新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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歴史に線引きを

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旅順 海軍秘匿「甲拠点」
この周辺は味方戦艦、重巡の援護砲撃射程内であり、精鋭部隊が配置されていたこともあり、中ソの地上軍は近づけないでいた。
「艦長、大変お待たせいたしました。」
そう、超巨大戦艦にして戦艦にあらず。
皇國機動決戦兵器 「亜威音」であった。
ようやく「大改装」を終え、その報告を受けた「艦長」笠原めぐみは頷いた。
「皆様、ありがとうございます。
状況開始。」
「よし状況開始だ!!」
松田副長が例によってスピーカー役となり。
亜威音はゆっくりと巨大掩体壕となったドッグから、その威容を表す。
避難民らは一瞬その威容に視線を奪われるが、前だけ見て進んで下さいと憲兵らに促される。

そして巨艦は旅順から50キロ沖合にでる。
松田に向け頷くめぐみ。
主砲レールガン、三基同時展開!
「仰角32度、出力調整。
弾頭初速6020㎞/h!

目標は…。」

モスクワ、クレムリン。
「もう一度、言ってみたまえ。」
「ぎょ、御意…我が赤軍極東方面軍が朝鮮半島にて壊滅、同志コーネフ閣下も行方不明…。」
ぷるぷるぷると、全身が震えるソ連の独裁者。
腹いせに通信士官を射殺しようとしたが、流石にモロトフ外相ら高官たちに制止される。
「同志大元帥閣下…誠に信じ難き事ながら、あらゆる通信情報がほぼ同じ事を…。」

「ラ、ライアンはどうした?亡命組を呼べ!」
スターリンの声に皆が顔を見合わせる。
わ、我らが全力で探し出し説明させます!
ベリアが発言し、どうにかスターリンの怒りは危険水域を下回る。

一息つけようとコーヒーを啜った瞬間であった。
大気を切り裂く金属音!
しかしここは1トン爆弾の直撃にも耐えるシェルター。
おそらくはファシスト、ドイツの新型ロケットであろうが…。

巨大砲弾のうち2つが、クレムリンから1.2キロから2キロの位置に着弾した。
ふん、惜しかったな、まあ直撃したところで…。
それが、スターリンが生前抱いた最後の思考となった。

凄まじい爆風と爆炎がモロにクレムリン全体をも包む。
亀裂がシェルターの隔壁に数カ所空き、中の酸素を根こそぎ奪う。
そこにいた250名のソ連国家指導の中枢を握る人々の命も…。

一方、Bー32改造型、機上の人となっているのはキース・ライアンと腹心達であった。
ライアンというより、別世界線での女性総理蓮根としての正体を隠しもしない。
「モスクワ…核攻撃?」
「いえ、断片的な情報だと燃料気化爆弾をレールガンで超長距離砲撃したのかと…。
スターリンの大本営のチャンネルが止まったままのところを見ると…」
「ま、今更どうなっても関係ないけど。」
そう、ライアン…蓮根の目的はウラル某所にある、ロケット、否、弾道ミサイルサイロ…。
そこですでに5基スタンバイしている熱核反応爆弾搭載ミサイルであった。
東京には2発
あとは名古屋、大阪、呉に撃ち込む。
それで情報操作を行い臨時政府代行として乗り込み、今度こそ日本を、日本人を従わせる!

私たちが現地に着く40分後には、燃料注入も完了し発射準備が調う。
その瞬間は、自分で見たいのだ。

まあ、この時代的に、鮮明なライブ映像は観られないが、後で日本制圧して廃墟を空から巡ればいい。
が…まだ機上の人、蓮根の目の前に展開されたのは…ミサイル発射炎でなく、それを収納したサイロ全体が火柱とともに吹き飛ぶ様だった。
「何なの!なんでそうなるの!!」
蓮根はキース・ライアンの肉体、その頭髪部分を掻きむしる!
「た、確かに、モスクワと違い何で位置を特定できたのか…」
軍事担当の参謀がうめく。

もちろん、リヒャルト・ゾルゲのチームが慎重に時間をかけてソ連国内に浸透、細い糸同士を繋ぎ合わせるかのように得た断片的な情報を元に核反応爆弾の発射位置を割り出した中野学校、日本帝国陸軍情報部の尽力の精華である。

そこへ、亜威音の巨大レールガンの超長距離狙撃…。
ソ連赤軍は大本営、「偉大なる指導者同志」と、勝利への切り札を同時に喪うこととなる…。

ご苦労様でした。
亜威音の艦長たる、めぐみは深々と頭を下げた。
そして事後の指揮を松田副長に託し、自室へ引っ込む。
艦橋指揮所の皆が、敬礼でそれを見送る。

一方、ライアン=蓮根一党のB32。
「ならば、プランBです。」
我が機体に搭載した熱核反応爆弾2発。
それを日本軍司令部。
さらに東京に投下。

それぞれが別世界線における広島型原爆の3倍の破壊力である。
その上で私がソビエト連邦の全権を掌握したと宣言、日本に降伏を促す。

そう宣言した蓮根に、周囲は唖然とし、または反発した。
「ばかな!
いかにこの機体が堅牢でも、朝鮮半島の奥地にすら辿り着けませんぞ!
敵防空体制は!?」
蓮根は機内壁面のカバーを外し、ボタンを押した。
機体が一瞬揺れる。
しかし前方半径1500キロの空間では、そんなものでない大打撃が生じていた。

「なんだ!?友軍機が次々墜落!?」
「こちらは各種通信が通じません!」
「バカな!?レーダーが全て使用不能!」

やられた…。
EMP攻撃。
以前我々がアメリカ機動部隊に使ったレベルのものではない。規模も威力も…。
日本軍司令部、久保拓也は唇を噛んだ。
空に見えるはいくつもの落下傘。
しかし全員が脱出できたかどうかは…。
各地上基地でもほとんど全ての機体が掩体壕にも入っておらず、使用不能…。

「ふふ、一歩間違えば機体が焼け落ちる危険な賭けでしたけど。
上手くいったようですね。
使用後の装置は投棄。
ちなみに日本侵入用にもう一基あります。」

蓮根、ではなくライアンとしての言葉に、皆の顔色が若干持ち直す。
あとは満浦方面の敵主力軍中央に、「裁きの一撃」を加える。
それを我々が自らの手で行なってみせる事が重要なのだ。
ソ連の政軍両面の実権を握るのだ。

やがて上手く話を通し、15機。
MiG15が護衛につく。
「勝った。」
ライアンのみならず誰もがそう思った。

「恐らくはライアン一党がソ連とは別の意図で動いている。
もし少数でも戦略爆撃機に、反応爆弾を搭載しておりますと…。」
久保拓也の言葉に、山下、八原らが息を呑む。
「とにかく旧式でもよい、飛べる機体をかき集め、並行して修理を…。」
「あとは高射砲群だ。」
「有線で生きている連絡手段を!?」
参謀達に、当たり前の対応をさせる。
できるのは口惜しいがそれだけか…。

「失礼致します、参謀副総長閣下。」
通信士官が敬礼もそこそこに耳打ち。
「…わかった、俺自ら出迎える。」

「久保閣下!間に合ってよかった!」

三菱の堀越技師!曽根さんも!
「ご、ご無沙汰しております。
?その牛車の中身は…」
言いながらも久保は気づいていた。
これは…。
懐かしい、分解されていても分かる。
シートが除けられると、主翼と胴体の曲線。
零式艦上戦闘機21型…
「…では、ありません。」
??
「零戦の真打。
我々が本当に作りたかった、究極のゼロです。」
「いわば、零式艦上戦闘機・つい型であります。」
かつてない昂りを覚える久保拓也。
「…お二方、時間がない、10分で組み上げられますか?」
もちろんです!
誰が呼び寄せたのでもなく整備員達が駆け寄ってきた。






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