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新章・2030年 未来への帰還 【令和回天編】
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雲はやや低い。
計器を信じれば高度3000m
見覚えのある、稚内方面の海岸線。
「場所」は間違いない。
あとは…ここが「俺のいた2030年日本」
であるかどうかだ。
さらには同じ北海道でも「依然日本領」であるかどうか…。
「航空自衛隊、千歳基地、応答願います!
こちらは極秘任務中の特別機
パイロットは久保拓也、そちらでは戦死扱いになっているが…空自パイロットである!
送れ!」
チャンネルは繋がった
「こちら千歳管制、貴官の名前自体は確かに戦死者としてある。
しかし直ぐに着陸許可はできない。
再度中央に貴官の任務云々等確認する。
領空外にて待機を…」
良かった、対応はともかく日本は、自衛隊は少なくとも本土の大半ではまだ頑張ってくれている…。
そして、「あの世界線」の日本に還ってきた…。
後席を振り返り、カリンとめぐみにいける、と目配せを送る。
「こちらは久保機。その時間も燃料の余裕もない。そちらに計3名の身柄を預ける故、とにかく着陸許可を願う。」
1分半程の間
「承知した、まもなくスクランブル発進のF15がそちらに行く。
彼らの誘導に従え。」
「感謝する!」
「未来と言っても私たちがあれだけ戦った世界とはべつの…
マルチバースかあ…」
カリンは5式重爆春山の脇を抑えるF15Jを見やりながら嘆息した。
その表情はこちらからは見えない。
黙って何かの本を読み耽るめぐみ。
そして千歳基地への着陸…。
基地整備員やパイロット、幹部らも目を剥いた。
旧日本海軍を思わせるカラーリング。
だが、戦時中の機体に詳しい軍事マニアの隊員にも見慣れないフォルム…
そもそもまともに実践配備できた四発重爆撃機など当時なかった筈だ。
一体なんなんだ…敵か味方なのかも…?
困惑は「3人」が降りてきた時も増した。
旧海軍らしきパイロット服の男もだが、なんで20歳前後の女性が2人も…。
…しかし、分かる者には…歴戦の戦闘機乗りには伝わった。
この男と、白人かハーフぽい女性は同類…それも並の腕ではない。
自分達よりも長く濃密な実戦経験を…。
あと1人の少女に関しては…わからん。
「紆余曲折、直ぐには理解できぬ膨大な過程を経ましたが、兎に角にも久保拓也二等空佐、帰還致しました!」
滑走路で踵を揃え、最敬礼する久保。
皆空自隊員達は、思わず一種の威に打たれたかのように一斉に敬礼を返してしまう。
…それでも数名の警備兵が身柄を軟禁しようと近づいた時。
「タクヤ!生きとったんかワレェ!」
軍畑先輩!?
階級章…もう1佐に…てことは団司令を!?
「お、お久しぶりです!」
懐かしや…この人が教導隊していた頃は散々しごかれたなぁ。
「今…日本はどうなっていますか!?
いや、こっちの事情もちゃんとお話し致しますが。」
「まずは司令室に来い。
皆、聞け。
こいつの身柄、処遇の件は一両日私が預かる。
全責任は無論この軍畑昌幸が負う。
衛兵も銃を収めよ。」
みな、一応は納得しましたという態で持ち場に散る。
もちろん事態を飲み込めていない、承服はしていなかったであろうが。
そして千歳基地司令室。
「貴様が戦死扱いの間…沖縄を割譲しても中国は引いてくれなくてな。」
「でしょうなぁ」
「日本各地にランダムに弾道ミサイルが降り注ぎ、それで民間人の死傷者数万人…。
皆が海外脱出しようと各空港、港湾は連日パニック…。
そんな中、皆のヘイトはいわば売国奴となった蓮根総理に向けられ…。
暴徒数百人が首相官邸に殺到。
警備の陸自隊員達も銃口を逆さにして…
結果シェルターまで逃げ込んだが総理は惨殺された」
不謹慎だが正直ざまあ。
「そして、左派中心の与党は政権を投げ出し、前与党の民自党が特措法に基づき緊急臨時内閣を結成。
小野寺紀美総理が戦争指導内閣を主導している。」
「て、ことはまだ東京も無事なのですな。」
「うむ。中国人民解放軍は九州、四国を制圧したが、我々は鳥取島根を要塞化、防衛線を敷き小松からの航空支援でどうにか粘っている。
そう、心配するな、貴官の奥さんはお子さんともども岩手の実家に疎開し無事だ。
民主党政権のアメリカは中国との全面衝突を恐れて派兵には及び腰だが、それでも戦略物資や各種ミサイル、弾薬食料等々の支援は加速してくれている。
だが、あくまで支援だ…。
沖縄を抜かれた今、グアムが脅かされている。
故にアメリカ世論が積極派兵に賛成するに傾くまでは粘り続ける。
当てにはできんからなんとかこちらで打開できないか、と知恵を絞っている状況だ。
ここ千歳もロシア軍機へのスクランブルで航空戦力を回す余裕はないしな…。
ところで、おまえさんの側の事情は?」
「ええ…なるべく簡潔にお話ししますと…。」
と言いつつも1時間近く、久保は話し続けた…。
腕組みをする軍畑司令。
「そうか…理解が追いつかないが…
しかし嘘ではないことはワカる。
あの機体…チラチラ見たが…
先の大戦の技術で作ることはできるが、悲しいかな当時の我が国の技術では本来作り得ないもの…。
それでなんとなしにではあるが伝わった。」
そして、カーテローゼ・フォン・ホルテンブルグ「少将」の方に向き直って立ち上がり、敬礼する軍畑司令。
「小官の地位はあくまで前の世界でのもの、尉官程度に扱って頂ければ結構です」
飛行服が悲鳴をあげそうな胸を揺らしてカリンはそう応えた…。
「いや、そうおっしゃらず…。
久保、貴官らの身分は統幕に直訴してでも必ず保証してもらうとする。
ところで、こちらのお嬢さんは?」
意味ありげな笑みを浮かべ、めぐみの頭に触れる久保拓也。
「そうですな…いまは彼女の頭脳こそが、回天の切り札となるかも知れぬとだけ…。」
当の笠原めぐみはきょとんとした顔である。
計器を信じれば高度3000m
見覚えのある、稚内方面の海岸線。
「場所」は間違いない。
あとは…ここが「俺のいた2030年日本」
であるかどうかだ。
さらには同じ北海道でも「依然日本領」であるかどうか…。
「航空自衛隊、千歳基地、応答願います!
こちらは極秘任務中の特別機
パイロットは久保拓也、そちらでは戦死扱いになっているが…空自パイロットである!
送れ!」
チャンネルは繋がった
「こちら千歳管制、貴官の名前自体は確かに戦死者としてある。
しかし直ぐに着陸許可はできない。
再度中央に貴官の任務云々等確認する。
領空外にて待機を…」
良かった、対応はともかく日本は、自衛隊は少なくとも本土の大半ではまだ頑張ってくれている…。
そして、「あの世界線」の日本に還ってきた…。
後席を振り返り、カリンとめぐみにいける、と目配せを送る。
「こちらは久保機。その時間も燃料の余裕もない。そちらに計3名の身柄を預ける故、とにかく着陸許可を願う。」
1分半程の間
「承知した、まもなくスクランブル発進のF15がそちらに行く。
彼らの誘導に従え。」
「感謝する!」
「未来と言っても私たちがあれだけ戦った世界とはべつの…
マルチバースかあ…」
カリンは5式重爆春山の脇を抑えるF15Jを見やりながら嘆息した。
その表情はこちらからは見えない。
黙って何かの本を読み耽るめぐみ。
そして千歳基地への着陸…。
基地整備員やパイロット、幹部らも目を剥いた。
旧日本海軍を思わせるカラーリング。
だが、戦時中の機体に詳しい軍事マニアの隊員にも見慣れないフォルム…
そもそもまともに実践配備できた四発重爆撃機など当時なかった筈だ。
一体なんなんだ…敵か味方なのかも…?
困惑は「3人」が降りてきた時も増した。
旧海軍らしきパイロット服の男もだが、なんで20歳前後の女性が2人も…。
…しかし、分かる者には…歴戦の戦闘機乗りには伝わった。
この男と、白人かハーフぽい女性は同類…それも並の腕ではない。
自分達よりも長く濃密な実戦経験を…。
あと1人の少女に関しては…わからん。
「紆余曲折、直ぐには理解できぬ膨大な過程を経ましたが、兎に角にも久保拓也二等空佐、帰還致しました!」
滑走路で踵を揃え、最敬礼する久保。
皆空自隊員達は、思わず一種の威に打たれたかのように一斉に敬礼を返してしまう。
…それでも数名の警備兵が身柄を軟禁しようと近づいた時。
「タクヤ!生きとったんかワレェ!」
軍畑先輩!?
階級章…もう1佐に…てことは団司令を!?
「お、お久しぶりです!」
懐かしや…この人が教導隊していた頃は散々しごかれたなぁ。
「今…日本はどうなっていますか!?
いや、こっちの事情もちゃんとお話し致しますが。」
「まずは司令室に来い。
皆、聞け。
こいつの身柄、処遇の件は一両日私が預かる。
全責任は無論この軍畑昌幸が負う。
衛兵も銃を収めよ。」
みな、一応は納得しましたという態で持ち場に散る。
もちろん事態を飲み込めていない、承服はしていなかったであろうが。
そして千歳基地司令室。
「貴様が戦死扱いの間…沖縄を割譲しても中国は引いてくれなくてな。」
「でしょうなぁ」
「日本各地にランダムに弾道ミサイルが降り注ぎ、それで民間人の死傷者数万人…。
皆が海外脱出しようと各空港、港湾は連日パニック…。
そんな中、皆のヘイトはいわば売国奴となった蓮根総理に向けられ…。
暴徒数百人が首相官邸に殺到。
警備の陸自隊員達も銃口を逆さにして…
結果シェルターまで逃げ込んだが総理は惨殺された」
不謹慎だが正直ざまあ。
「そして、左派中心の与党は政権を投げ出し、前与党の民自党が特措法に基づき緊急臨時内閣を結成。
小野寺紀美総理が戦争指導内閣を主導している。」
「て、ことはまだ東京も無事なのですな。」
「うむ。中国人民解放軍は九州、四国を制圧したが、我々は鳥取島根を要塞化、防衛線を敷き小松からの航空支援でどうにか粘っている。
そう、心配するな、貴官の奥さんはお子さんともども岩手の実家に疎開し無事だ。
民主党政権のアメリカは中国との全面衝突を恐れて派兵には及び腰だが、それでも戦略物資や各種ミサイル、弾薬食料等々の支援は加速してくれている。
だが、あくまで支援だ…。
沖縄を抜かれた今、グアムが脅かされている。
故にアメリカ世論が積極派兵に賛成するに傾くまでは粘り続ける。
当てにはできんからなんとかこちらで打開できないか、と知恵を絞っている状況だ。
ここ千歳もロシア軍機へのスクランブルで航空戦力を回す余裕はないしな…。
ところで、おまえさんの側の事情は?」
「ええ…なるべく簡潔にお話ししますと…。」
と言いつつも1時間近く、久保は話し続けた…。
腕組みをする軍畑司令。
「そうか…理解が追いつかないが…
しかし嘘ではないことはワカる。
あの機体…チラチラ見たが…
先の大戦の技術で作ることはできるが、悲しいかな当時の我が国の技術では本来作り得ないもの…。
それでなんとなしにではあるが伝わった。」
そして、カーテローゼ・フォン・ホルテンブルグ「少将」の方に向き直って立ち上がり、敬礼する軍畑司令。
「小官の地位はあくまで前の世界でのもの、尉官程度に扱って頂ければ結構です」
飛行服が悲鳴をあげそうな胸を揺らしてカリンはそう応えた…。
「いや、そうおっしゃらず…。
久保、貴官らの身分は統幕に直訴してでも必ず保証してもらうとする。
ところで、こちらのお嬢さんは?」
意味ありげな笑みを浮かべ、めぐみの頭に触れる久保拓也。
「そうですな…いまは彼女の頭脳こそが、回天の切り札となるかも知れぬとだけ…。」
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