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決着

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日本陸軍陣地トーチカ内。
地鳴り…いやまさに山津波の唸りの如く、戦史上にも稀な大群が迫ってくる。
勢いを削がれたと言っても、降り注ぐ砲弾や空爆の爆弾は鉄の豪雨となり、兵士達の神経を削る。

「ひいいいっいっ!」
実害はないものの揺らぐ壕内の恐怖に、1人の新兵がパニックを起こし立ち上がる。
鈍い音。鉄拳であった。
「馬鹿野郎死にてえのか!?
いやてめえ1人なら勝手だが全員危険に晒す真似すんじゃねえ!両耳塞いでうずくまってろ!」
村山富市軍曹が怒鳴り、強引に新兵を地べたにねじ伏せる。
砲撃が止み、敵機甲部隊の進撃が始めるまでの10分間が永遠のように…
「よし貴様ら用意しろ」
「はっ!!」

ウラー!!
突撃ー!!!
巨大な波濤となり押し寄せる大群。
そこへ…。
彼ら前線将兵が聞いたことのない数種類の射撃音。
何だ!?何が起こっている!
濃密な弾幕にバタバタと薙ぎ倒されていく中ソの兵士達。
そして後期型Tー34をはじめとする装甲車両の群も次々と爆発擱坐していく。
コーネフや宋江はまたも困惑する。
歩兵群には「死のキツツキ」九二式重機関銃。
そして改八八式擲弾筒
戦車、装甲車輌群には4式携帯型対戦車擲弾筒(ドイツ、パンツァーファウストの拡大ハッテン型)
さらには縦深に配置された3000門の5式88ミリ高射砲が猛威を奮った。
「逃げるな!ひたすら押しつぶし突撃せよ!」
「逃げるものは督戦隊が撃ち殺す!」
停滞する戦線に苛立ちを募らせ怒鳴る中ソの前線指揮官たち、その当の本人達もバタバタ薙ぎ倒されていく。

そして、上空。
「笹井さん、替わります!」
「鴛渕か、すまんな!」
戦闘可能時間を超えた零戦88型の群れが、あらかじめ決めておいたローテーションに従って順次上空制圧の任を入れ替わる。
「やはり墜としても墜としても押し寄せてくる。総数じゃ1万機くらい突っ込んでんじゃないか?」
「いや、まあそこまでは…(苦笑)何とか局地的にも制空権確保します!」
「敵さんは編隊空戦らしきものも仕掛けてくる。戦略機の援護ですぐバラける程度の練度だが…油断は禁物と徹底させてくれ!

武運を祈る!」

苦戦しつつも、爆装組の88型は1トン榴弾を敵軍のど真ん中に落とす!

しかし…
「そうとうに削った筈ですが…。
野戦陣地の45パーセントにまで敵軍浸透しています!」
「向こうは人命無視だからこそやれる数の暴力って奴だ。
行きますか八原さん」
「了解、第5段階、機甲師団投入、かかれ!」
巧みに山の影等に隠匿されていた3個機甲師団。
5式重戦車。
高初速108ミリ砲搭載。巨体の割には45キロのスピードと信頼性で、その後の日本陸軍のいわゆる主力戦闘戦車の基礎となる。

「敵の横腹を食い破れ!縦横無尽に分断蹂躙しろ!」
西大佐の鞭を入れるような号令一下、3個師団が別々の方面から敵の大軍に楔を突き込む。
本家ドイツのパンツァーカイルのような陣形を各小隊ごとに組み、敵の猛放火をモノともせずに驀進。
群がる歩兵には5式中戦車ベースの、5式歩兵戦闘車が連装25ミリ機関砲を乱射する
(こちらは重戦車の5分の1の数だが、それでも十分に戦車隊の露払いとして機能した)

ぐぬっ…
制空権も握れそうで握れず、前方の広大な敵野戦陣地群も潰せそうで潰しきれない。
近接戦闘で時折り突撃しては陣地に引っ込むを繰り返す日本兵の戦闘力も異常であった。
「見敵必殺、玉砕御免」
この戦法を合言葉に日本軍は粘り強く戦い続ける。

「航空支援、さらに増幅を求む!」
コーネフ、宋江の両司令官は同じことをそれぞれに繰り返した。
だが、中共軍はそもそもまだ空軍力の整備途上。
そして莫大な物量を誇る筈のソ連赤軍も…。
「ファシストども…ドイツ陸軍の一転大攻勢だと!?」
敵将マンシュタイン、グデーリアン、ロンメルらの率いる温存されていた精鋭が、ポーランド国境を超え一気にキエフ、あるいはモスクワを伺うところまで押し返して来た…だと!?
数日前から…味方にも言わないとはクレムリンも…。
いや、それよりも…コーネフは腕を組む。
軍事的、戦略的には一旦引くべきだが、それはもう禁止されている。
気がつけば戦略機とやらいう、敵の大型高性能戦闘機がまた増えている。
数機増えただけでも制空権…航空優勢のバランスが…。
まずは戦線を縮小、再整理すべきだ。
指揮系統を立て直せばまだ数的には圧倒的に優勢…。
幾つかの指示と中共軍への伝達が慌ただしく重なる。
巨大な鋼鉄の群れが、一定の秩序を徐々に取り戻し、整理される。

報告を受けた久保拓也参謀副総長。
微かに口角を上げる。

右手を上げ、振り下ろした!
「全軍!最終段階発動!
巨獣を!!」

御意ッッ!!

どわあっと、各トーチカから重装備の歩兵が繰り出す。
機関銃や小銃を乱射しながら、それまでのタガがはずれたように。
「何のつもりだ?格好の的だ薙ぎ払…」
言いかけた宋江の耳に恐るべき報告。
「両翼に敵機甲部隊、先程引き上げた部隊が…いや、増えてます!」
なにっ!
「わが後方からも!!?」
コーネフも数瞬混乱した。
まさか…包囲殲滅!!?
「バカが、ここに至っても我が方の3割程度の戦力で!?薄いところを破れば良いだけのこと、正面の歩兵軍を切り崩せ!」
「了解っ!」
が、ここに牙を研ぎ澄ました帝国陸軍航空隊の4式襲撃機が襲いかかる。
いわば、「陸戦航空支援用の和製スカイレイダー」
ペイロード2トンの重武装に、20ミリ機関砲にも耐える重装甲と急降下性能。
500キロそこそこの低速だが、これまた長年新設日本空軍で改装重ね愛用されるようになる。
それら100機が、弾幕を掻い潜り耐え抜き、敵の中央部隊に襲いかかったのである。
ロケット弾、そして250キロ爆弾4発と、両翼の37ミリ機関砲…。

パイロット達はまるで大陸の向こう側にいる魔王が乗り移ったかの様な凄まじい機動と闘志で、装甲車両、歩兵の別なく中ソ軍を火力の続く限り薙ぎ払っていく。

その恐怖とパニックが伝染していく中に、日本軍歩兵が接戦迫撃を挑んで来たのである。
「がああああ!」
「ひっ、ひっ、弾くれ弾!」
「戦車何をして…がバラ!?」
銃火器に加え、日本刀を振りかざし斬りまくる猛者もいた。
とある若手士官の首が斬り落とされ、新兵のひとりが悲鳴をあげる。
そして両翼、後方からも、機甲部隊である。
実際には急加速、停止、射撃を繰り返し、歩兵に対しては歩兵戦闘車が掃射…を淡々と繰り返す。
5式中戦車も加えても1500両程度だが、完璧に中共軍の退路を塞いできた。

こんなペラペラの包囲の輪、どうとでも…。
しかし、中ソ軍それぞれの司令部の思惑とは別に…ここまでのボディブローのような日本側の奇策縦横の攻撃に、士気、戦闘能力とも実際の質的劣化は予想以上だった。
ただかりそめにも後ろを取られた、退路を絶たれたと言うだけで兵士、人間は恐慌状態となる。よほどのベテランでもない限り。

「下がるな、密集するな!血路は前にしかないぞ!」
中ソ軍それぞれの中級指揮官が声を枯らす。
が、もはや指揮系統は崩壊していた。
予想以上に消耗していた戦車、装甲車両で突破を試みようにも、バラバラに味方を轢いてまで脱出を計っては鴨撃ちにされるの繰り返しであった。
そして…。
完全に日本軍の…戦史史上最大レベルの包囲網は完成した!
全周に戦車が配置され、歩兵師団も含め、整然と猛射を包囲網中心に浴びせる。
指揮系統もクソもない。
中国共産党人民解放軍。
ソ連赤軍。
どちらも密集のあまり将棋倒しになったり、白旗をあげようとして味方の弾で倒れたり、果ては同士討ち…。
宋江将軍は脱出叶わず戦死。
コーネフ将軍は何とか数十両の戦車群を自ら編成して一点突破を計るが、敢えなく頓挫、脚に重傷を負い捕虜となる。

そして上空の空中戦も、いつの間にか日の丸の航空機ばかりが乱舞している…。

日本軍司令部。
八原はふっと久保の方を見るが、若き参謀総長の顔は変わらない。
そうか。
そういうなんだな…戦争とは言え…。

1時間半が経過、現地時間1245
中ソ軍の組織的抵抗は消滅した。
捕虜は総勢15万。

そして…戦死傷者、行方不明者は実に430万強。
まさに殲滅、容赦なき絶滅戦であった…。
大陸から日本軍、日本人を駆逐、いや虐殺暴行、労働力としての拉致連行をする筈であった空前の大軍が、ほぼ文字通り消滅してしまったのである。

水を打ったような沈黙に包まれた日本軍司令部。
参謀副総長 久保拓也は、その場の全員にむけ最敬礼をした。

あとは、めぐみが再起動させてくれれば…。


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