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激突・赤い星と旭日

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1945年4月2日
中ソ連合軍、その先鋒は満浦まで80キロに迫っていた。
対独戦と変わらず、機甲部隊に歩兵タンクデサントのソ連赤軍。
どんな山奥も人知れず走破する中共軍。
進撃速度は予想通りだが…。
「しかし、久保閣下の予測は早過ぎると思いましたが、本当に…。」
「ええ、言った私としても予想の最悪極められた感じです。」
後方には山下方面軍司令官が鎮座していた。
とは言え前線指揮は実質前の2人に任せ、自身は半島避難民の海上脱出に心を砕いていたが… 。

「ここで、終わらせるそ同志諸君。」
簡潔に、ソ連赤軍第9軍司令官コーネフ大将は作戦目的を言い放つ。
「向こうとしてはアメリカを全面的に抱き込まねば勝算はない。
だが現在当のアメリカは自由主義の弊害で出兵を渋っている。
だので我々に一撃を加え勝機ありと見せたいのであろう。
だが、何某かの策があっても発動する暇もなく、最速の縦深連続電撃作戦で粉砕する!」
「「ダー!」」

再び、日本側前線司令部。
「あと5分で敵航空戦力到達します。」
「友軍戦闘機隊迎撃へ。」
「恐らく10分後には制圧砲撃も始まるかと。」
久保拓也は頷く。
「よし、その機先を制する。
中ソ軍滅却作戦、『スサノオ』発動!
山下将軍お願いします」
「よし、状況開始、第一段階、地上艦砲射撃、撃ち方はじめ!!」
轟く巨砲の音。
放たれた巨弾は150ミリクラスの砲にさえあり得ない距離を飛び越え、40キロ先の中共、ソ連軍の大軍のど真ん中へと着弾する。
「なんだ!?今のは!」
宋江中共軍司令官が指揮車の中で怒鳴る。
「分かりません、戦艦の艦砲のような…」
「バカが、沖合から何キロ離れていると…。」
が、参謀の言った事は半分正解であった。

「ぶっつけだが撃てたな。はっはっ!」
「観測機より敵部隊先方に弾着確認!かなりの損害と混乱が認められます!」
佐藤大輔砲兵大佐は満足げにうなずく…

列車砲…盟邦ドイツの80センチ列車砲の車体部分だけを合計10両流用設計、製作。
それに大和級4番艦以降に搭載する予定だった46センチ砲を、オリジナルよりは相対的に使い回しやすいだろうとばかりに乗っけたという代物である。
急造ゆえ120秒に一発しか撃てない。
しかし圧倒的アウトレンジ攻撃の火力としては十二分であった。

「ILー2の飽和攻撃で排除させよ!」
コーネフ将軍は当然そう命じる。
敵の零戦88型戦闘機隊は強力だが、3倍以上の数的優勢を確立している以上、完全な航空優勢奪取は不可能。
厄介な代物は先手を打って…。

!?
列車砲群に向け降下したソ連機の大群を、オレンジ色の砲火が袈裟斬りにするように叩き潰していく。
「坂井三郎、以下7機!零風にて参上!」
そう、あの1点ものの筈であった高速重武装「戦略機」
少数とは言え量産に至り得た経緯に関してはここでは省く。
とにかく零風の群れは雲霞の如きソ連機に向け、5式誘導噴進弾、30ミリ機関砲の暴風を浴びせかける。
編隊を切り裂かれ混乱した所に零戦88型の群れが斬り込み、MiG15すらもなすすべもなくぶち落とされていく。

「くっ…だが所詮は絶対数が違う。」
「我々が後背を突き包囲する!」
コーネフの要請により、李赫将軍率いる中共軍30万が敵陣の側面に当たる山中を音もなく進み、一大迂回作戦を行おうとしていた。
重機関銃、迫撃砲、あるいは重砲すら分解して運びつつ…。
よし、後2キロ先に進出したら一斉に攻撃、そのまま包囲殲滅に繋げれば…。

が。
!?!!
例の列車砲群が何と、こちらの山中に砲撃を加えてきたのである。
しかも、ナパーム、榴弾系の空爆ももれなくついて…
一気に大混乱に陥る中共軍別動隊。
「なんだと…こんな作戦の細部まで。
今回限りの秘匿暗号での伝達が…」

「生憎つつぬけなんだよなぁ。」
ほくそ笑む久保拓也の横で、八原参謀が叫ぶ。
「第二段階、定置爆破、はじめ!」
落雷のような音、地響きが間断なく響く。
進撃する中ソ大軍のど真ん中で、次々とTNT有線起動地雷が爆発する。
通常地雷より深く、いや、かえって原始的な原理の罠が功を奏した。
次々と戦車が擱座、歩兵が吹き飛ばされ、倒れていく。
「ぐぬう!」
コーネフは指揮棒を思わず叩きつける。
宋江は指揮車の壁を殴りつけた。
だが…、所詮奴らは我々の実質3割の兵力。
小細工を重ねても大軍の正攻法には勝てない。
ここまでの犠牲は中共軍併せて死傷6万であろう。
誤差に過ぎん…。
「再度仕切り直す。重砲群、敵展開領域全てに猛攻をかけよ!」
「ダー!」
ソ連赤軍のDー1 152ミリ榴弾砲が周囲の大気を切り裂き、一斉に咆哮する。
中共軍も供与された同型のそれを撃ちまくる。
準備砲撃だけで更地に…。


確かに凄まじい砲撃だ。
あのバグラチオン作戦に匹敵する2万5千門の火砲。
それをこの満浦市のエリアに集中させたのだが…明らかに少ない。
下手すると…半分…先刻のアレで削られた!?
その忌々しい列車砲は、友軍機が犠牲を払いつつようやく1両無力化したが、残りはこちらの前線に無視できぬ損害を引き続き与え続けている。
コーネフは歯軋りする。だが消耗戦に持ち込めばいずれ…。

「第三段階、制圧砲撃!」
日本陸軍第13砲兵師団。
それが中ソ軍から見て左側面の高地の反対側から、観測機、観測員の誘導を頼りに温存していた各種8000門の重砲群が火を吹く!

進撃するソ連、中共軍はまたも痛撃を受けることになる。
「位置特定後空陸で反撃しろ!
主攻軍は足を止めるな!」
宋江もコーネフもそう言いつつ督戦を止めない。
そして犠牲を膨れ上がらせつつも日本軍陣地に先鋒は踏み込んでいく。


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