上 下
34 / 41

個と総合力のシンクロ 最後に勝つのは?

しおりを挟む
そして2回表は成川。
(敢えて力で挑んでやる。)
腰、そしてヘソの下の丹田に気を込め構える。
(イキっても無駄だ。俺の球は…。)
西郷は第1球153キロ。
(シンプルに、レベルスイングでぶったたく!)
ゴキイン!
『あー成川初球を打ち上げたー!
ポテンヒットか?
セカンド後方、ライト、センターも走る!
あっ危ない!』
セカンドとレフトが交錯。
ボールは?
『捕ってます!セカンド那須くん!高々とボールを掲げて!』
どっと湧くアルプススタンド。
ぶつかったのが肩同士で目に見える怪我はない。両者とも。
しかし…
(最後あのセカンド、ダイブして捕りにいきやがった…
連携が上手くいかなかったで済ませず極論死んでも捕りにいく。
全員が空恐ろしい勝ちへの執念を…。
結局俺は西郷のタマに手を痺れさせただけ…。)
「結構手元での変化、エグい…。」
報告しかけた成川に、ベンチの明智が打席方向を指差す。
え?山倉?
『あーっと初球からフォークに山倉は空振りー』
『ダメですねえ。全般にファラリスの野球は雑すぎます。』
(思った通りの扇風機だな。
まあ念の為内角えぐっとくか。)
(オーケー)
キャッチャー吉川のサインに頷く西郷。
当ててみろ!
154キロ!
ゴキッ!!!
『なんと山倉くん、ミートして打ち上げたー。
しかしこれはバットの根っこ。詰まったショート、いやレフトフライか?』
これでツーアウトか…。
誰もがそう思ったとき。
?!?
『ああ詰まっている!詰まっている!
風はむしろ追い風だが打球は落ちない!
詰まっている!だが!』
(な、なんじゃそりゃあああああ)

打球はなんとレフトスタンド中段に跳ねる!
『入った!恐るべき山倉の怪力!
理論を超えたパワー!
とにもかくにも同点ソロホームランだぁー!!!』

「アレックス・カブレラアッー!!」
天高く肩から生えた脚を突き上げ勝ち誇る山倉!

「うおおお!やりやがった!」
「いいぞー倉っち!」
「飛距離でマイルたまるぞ!」
ベンチはもちろん、ファラリス学園応援席はお祭り騒ぎだ。

『こんなの野球とは言わんですよ』
廣岡氏の呟きはアナウンサーにもスルーされてしまう。
(なんなんじゃクソ!)
ギリギリ怒りをセーブして、7番内田、8番渡部をそれぞれ強烈な当たりながら打ちとる西郷。

そして彩奈。
スピンレートのみギアチェンジで、下位打線を三者連続三振に討ち取る。  
流石に3000回転/分手前くらいの回転数で160キロ超え連発されるとバントやカットすらままならない。
「ぐぬぬ、やはりこうなると島津に託すしかなかとや…。」
山内監督はそう呻くしかない。
そして、ファラリス学園の攻撃、3回表。海藤がポテンヒット、立浪が送っての場面。
ワンナウト2塁。
ここでその山内監督が動く。
不満顔だが従うしかない西郷。
そう…
『あー!総見寺を申告敬遠!ランナー2人で明智、成川に対するリスクの方を取ります薩摩総合!』
当然、全甲子園からブーイングの嵐。
『うーん。怖がりすぎでないですかねえ。
観客、ファンのマナーもアレですが。』
とは廣岡氏の言。
「舐めやがって、明智、わからしてやれ!」
「当然だ。」
成川の言葉に、明智はフルスイングの素振りで応え、打席に入る。

(油断はしないがお前らには打たせん。)
ダブルスチール等に警戒しつつ、しかし打者に集中する成川。
さすがに意識してのクイックモーションから…152キロの蛇直球。
明智はファウル。
ランナーに動きなし。
一球インコースに外す。
そして3球目。
フォークをからぶ…
掬い上げた!!
響く快音!
「なんだと!?」
『あーっ!明智の打球は左中間真っ二つコース!
センター、ライトが追うが…!』
破れー
捕れえ!追いつけえ!
両軍はそれぞれに叫ぶ。
センターライト双方がダイブ。
しかし交錯こそしないがただ虚しく芝生を滑るだけ。
抜けた!
ハーフウェイで様子見していた海藤が走り出す。
「戻れっ!」
他ならぬ彩奈の声。
『なっなんと、センター志布志が掴んでた!
起き上がると同時に2塁送球!
海藤も最速で戻るが間に合わず!
最悪のゲッツーだあ!
しかし素晴らしいガッツです!薩摩総合守備陣!』
がっくり、と心理的擬音が似合いそうなファラリスベンチ。
とは言え…海藤の判断は責められまい。
どうみてもセンター自身、数パーセントの強運でグラブに入っていた。と言うレベルのレアケースである。

『アレはボールがどこに行ったか確認してから判断すると言う基本をですな…そう言うとこなんですよ。』
廣岡氏はそう宣うが、もちろん両チームには聞こえない。
だが…。
嫌な流れを何事も無かったように断ち切る彩奈の快投。
2回裏から6者連続三振。
2番菅野がカウント0ー2から2球カットで粘るのが精一杯。

が、4回表の西郷も負けていない。
成川を粘られながらもセンターフライ。
そして全球150キロ超えで山倉には真っ向勝負!
「どるあああああ!」
「チェストーッ!!」
三球三振!
その意気に飲まれ内田もセカンドゴロ…。

さあそして…。
4回裏、なんとしても出てやると気迫の構えの西郷を165キロで空振り三振に取る彩奈。
『さあ島津だ!』
再び全周が湧き上がる甲子園球場。
帽子を被り直し整える彩奈。
そしてどっしりと構え、周囲を穏やかに威圧する島津義正。
互いに一瞬だけ、軽く笑みを交わし合う。
(入って行けない空間だな…)
投げる前から勝負は始まっている。
そんな空気を明智などは感じていた。
足が上がる。
その初球!
『166キロを空振り!はっきりとここに来てギアチェンジしたか総見寺!』
『ですからスピードガンの数字でどうこうと…』
圧倒的に盛り上がるアルプススタンド。
「彩奈さんすごい!」
「パネえぜ2人とも!」
「またぶち込め島津ゥー!」
そして彩奈は、彼女としてはシリアスな表情を浮かべ、2球目。
『167キロを撃ち返したあー!行ったかー!!逆方向レフトへ高々と!』
「うおおお!行ったー!」
「飛距離は十分!」

だが薩摩総合にとっては無情なことに、ポール際ではっきり切れてしまう打球。
ファウル!
「あー惜しか!」

「助かったーっ」
「胃薬が足りねえ!笑」

すこし、表情が緩む彩奈。
呼吸を整え、いつも通りにモーションに。
(まさか。さらにギアを?)
胸騒ぎを覚える明智。

第3球!
アウトハイはるか高くに大きく外れ…ではなかった。
そこから袈裟斬りのような軌道で加速をかけるように急旋回しインローに!
流石に空を切る島津のバット!
キャッチャーの山倉はかろうじて飛びつき押さえる。
『ぎええ!曲がった!曲げた!ありえない軌道!
球種分類はともかく総見寺彩奈、野球を始めて実戦初の変化球を解禁ッッ!
これは島津も追い切れなかったーっ!!』
「マジかよ最初から投げろよ笑」
「いや、島津程の打者だから使う気になったんだろ。」
「やばいわ彩奈さん!」

「いやー、参ったばい」
苦笑しつつ引き上げる島津の背中に、彩奈はいたずらっぽい笑みを見せた。


しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】君たちへの処方箋

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:255pt お気に入り:23

完璧な計画

経済・企業 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

三途の川で映画でも

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:13

あの世はどこにある?

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:23

私の主治医さん - 二人と一匹物語 -

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:506

【完結】私の婚約者は、いつも誰かの想い人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:10,458pt お気に入り:3,668

僕《わたし》は誰でしょう

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:654pt お気に入り:21

猫と幼なじみ

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:397pt お気に入り:249

処理中です...