考えてみればインハイの軌道は前の打席でファウルして、掴んでいたんだ。
あとは身体で覚えたタイミングで知らず知らず単調になったストレートを…)
そして打球の落下点。
センターの赤星がダイブ!
届くか!?
赤星はグラウンドに滑り落ち、2回転してフェンスにぶつかる。
…ボールは…!?
2秒ほどの間を置き、赤星が掲げるグラブにはボールが!
「アウト、アウトーッ!」
どっと湧くスタンド、少なからぬ拍手。
『これは赤星、超ファインプレイ!めずらしく笑顔で室戸もガッツポーズで感謝と賞賛!
』
二塁ベース付近で天を仰ぐ内田。
もちろんベンチもアルプスも思いは同じであった。
だが…
「よーし!いけるぞ!完全に見切った!」
その内田は決勝打を打ったかのようにはしゃぎながらベンチに駆け戻る。
「お、おう!惜しかったな!」
「実質突破口開いたぜ!ナイスバッティング!」
心得たファラリスナインも大声で気勢をあげる。
無論守備位置につきながらだが。
「露骨な負け惜しみだ。気にすんな。」
牛田が室戸の背中を叩いてフォローする。
「ああ、勿論分かっているさ。」
冷静にそう返す室戸重信。
だが、皆の見えないベンチの一角で、何故か不機嫌な表情を浮かべる。
5回裏、結局は160キロ前後の速度域のボールにブーメランスイーパーを組み合わせ。
明智らの心配をよそにあっさりと三者三振に片づける彩奈。
そう、ギアを落としてなお、総見寺彩奈はメジャーリーグ殿堂入りクラスのボールを投げるのだ。(チームメイト含め皆の感覚が麻痺しているが。)
そして…。
6回表、8番児嶋。
(下位とはいえ舐めるなよ…)
そんな戦う顔とは裏腹に、室戸の初球ハードスライダーを腰が引けたスイングで空振ってしまう。
「あー、この回は3人自動アウトだな…」
「大島だっけ?あいつじゃむりだ。」
そんな声がアルプスから聞こえる。
(とは言え、油断はしない)
キャッチャーのサインにうなづき、室戸重信の脚が上がる。
長大な腕からボールが放たれる。
『158キロをインハイ!が打ったあ!!』
!!!
敵も味方も驚愕する。
1.2塁間を抜くライト前ヒット!
彩奈と内田以外では初のクリーンヒットと言ってよい。
「うおっ!凄えぞ高島!」
成川らの声に突っ込む余裕がないほど?児島は高揚していた!
「よっしゃいけるぞ!続け!マジでいけるから!」
ファラリス学園ベンチの皆は顔を見合わせる。
しかし、徐々にその言葉の意味を理解し始める。
続く渡部は送りバント。
一球目はハードスライダーにポイントを合わせ切れずファウル。
しかしフライを打たせようとしたのか2球目、アウトハイに来た156キロを見事にフェアゾーンに転がす。
児嶋の好走塁もあり送りバント成功。
あの室戸重信相手にである。
「あれは…バントをさせようと加減した球じゃない。」
内田の言葉に、明智も気付き強く頷く。
超巨人にして天才。
その室戸重信の球威、キレがじわじわと落ちている!
察した海藤はカット打法に切り替える。
カウント1ー2から3球。
(だったらば…彩奈までこの回回すしかない。
あるいは…)
だが明智らの思いと裏腹に…
「でいや!」
力を振り絞った室戸の160キロに、海藤は三振に倒れてしまった。
立浪に託すしかない…。
今の室戸の160キロオーバー、まるで余裕がなかった事は本人の汗の量が雄弁に物語っていた。
そしてそれまで、無言で座っていた彩奈が立ち上がり、ネクストバッターズサークルに向かう。
そのタイミングで内田が口を開いた。
「彩奈のあの魔球をホームランした時だ。」
「え?速球ならわかるが、落ちてきたタイミングで捉えた変化球にそんな威力が?
確かにその捉えるのは難しいだろうが。」
成川の当然の疑問。
「そう、その重力による落下速度、プラス回転による下向きのエネルギーだよ。
あの球は世界で唯一、初速より打者に近い位置の終速が速い、加速する球なんだよ!」
!!!
「多分、初速155キロが旋回して、3メートルくらいの位置から斜め下に急降下する。
手元で165キロ前後は出てると思う。
それで、基本捉えるのは不可能。
室戸のような天才の動体視力で捉えても予想外の衝撃が手や腕に伝わってる筈だ。
つまり、それを強引にホームランしたとなると…。」
「手首か指がイッてる可能性が高いって事か…」
「恐ろしい子…!」
と最後の一言は生田遥マネージャーのものである。
ファウル!
話している間に立浪のカウントは2ー2。
『疲労でしょうか…室戸の球威が急激に落ちています。
そうは言っても150キロ台前半ですが…』
『うーん、今まで球数を他の投手と分業で抑えてるとはいえ、完投完封能力は十分のはずですし心配ですねえ』
『これで8球目、ああっ、インハイのボールが立浪の肩に!
なんとデッドボールッ!
ツーアウト1.2塁ッ!
さあそして!この試合最大のターニングポイントでしょう!
総見寺彩奈がバッターボックスに入ります!』
監督…!室戸の奴…?
大阪虎狼の部長が問いかけるが…。
「あの娘相手のこのマウンドだけは…テコでも動かんやろ…」
確かに、と、部長も引き下がらざるをえなかった。
絶叫に近い歓声が飛び交う中…。
両者は再び向かいあう。
極力痛みを表に出すまいとする室戸。
彩奈もいつになく鋭い眼光で返す。
脚が上がる。
「ラッセイヤッ!」
162キロ!
彩奈は空振り。
まだこれだけの力が…。
「ええぞ室戸ー!」
「頑張えーっ!」
互いに大きく息をつき、2球目の体勢に入る。
「ずりゃああっ!」
『164キローッをジャストミートォォ!!
ライト一歩も動けず。
伸びる、この弾道は半端ない!
場外か!?場外なのか!?
ああっはるか彼方へ!
甲子園で場外!甲子園で場外!!
総見寺彩奈!!
超特大スリーランホームラーーン!!』
両手を大きく広げながら、観衆の声を一心に浴びてダイヤモンドを一周する彩奈。
対する室戸重信は…マウンド上でガックリ膝をつく。
拍手が巻き起こる。
少なくとも半分以上は、室戸に向けられたものであった。
(せめて俺たちの方でもハードスライダーをカットして無力化できれば…)
だが…
『で、出たあ!俺にも出来るとばかりに170キロストレート!』
なんだと…。
コンパクトに、しかし強く叩く!
そう言う気迫で打ちにいくも虚しく空を切る明智のバット。
結局三振であった。
淡々とした表情だが、闘志と怒りは隠しきれない室戸重信。
とにかく攻守交代である。
「やるやんけ室戸!」
「っぱ恵体とパワーしか勝たんわ!」
「彩奈さん…」
そして4回裏である。
(こっちもあの女攻略してんねや。初速のイメージ以上に高い位置にくる速球には…。)
2番竹内は、飛来する彩菜のストレートの体感よりボール2つ分くらいを振る。
だがギアを一旦落とした160キロ前後でなお、ミートは容易ではない。
2球ほどカットしたがそれが精一杯。
カウント0ー2からの5球目を三振。
しかし、続く3番岡田は、2球目のインハイを叩く。
『高ーく上がった!
しかしこれはセンター定位置より一歩下がって…フライアウトです。』
(とは言え…普通に危ないぞ。)
捕球、返球しながらも立浪は危惧する。
明智も腕組み。
(こいつとの対戦のみに全力を温存しようってんだろうが…
他のバッターも超高校級揃い。
彩奈も十分わかっているんだろうが…)
当の本人は歓声の嵐のなか、軽く息をつくのみ。
特に気負いや疲労は感じられないが…。
だが、とにかく…。
4番、ピッチャー、室戸くん。
『さあ室戸だ!
前回は何と総見寺の170キロを特大アーチで打ち砕きましたが…。』
『普通なら勝負を避けるところでしょうが…』
アナウンスをよそに、彩奈は第1球。
!!!?
125キロ。
彩奈の投げた、何の変哲もない棒球ストレートである。それもど真ん中。
かすかに顔をしかめつつも、不動の体勢で見送る室戸。
どよめくスタンド。
「おいなんだ今の?」
「変化球じゃねえな、まさか緩急で裏をかこうとか、そんな感じか?」
「室戸にはそう言う小細工通用しないっぽいが…」
明智も内心驚き、危惧も抱いた。
(まさか、累積疲労で…今までの全力勝負が挑めなくなっているのか…?
考えてみればこれまでの連投その他…仕方のない事だが…。)
だが、それならいまからでも敬遠すべきだが。
そして2球目!
155キロ!しかも右打者の頭をかすめるようにして、そこから弧を描く…。
何だ、アレを投げられるじゃないか…それなら…。
ガキイン!
!!!
『あ打ったーッ!!あの魔球ブーメランスイーパーを膝下に来たところでジャストミート!!
打球は…こんどはバックスクリーンめがけて飛ぶゥー!
飛翔再び!この男に不可能はないのか!?
室戸重信、2打席連続、勝ち越しのホームランだー!』
再び熱狂する全甲子園!
「凄え!あの魔球を打っちまった…。」
「やっぱ室戸しか勝たん!」
「体格パワーだけでなくキャリアも違うしね!」
…流石に、一旦内田はナインをマウンドに集める。
まあ案の定彩奈は、大丈夫だよ。を繰り返すのみだったが、解散間際に一言。
「あの球は打たれても、それで終わりじゃないから。」
??
…とにかく160キロアウトローで5番牛田をしとめ、チェンジとなる。
5回表…。
「ちぇりゃあっ!!」
気迫を前面に出した室戸の豪球。
成川を何と171キロのストレートで三振。
「がおらあっ!」
ゴキッ!
『なんと扇風機枠の山倉くんが当てたあ!169キロを!しかしこれはセンターの守備範囲。』
もちろんがっしりと捕球され2アウト。
(このまま室戸の気迫に呑まれてはダメだ。)
内田は左打席に立つ。
??
『なんとここで、クローズドスタンスです、7番内田。』
かすかに端正な顔をしかめる室戸。
(どう言うつもりだ…今投げてないハードスライダー狙い?逆にあえて誘うつもりか?)
(いや、ただの撹乱だろ。仮に何かあってもお前の本気の球は誰にも打てん。
正攻法でインハイに来い。170キロ級でな。)
キャッチャー牛田のサインに頷く。
その構えでは完全に見えないし、ましてや当てる事など!
「ぜりゃあっ!」
171キロ!そのまさに刹那!
信じられないコンパクトさで、内田の全身がコマのように回り、バットが身体に巻き付く!しかもミート音と共に!
『打ったあー!170キロ超えを、総見寺以外の打者が完璧に捉えた!ボールは右中間ど真ん中に伸びる!』
「何ウソやろこいつ!」
牛田がキャッチャーマスクを外す。
センター、ライトが必死に追う!
「いけえー!」
「抜け!抜けろー!」
ファラリス学園サイドは当然叫ぶ。
(やられた…スタンスは擬態…内田という奴…最初から重心を前脚に置いて、あとはシンプルにそこを軸に身体を回転させて…考えてみればインハイの軌道は前の打席でファウルして、掴んでいたんだ。
あとは身体で覚えたタイミングで知らず知らず単調になったストレートを…)
そして打球の落下点。
センターの赤星がダイブ!
届くか!?
赤星はグラウンドに滑り落ち、2回転してフェンスにぶつかる。
…ボールは…!?
2秒ほどの間を置き、赤星が掲げるグラブにはボールが!
「アウト、アウトーッ!」
どっと湧くスタンド、少なからぬ拍手。
『これは赤星、超ファインプレイ!めずらしく笑顔で室戸もガッツポーズで感謝と賞賛!
』
二塁ベース付近で天を仰ぐ内田。
もちろんベンチもアルプスも思いは同じであった。
だが…
「よーし!いけるぞ!完全に見切った!」
その内田は決勝打を打ったかのようにはしゃぎながらベンチに駆け戻る。
「お、おう!惜しかったな!」
「実質突破口開いたぜ!ナイスバッティング!」
心得たファラリスナインも大声で気勢をあげる。
無論守備位置につきながらだが。
「露骨な負け惜しみだ。気にすんな。」
牛田が室戸の背中を叩いてフォローする。
「ああ、勿論分かっているさ。」
冷静にそう返す室戸重信。
だが、皆の見えないベンチの一角で、何故か不機嫌な表情を浮かべる。
5回裏、結局は160キロ前後の速度域のボールにブーメランスイーパーを組み合わせ。
明智らの心配をよそにあっさりと三者三振に片づける彩奈。
そう、ギアを落としてなお、総見寺彩奈はメジャーリーグ殿堂入りクラスのボールを投げるのだ。(チームメイト含め皆の感覚が麻痺しているが。)
そして…。
6回表、8番児嶋。
(下位とはいえ舐めるなよ…)
そんな戦う顔とは裏腹に、室戸の初球ハードスライダーを腰が引けたスイングで空振ってしまう。
「あー、この回は3人自動アウトだな…」
「大島だっけ?あいつじゃむりだ。」
そんな声がアルプスから聞こえる。
(とは言え、油断はしない)
キャッチャーのサインにうなづき、室戸重信の脚が上がる。
長大な腕からボールが放たれる。
『158キロをインハイ!が打ったあ!!』
!!!
敵も味方も驚愕する。
1.2塁間を抜くライト前ヒット!
彩奈と内田以外では初のクリーンヒットと言ってよい。
「うおっ!凄えぞ高島!」
成川らの声に突っ込む余裕がないほど?児島は高揚していた!
「よっしゃいけるぞ!続け!マジでいけるから!」
ファラリス学園ベンチの皆は顔を見合わせる。
しかし、徐々にその言葉の意味を理解し始める。
続く渡部は送りバント。
一球目はハードスライダーにポイントを合わせ切れずファウル。
しかしフライを打たせようとしたのか2球目、アウトハイに来た156キロを見事にフェアゾーンに転がす。
児嶋の好走塁もあり送りバント成功。
あの室戸重信相手にである。
「あれは…バントをさせようと加減した球じゃない。」
内田の言葉に、明智も気付き強く頷く。
超巨人にして天才。
その室戸重信の球威、キレがじわじわと落ちている!
察した海藤はカット打法に切り替える。
カウント1ー2から3球。
(だったらば…彩奈までこの回回すしかない。
あるいは…)
だが明智らの思いと裏腹に…
「でいや!」
力を振り絞った室戸の160キロに、海藤は三振に倒れてしまった。
立浪に託すしかない…。
今の室戸の160キロオーバー、まるで余裕がなかった事は本人の汗の量が雄弁に物語っていた。
そしてそれまで、無言で座っていた彩奈が立ち上がり、ネクストバッターズサークルに向かう。
そのタイミングで内田が口を開いた。
「彩奈のあの魔球をホームランした時だ。」
「え?速球ならわかるが、落ちてきたタイミングで捉えた変化球にそんな威力が?
確かにその捉えるのは難しいだろうが。」
成川の当然の疑問。
「そう、その重力による落下速度、プラス回転による下向きのエネルギーだよ。
あの球は世界で唯一、初速より打者に近い位置の終速が速い、加速する球なんだよ!」
!!!
「多分、初速155キロが旋回して、3メートルくらいの位置から斜め下に急降下する。
手元で165キロ前後は出てると思う。
それで、基本捉えるのは不可能。
室戸のような天才の動体視力で捉えても予想外の衝撃が手や腕に伝わってる筈だ。
つまり、それを強引にホームランしたとなると…。」
「手首か指がイッてる可能性が高いって事か…」
「恐ろしい子…!」
と最後の一言は生田遥マネージャーのものである。
ファウル!
話している間に立浪のカウントは2ー2。
『疲労でしょうか…室戸の球威が急激に落ちています。
そうは言っても150キロ台前半ですが…』
『うーん、今まで球数を他の投手と分業で抑えてるとはいえ、完投完封能力は十分のはずですし心配ですねえ』
『これで8球目、ああっ、インハイのボールが立浪の肩に!
なんとデッドボールッ!
ツーアウト1.2塁ッ!
さあそして!この試合最大のターニングポイントでしょう!
総見寺彩奈がバッターボックスに入ります!』
監督…!室戸の奴…?
大阪虎狼の部長が問いかけるが…。
「あの娘相手のこのマウンドだけは…テコでも動かんやろ…」
確かに、と、部長も引き下がらざるをえなかった。
絶叫に近い歓声が飛び交う中…。
両者は再び向かいあう。
極力痛みを表に出すまいとする室戸。
彩奈もいつになく鋭い眼光で返す。
脚が上がる。
「ラッセイヤッ!」
162キロ!
彩奈は空振り。
まだこれだけの力が…。
「ええぞ室戸ー!」
「頑張えーっ!」
互いに大きく息をつき、2球目の体勢に入る。
「ずりゃああっ!」
『164キローッをジャストミートォォ!!
ライト一歩も動けず。
伸びる、この弾道は半端ない!
場外か!?場外なのか!?
ああっはるか彼方へ!
甲子園で場外!甲子園で場外!!
総見寺彩奈!!
超特大スリーランホームラーーン!!』
両手を大きく広げながら、観衆の声を一心に浴びてダイヤモンドを一周する彩奈。
対する室戸重信は…マウンド上でガックリ膝をつく。
拍手が巻き起こる。
少なくとも半分以上は、室戸に向けられたものであった。
1
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
青を翔ける
青葉
青春
中学野球最後の大会
全国大会出場を賭けた地方大会で完全試合という形で敗戦した福岡中央ボーイズ
メンバーだった花咲つぼみはその試合をきっかけに野球への熱を失ってしまう。
仲間から高校でも一緒に野球をやろうと誘われるも、なかなか気持ちの整理がつかなかったつぼみは誰とも違う高校を進学先に選んだ。
私立星翔学園高等学校、元々はお嬢様学校として福岡県内では有名だったが、最近になって理事長が変わり男女共学化が進められ、学校としても新たな歴史を作りつつあった。
高校では部活にも入らず勉強にバイトに華のない平凡な青春時代を過ごそうと考えていたつぼみであったが、とある転校生との出会いから事態は変わってしまう。
仲三河 宗介
中学最後の試合で敗れた相手、福岡スターボーイズのメンバーだった。
野球で進学した高校を辞め、野球部の評判を聞いた星翔学園へと転向してきた宗介は、早速新しい地で部活を始めようと考えていた。
しかし、この星翔学園に存在しているのは「女子」野球部であった。
勘違いから転向早々やらかしてしまった宗介を励ましたつぼみであったが、彼はすぐに立ち直る。
「そうだ!一緒に野球部つくろうぜ!」
その一言から、つぼみの止まった時計が少しずつ動き始める。
新たに出会う仲間とともに、それぞれの高校野球を通して成長を描く物語。
気が向いたら少しずつ話していくから、茶でも飲みながらのんびり付き合っておくれ
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣の家の幼馴染は学園一の美少女だが、ぼっちの僕が好きらしい
四乃森ゆいな
ライト文芸
『この感情は、幼馴染としての感情か。それとも……親友以上の感情だろうか──。』
孤独な読書家《凪宮晴斗》には、いわゆる『幼馴染』という者が存在する。それが、クラスは愚か学校中からも注目を集める才色兼備の美少女《一之瀬渚》である。
しかし、学校での直接的な接触は無く、あってもメッセージのやり取りのみ。せいぜい、誰もいなくなった教室で一緒に勉強するか読書をするぐらいだった。
ところが今年の春休み──晴斗は渚から……、
「──私、ハル君のことが好きなの!」と、告白をされてしまう。
この告白を機に、二人の関係性に変化が起き始めることとなる。
他愛のないメッセージのやり取り、部室でのお昼、放課後の教室。そして、お泊まり。今までにも送ってきた『いつもの日常』が、少しずつ〝特別〟なものへと変わっていく。
だが幼馴染からの僅かな関係の変化に、晴斗達は戸惑うばかり……。
更には過去のトラウマが引っかかり、相手には迷惑をかけまいと中々本音を言い出せず、悩みが生まれてしまい──。
親友以上恋人未満。
これはそんな曖昧な関係性の幼馴染たちが、本当の恋人となるまでの“一年間”を描く青春ラブコメである。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
40歳を過ぎても女性の手を繋いだことのない男性を私が守るのですか!?
鈴木トモヒロ
ライト文芸
実際にTVに出た人を見て、小説を書こうと思いました。
60代の男性。
愛した人は、若く病で亡くなったそうだ。
それ以降、その1人の女性だけを愛して時を過ごす。
その姿に少し感動し、光を当てたかった。
純粋に1人の女性を愛し続ける男性を少なからず私は知っています。
また、結婚したくても出来なかった男性の話も聞いたことがあります。
フィクションとして
「40歳を過ぎても女性の手を繋いだことのない男性を私が守るのですか!?」を書いてみたいと思いました。
若い女性を主人公に、男性とは違う視点を想像しながら文章を書いてみたいと思います。
どんなストーリーになるかは...
わたしも楽しみなところです。
いつか『幸せ』になる!
峠 凪
ライト文芸
ある日仲良し4人組の女の子達が異世界に勇者や聖女、賢者として国を守る為に呼ばれた。4人の内3人は勇者といった称号を持っていたが、1人は何もなく、代わりに『魔』属性を含む魔法が使えた。その国、否、世界では『魔』は魔王等の人に害をなすとされる者達のみが使える属性だった。
基本、『魔』属性を持つ女の子視点です。
※過激な表現を入れる予定です。苦手な方は注意して下さい。
暫く更新が不定期になります。
【本編完結】繚乱ロンド
由宇ノ木
ライト文芸
番外編更新日 12/25日
*『とわずがたり~思い出を辿れば~1 』
本編は完結。番外編を不定期で更新。
11/11,11/15,11/19
*『夫の疑問、妻の確信1~3』
10/12
*『いつもあなたの幸せを。』
9/14
*『伝統行事』
8/24
*『ひとりがたり~人生を振り返る~』
お盆期間限定番外編 8月11日~8月16日まで
*『日常のひとこま』は公開終了しました。
7月31日
*『恋心』・・・本編の171、180、188話にチラッと出てきた京司朗の自室に礼夏が現れたときの話です。
6/18
*『ある時代の出来事』
6/8
*女の子は『かわいい』を見せびらかしたい。全1頁。
*光と影 全1頁。
-本編大まかなあらすじ-
*青木みふゆは23歳。両親も妹も失ってしまったみふゆは一人暮らしで、花屋の堀内花壇の支店と本店に勤めている。花の仕事は好きで楽しいが、本店勤務時は事務を任されている二つ年上の林香苗に妬まれ嫌がらせを受けている。嫌がらせは徐々に増え、辟易しているみふゆは転職も思案中。
林香苗は堀内花壇社長の愛人でありながら、店のお得意様の、裏社会組織も持つといわれる惣領家の当主・惣領貴之がみふゆを気に入ってかわいがっているのを妬んでいるのだ。
そして、惣領貴之の懐刀とされる若頭・仙道京司朗も海外から帰国。みふゆが貴之に取り入ろうとしているのではないかと、京司朗から疑いをかけられる。
みふゆは自分の微妙な立場に悩みつつも、惣領貴之との親交を深め養女となるが、ある日予知をきっかけに高熱を出し年齢を退行させてゆくことになる。みふゆの心は子供に戻っていってしまう。
令和5年11/11更新内容(最終回)
*199. (2)
*200. ロンド~踊る命~ -17- (1)~(6)
*エピローグ ロンド~廻る命~
本編最終回です。200話の一部を199.(2)にしたため、199.(2)から最終話シリーズになりました。
※この物語はフィクションです。実在する団体・企業・人物とはなんら関係ありません。架空の町が舞台です。
現在の関連作品
『邪眼の娘』更新 令和6年1/7
『月光に咲く花』(ショートショート)
以上2作品はみふゆの母親・水無瀬礼夏(青木礼夏)の物語。
『恋人はメリーさん』(主人公は京司朗の後輩・東雲結)
『繚乱ロンド』の元になった2作品
『花物語』に入っている『カサブランカ・ダディ(全五話)』『花冠はタンポポで(ショートショート)』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる