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なんだか知らないうちに…整いました!?
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「彩奈、今日は一緒に朝食を食べよう。」
朝、ノックの音と共に聴こえてきたのは父親の声だった。
そういえば父、信秀の声自体が久しぶりだ。
生活サイクルが屋敷の中でも完全にずれて(ずらして)いたし…。
普段は野菜ジュース飲む程度で車に送られてぎりぎりの時間に学校にいくのだが…。
食堂から漂う否応なしに食欲をそそる匂いを嗅ぐと…。
まあ、適当に流しておけばいいか、あと面倒な怒らせ方をしなければ…
両親以外は、理化学研究所に勤めている姉だけだった。
(と言っても高校時代までバスケと陸上の二刀流で、才色&文武両道である)
5分間食器とフォーク、スプーンの音だけが流れた後、父親が口を開いた。
「平八から話は聞いた。
野球をやりたいのか?」
いきなりきたー。
「うーん。わかんない。」
彩奈の反応にため息をつくと、不意に父親が背筋を正す。
空気が少し変わった。
「いつもの反応の仕方で本当にいいのか。
あれほど生き生きと、輝いているお嬢様は見たことがないと言っていたぞ?
参加のルールがどうとかでなく、お前の、彩奈の意志が聞きたい。」
今度は彩奈がため息をついた。
実際のところ、無いのだ。
私はこうしたいと自己主張した事が。
いつからだろう、どうせ…。と、親や世間から向き合うのをやめたのだ。
「今回も気まぐれで済ますなら勝手にすればいい。
だが、後悔はないようにしろ。」
今が、そのときなのかも。
めんどくさいけど、でも。
「やって…みたい、野球。」
思わず姉が久しぶりに真っ直ぐこちらを見てきた。
少し母の目が潤んでいた。
父、総見寺信秀は重々しくうなずく。
「よし、わかった。やる上での問題は父さんがなんとかする。
一つだけ約束しろ。
やるからには男の世界だろうがなんだろうが、負けるな。絶対に一番になれ。
それも堂々とだ。」
「うん、わかったよー。」
いつものような受け答えとは裏腹に、彩奈はかつてない昂りを感じていた。
「旦那様、お車が…。」
「うむ、ありがとう平八。」
母と共に正面玄関に向かう父。
「私たちは間違えていたのかもしれないな」
「はい…」
「最終的にあの子が、一番化けるのかも知れない。」
そして、放課後を迎えた学園。
またいつものように明智や成川ら目当ての女子ギャラリーが遠巻きにグラウンドを見る中。
制服…ではなく体育ジャージ姿で、てくてくとグラウンドに真っ直ぐ歩く少女。
むろん総見寺彩奈である。
「ちょ…また来てるよ?」
「あいつ?うそぉ?頭おかしいんじゃ無い?」
そして当然。
「おい!昨日のメスガキ!話聞いてなかったのか!!?(グラウンドとの境界)またぐな!
またぐなよ!!またぐなタココラ!」
野球部監督鈴井啓司の怒鳴り声である。
さすがに驚きつつも見かねたランニング中の明智洸太郎が間に入ろうとした時。
スマホのアラーム音。
彩奈のではない。
監督のポケットの、である。
苛立ちながら取り出す。
「今練習指導中…え!?高野連!?」
部員達も驚きの顔。
「は、はい!ファラリスの鈴井でございます!
こ、これは会長自ら…しかし何故…。いやそんな…え!?
いえはい!かしこまりました!」
監督の表情が改まる。
「そ、総見寺彩奈…さん。硬式野球部入部を許可する。
書類やユニフォーム採寸は練習終わりに参加するから、そっちの明智らについてピッチャーとしての練習をするように!」
「あっはーい。よろしくみんな。」
なんとなく、どよめいていた部員達は明智に釣られ拍手で出迎える形となった。
「え!?何この流れ!?」
「マジでありえなーい!」
「あ、舞衣子さん!」
これまた名家の令嬢の(そして明智に御執心の)
朝倉舞衣子が憤然と去っていく。
そんな姿さえ優雅であったのは流石であったが。
「結構おこだよ、あの様子。」
「それな、明智くんもあの様子だし。」
やだよ疲れるー。
ポール間のダッシュメニューをこなしながら、しかし彩奈は一緒に走っている明智洸太郎より身体一つ先をカモシカのような快脚でリードしていた。
その日の夕刻。
「いや、手間かけさせて済まないな。持つべきものは現役文部科学大臣の友人だ。」
「都合のいい奴だな。。まあ、なんとか新たな改革の目玉という方向に持っていくよ…
しかし、お前のお嬢さんはそんなに凄いのか。
あまりのことに動画さえ野次馬は撮り忘れたというが。」
「そこは心配には及ばん。
総見寺に流れる血と言うものだ。」
「なるほど…ね…」
翌日、高野連会長の公式会見で、女子部員の試合参加が今大会より正式に認められたとの発表があった。
しかしそもそもの選手登録期日を過ぎていたし、彩奈のような少女が日付をさかのぼる形で登録されていた…。
事に気づく者はおらず、マスコミも芸能人の不倫騒ぎの方に忙しく、一時的に驚きを持って迎えられたにとどまった。
もちろん全国の野球女子には朗報であったにせよ。
しかし、「彼女」がベールを脱ぐのは、夏の予選東東京大会初戦、当日を待たねばならなかった。
朝、ノックの音と共に聴こえてきたのは父親の声だった。
そういえば父、信秀の声自体が久しぶりだ。
生活サイクルが屋敷の中でも完全にずれて(ずらして)いたし…。
普段は野菜ジュース飲む程度で車に送られてぎりぎりの時間に学校にいくのだが…。
食堂から漂う否応なしに食欲をそそる匂いを嗅ぐと…。
まあ、適当に流しておけばいいか、あと面倒な怒らせ方をしなければ…
両親以外は、理化学研究所に勤めている姉だけだった。
(と言っても高校時代までバスケと陸上の二刀流で、才色&文武両道である)
5分間食器とフォーク、スプーンの音だけが流れた後、父親が口を開いた。
「平八から話は聞いた。
野球をやりたいのか?」
いきなりきたー。
「うーん。わかんない。」
彩奈の反応にため息をつくと、不意に父親が背筋を正す。
空気が少し変わった。
「いつもの反応の仕方で本当にいいのか。
あれほど生き生きと、輝いているお嬢様は見たことがないと言っていたぞ?
参加のルールがどうとかでなく、お前の、彩奈の意志が聞きたい。」
今度は彩奈がため息をついた。
実際のところ、無いのだ。
私はこうしたいと自己主張した事が。
いつからだろう、どうせ…。と、親や世間から向き合うのをやめたのだ。
「今回も気まぐれで済ますなら勝手にすればいい。
だが、後悔はないようにしろ。」
今が、そのときなのかも。
めんどくさいけど、でも。
「やって…みたい、野球。」
思わず姉が久しぶりに真っ直ぐこちらを見てきた。
少し母の目が潤んでいた。
父、総見寺信秀は重々しくうなずく。
「よし、わかった。やる上での問題は父さんがなんとかする。
一つだけ約束しろ。
やるからには男の世界だろうがなんだろうが、負けるな。絶対に一番になれ。
それも堂々とだ。」
「うん、わかったよー。」
いつものような受け答えとは裏腹に、彩奈はかつてない昂りを感じていた。
「旦那様、お車が…。」
「うむ、ありがとう平八。」
母と共に正面玄関に向かう父。
「私たちは間違えていたのかもしれないな」
「はい…」
「最終的にあの子が、一番化けるのかも知れない。」
そして、放課後を迎えた学園。
またいつものように明智や成川ら目当ての女子ギャラリーが遠巻きにグラウンドを見る中。
制服…ではなく体育ジャージ姿で、てくてくとグラウンドに真っ直ぐ歩く少女。
むろん総見寺彩奈である。
「ちょ…また来てるよ?」
「あいつ?うそぉ?頭おかしいんじゃ無い?」
そして当然。
「おい!昨日のメスガキ!話聞いてなかったのか!!?(グラウンドとの境界)またぐな!
またぐなよ!!またぐなタココラ!」
野球部監督鈴井啓司の怒鳴り声である。
さすがに驚きつつも見かねたランニング中の明智洸太郎が間に入ろうとした時。
スマホのアラーム音。
彩奈のではない。
監督のポケットの、である。
苛立ちながら取り出す。
「今練習指導中…え!?高野連!?」
部員達も驚きの顔。
「は、はい!ファラリスの鈴井でございます!
こ、これは会長自ら…しかし何故…。いやそんな…え!?
いえはい!かしこまりました!」
監督の表情が改まる。
「そ、総見寺彩奈…さん。硬式野球部入部を許可する。
書類やユニフォーム採寸は練習終わりに参加するから、そっちの明智らについてピッチャーとしての練習をするように!」
「あっはーい。よろしくみんな。」
なんとなく、どよめいていた部員達は明智に釣られ拍手で出迎える形となった。
「え!?何この流れ!?」
「マジでありえなーい!」
「あ、舞衣子さん!」
これまた名家の令嬢の(そして明智に御執心の)
朝倉舞衣子が憤然と去っていく。
そんな姿さえ優雅であったのは流石であったが。
「結構おこだよ、あの様子。」
「それな、明智くんもあの様子だし。」
やだよ疲れるー。
ポール間のダッシュメニューをこなしながら、しかし彩奈は一緒に走っている明智洸太郎より身体一つ先をカモシカのような快脚でリードしていた。
その日の夕刻。
「いや、手間かけさせて済まないな。持つべきものは現役文部科学大臣の友人だ。」
「都合のいい奴だな。。まあ、なんとか新たな改革の目玉という方向に持っていくよ…
しかし、お前のお嬢さんはそんなに凄いのか。
あまりのことに動画さえ野次馬は撮り忘れたというが。」
「そこは心配には及ばん。
総見寺に流れる血と言うものだ。」
「なるほど…ね…」
翌日、高野連会長の公式会見で、女子部員の試合参加が今大会より正式に認められたとの発表があった。
しかしそもそもの選手登録期日を過ぎていたし、彩奈のような少女が日付をさかのぼる形で登録されていた…。
事に気づく者はおらず、マスコミも芸能人の不倫騒ぎの方に忙しく、一時的に驚きを持って迎えられたにとどまった。
もちろん全国の野球女子には朗報であったにせよ。
しかし、「彼女」がベールを脱ぐのは、夏の予選東東京大会初戦、当日を待たねばならなかった。
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