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闘いはグラウンドのみならず?総見寺家の力。

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「私が聞きたいのは一つだけ。」
黒石舞衣子の別宅であった。
「何故?ちゃんと総見寺彩奈を潰せるネタを用意出来なかったのか!?」
安楽椅子に座り脚を組んだ舞衣子の前に正座して並ばされているのは、この場にあまり相応しくない半グレ風の男達5人。
「そんな、つか、過去のやらかした事ならなんでも良いって言ったのは…。」
「言ったから何だ?私が間違っていたとでも言うのか?
『直近』でのちゃんと処分対象になるネタ。
それが必要とされていることくらい理解しろ。」
(あーあ、察して分かってって、女はコレだから…。)
「女はコレだから何だ?言ってみろ。」
「ヒィッ、そ、そんな事は…(し、思考が読まれてるっ)」
「よいか?この国のファーストレディになる私に、私より輝いている同い年の女がいる。
そんなことはあってはならない。
理解したのなら動きなさい!」

「「オ…オス!」」

準決勝の朝を迎えたファラリスナイン。
「どーしたキャプテン、ガチャ爆死でもしたか?笑」
朝食後に成川がリラックスした調子で内田に話しかける。
「いや…彩奈さんへのメッセージに既読つかないんだよ。」
明智と顔を見合わせる成川。
「?別に普通じゃね?
朝の起床時間スルーってだけで、いつも朝飯には遅れて来てたんじゃねえか。
疲れていつもより寝坊してるだけだろ」
「まあ、出発の30分前とかになってそれでも来ないってんなら生田さんに見に行ってもらえよ。」
「う、うん、まあ、それもそうだな。」
明智の提案に、一応素直にスマホを引っ込める内田。

明智は明智で、昨夜の通話でのやり取りを思い返していた。
勿論、黒石舞衣子との。
向こうから半ば一方的に、大会終わってからのディズニー楽しみだねとか、例のパーティの件とかをマシンガンのようにまくしたてていた。
毎回そう、と言う訳では無いが、何か後ろめたいことがある時にありがちな彼女の話し方である。
だが何となしに彩奈のスキャンダル(一夜で鎮火したにせよ)の件を問い糺すタイミングを失ってしまった。

まあ、いいか、自分自身の事には後で対処すればいい。とにかく今日、そして勝てれば明日。
悔いなく戦い抜ければ。
そう、総見寺彩奈と…。

「え?いない!?」
食堂出てから15分後のミーティングの席、彼女は彼女で用事があって彩奈の部屋を訪れた生田遥マネージャーから報告があったのだ。
「おい!どう言うつもりだ!」
鈴井監督の怒声はスルーしつつ、皆がどよめく。
「気まぐれっ子とは言え今までこんな形で抜け出すとかなかったぞ。」
明智の疑問に成川は天を仰ぐ。
「いくらなんでもここまで風呂敷広げといていきなりドロンとはありえねーよなあ…勘弁してくれよ…」
「仕方ない。もし間に合わないなら俺たちだけで頑張るしか無い。
京都文大附も手強いけど、明智先発で俺らで頑張れば決勝には行けるかもだぜ。」
渡部の言葉にみなが頷く。
しかしどうする?
警察沙汰にはするのか?
失踪なのかそれとも…。
皆の話題がそちらに行きかけていた時、いつの間にやら廊下に出ていた内田が戻って来た。
「今彩奈…さんのお父様とお話をして…。
『我が家の娘がご迷惑をおかけして申し訳ない。
この件は内々にて速やかに解決して間に合わせる。試合に関しては体調不良で近隣の病院で治療中と伝えて多少は遅れても参戦できるよう高野連に手配する。』
だ、そうだ。」
顔を見合わせるファラリス学園ナイン。
「じゃあ俺たちで出来るのはそれを信じて、話を合わせて戦うだけだ。
で、マウンドには俺が上がる。
よろしいですね?監督。」
「ああ、ああ。当たり前だ。何を今更。
きちんと責任を果たせ。」
「了解です。」
ニヤリと明智洸太郎は返した。
内田も胸の中の鉛のような不安を隠し、ナインを鼓舞する…。

総見寺邸。
「平八郎さんがいるとは言え不安だわ…。」
妻の言葉に重く頷く当主の信秀。
「ああ、私たちの娘を誘拐するとは…
何という事をしてくれたんだ。
一番の不安が的中しなければ良いが。
奴らは自分たちがワカッていないのだ。
その前に、彩奈を確保保護しなくては。
もちろん、我が家族への最大の侮辱をした報いは万倍にして返させてもらうぞ。」

既に現地の執事平八郎には、警視庁の公安やサイバー部門からの情報が逐一入って来ていた。
「お嬢様の居場所、特定できましたぞ。
今より最速で参ります。
旦那様のご友人には感謝を。
ええ、お任せください。
いえいえ…
老骨にはちょうど良いリハビリ任務です。
先々代より80年以上、色々とございましたが、これなぞは非常時のうちに入りませぬ。
では久方ぶりに出ます…
いえ、『出撃』致します故!」
平八は黒いライダースーツを見に纏い、見たこともない機種の白いリッターバイクに乗り、次の瞬間には猛加速していた。

一方、大阪南港の廃倉庫。
「何だよ。部屋に吹き込んだガスで半日は寝てると思ったが、目を覚ましやがった。」
「いいねやっぱ身体付きとかたまんねーなオイ。早くヤりてえなー」
「バカヤロー!そいつは大会が終わっての話だ。
あのお方の言う通り、拘束してもメシは食わせる。まだ大事な人質様だ。」

DQNと言うか半グレと言うか…。
つまりはそういう集団が数十名、武装して群れていた。
彩奈は椅子に縛り付けられ、口元も塞がれている。
が、目は死んでいない。
隙を伺うというよりは、時機を待っている。そんな表情であった。

「まーお前も大人しくしてりゃあ…」
!!!
それなりに修羅場、暴力を知っているからこそ、感じる殺気!
バァン!
鉄の扉が開かれ、のしのしと歩いて来る黒ずくめの男。
なんだぁ…テメェ…
近づいた二人が空中2段蹴りで膝と顎をそれぞれ砕かれる!

サツか?
いやなんかそれよりもヤバい奴の匂い。
「全員でかかって殺せ!」
体格で上回る上に数の暴力と鉄パイプやダガーナイフ等の凶器持ち。
負けるはずが。
ごばっ!
あらばまっ!?
ぶれあ!?

なんだこいつ…。
速さと力、技が尋常でない。
戦闘のプロだ。
皆に恐怖が伝染し、身体が硬直してしまう。
何者…ぐげこっ!
最後の1人…となったリーダー格が、彩奈の喉元にナイフを突きつける。
「う、動くんじゃねー!さも無いとこの女が…」
ありがちだが有効な手段の筈。

「…それは…やめた方がいい。」
!?
完全に命を握っていると思った少女が…

パァンバキイン!!
縛っていたロープと手錠、口元の拘束具がちぎられ、胴回し回転蹴りがナイフ男の脳天を直撃するのがほとんど同時であった。
「な…ばか…な!」
そう言ったきり男が昏倒してしまう。

黒ずくめの男…執事平八が「お嬢様」の足元にかしづく。
「遅くなり申し訳もありません。彩奈さま。」
「実際遅いよ!私が1人で片付けでも良かったけど、その後の足がないからハッチーを待ってたのに!
…でも、無理させたね、ありがとう。」
「恐れ入ります。
では行きましょう。少々手荒になりますが…。」
「いいよ、慣れてる。」
謎のバイクが今度は総見寺家の令嬢をタンデムシートに乗せ、爆音と共に走り出した。

「なんやあいつ!天下の大阪府警のパトカー舐めとんのか!!」
猛然と公道で追尾するGTーRのパトカー。
が。
「は、速すぎィ!!」
錯覚だろうか、推定200キロから更に加速した時、マフラーからロケット噴射がされたような…。
そして、無事対象を見失った後、本部から謎のお達しが来るのであった。

阪神甲子園球場。
『果たして総見寺彩奈は来るのでしょうか!?
エースと主砲を欠く中…しかし1回表は2年生から背番号1を背負った明智洸太郎くんが3者連続三振スタート。
だが京都文大附もエース桐敷の前にファラリス学園三者凡退、2回の表です。』
『4番中村は要警戒の打者ですよ。』
そう注意を促す解説は鍛治山氏であった。

アウトローにストレート。
「ボール!」
!?
軽くどよめく観衆。
明智もかすかに顔をしかめるが、流石に抗議ムーブは行わない。
2球目。2シームシュートで内角を抉る。
「ボール!」
『んー2球とも中村くんよく見ました、なのか手が出ないのか?
際どいが判定はボールです。』
『どちらも申し分ないキレと制球なんですがねえ』

「なんじゃそりゃー!おい主審!」
「京パイヤかおのれは!」
そんなヤジも飛ぶが、主審は無表情。
仕方ない、確実にカウントを。
アウトローだがやや内より。
150キロ超えの4シームで確実にストライクを…。
その3球目!
カキィン!
独特のフルスイングとバット投げ!
『ああっ中村打ったー!
行くな、超えるな!そんなファラリス学園の思いをよそにレフトスタンド一直線!
152キロですがすこし甘かったか!』
しまった…失投だ、シュート回転が真ん中に…。
あまりにも痛い1点のビハインド…。
明智は唇を噛む。
その興奮冷めやらぬ中、5番新井に打ちとった当たりをポテンヒットされる。
どよめく甲子園の大観衆。
このままもしかして…。

「お ま た せ」
!!
すっとベンチ奥に現れた人影を視界隅に確認し、明智はタイムを願い出る。
『あ、コレは何でしょう?ファラリス学園ベンチが…』
鈴井監督がなんとも言えないような表情で、しかし審判に選手交代を告げる。

『酒井くん(2年控え)に替わりまして明智くんがライトへ。
ピッチャーは、総見寺さん。』
再び甲子園に、彼女しか起こし得ない歓声のうねりが巻き起こる!
『どこへ行ってたんだ彗星の魔女!天才二刀流少女!!
俺たちは君を待っていたッッッ!
総見寺彩奈の登場ダァーッ!!!』











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