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地上の楽園へ
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大日本帝国、帝都。
「スターリングラードの逆包囲は阻止。
しかしもはや都市そのものの固守も不可能と見て…ヒ総統もやむを得ず第6軍を撤収…か。」
山本はレポートに目を通して嘆息した。
久保拓也は頷く。
「正しい判断と考えます。
こだわって戦線が壊乱したり、第6軍の精鋭30万弱を丸々喪失するよりは…。
いまはありきたりですが敵に出血を強いつつ、下げた戦線を高まった反撃密度で当面防衛。
余力でモスクワ奪回を少しでも遅らせることが…。…まぁ今は最優先かと。」
「やはりソ連の波自体は止められないか…。」
「残念ながら…今のところは…。
アメリカがこちら共々総力戦体制に入ってくれないことには。
私の知る歴史以上に、ライアン一党のもたらしたテクノロジーその他がいわばソ連赤軍のブースターになっております故。」
「先日現出したMiG 15も少数だが厄介らしいしなぁ。
技術の革新速度が向こうでも早まっていると言うことか?」
「御意…」
それには一つ単純な理由がある可能性が高いが…。
今は自分の中でも確信がない。
久保は「それ」に触れることは諦めた。
しかし…。
「…ああところで、こちらはこちらで窮状であると気を回して、派遣していたドイツへの航空義勇軍は約束通りの期限で戻してくれるそうだ。
B32での移動で、そう休養含めても10日後には満州戦線に合流できると。
戦闘機総監殿が。
良かったのー。」
「はっ、はは。御意。正直申せば公私両面で。。」
何故か視線を泳がせる久保。
ソ連 クイビシェフ某所。
ここにロシア人はいない。
例の前代未聞の合衆国大統領と軍、財界の要人の一斉亡命。
その中枢のメンバー達である。
「ほぼシナリオ通りであるな。」
「日本軍も中国の攻勢の前に、満州の3分の1を放棄した。
依然米空軍は脅威だが、連中はあくまで義勇軍。大規模増派はできませんからな。」
「ふふ、ライアン閣下の仕込み通り、本国では反戦運動が高まり、議会も日和っておりますからな。」
「上手くアメリカの大陸派兵を遅らせるか抑えるかすれば…。」
「ユーラシアの大半を握る空前の版図を誇る、理想国家が出来上がりまする。」
「地上の楽園です。」
響きの良い声に、皆が振り返る。
彼らが指導者と仰ぐ、かつてキース・ライアン米臨時大統領と言われた男。
御意!などと言葉には発せぬが、その「男」に対し姿勢を正して改めて敬意を表する一同。
(そう、今度こそ叶う。このまま順調にソビエト連邦を内側からジャックして、理想の身分差も性差もない社会に…。
ファシストと資本主義の奴隷以外が皆平等に幸せを享受する社会に!
勿論。「前」で政権を握っていた忌まわしき日本も滅ぼした上で…)
彼…ではない。ライアンと呼ばれし男の中は女性であった。
蓮根。
「あの世界での」21世紀日本、最初の女性総理。
そして最期の。
思い出しても歯軋りする。
中国共産党と融和し平和をもたらしたつもりなのに、まさか自衛隊風情にクーデターを起こされるとは。
その後軟禁の屈辱に耐えきれずに自裁。
気がつけばアメリカの、いや世界屈指の富豪の一族の青年となっていた。
あの世界がその後どうなったかなどは知らない。
しかし合衆国では滑ったが統制のきくソ連邦ならば、最短距離で目指せる。
地上の楽園、平等な理想世界のカリスマになること。
そして自分を裏切った日本への復讐。
まだソ連軍としての対日参戦は今少し待つべきとのことだが…。
そう遅れはしまい。アメリカがもたついている間に速戦即決で決める。
そうその際は…日本の指導者層。
東條は勿論、岸信介。
絶対に逃さない。あやつの祖父は!
当然天皇家もだ。
すでにスターリンらもわれらが傀儡…。
後は軍事的には専門家に任せておけば…。
夢は叶う!
一方、白ロシアの某所。
あるドイツ空軍基地。
夕刻、5度に渡る航空支援を終えたドイツ空軍機が次々と帰還する。
「ヒルダ!」
妹同然の後輩を呼ぶカリン。
「姉様、ごめんなさい!編隊を離れてしまって…」
「そんな、あの状況は私でもそうした。
それよりも刹那の判断で僚機を2機守ったことを誇りなさい。
流石はヒルダね!」
「ありがとう、姉様…」
「ちょ、真っ先に胸に顔を埋めないでよ。あいつじゃあるまいし笑。
これからはあんたが頼られ、慕われる身になるんだから…。」
「わかってます。でも…。」
うんうん。
カリンの方からも強くハグを返す。
「スターリングラードの逆包囲は阻止。
しかしもはや都市そのものの固守も不可能と見て…ヒ総統もやむを得ず第6軍を撤収…か。」
山本はレポートに目を通して嘆息した。
久保拓也は頷く。
「正しい判断と考えます。
こだわって戦線が壊乱したり、第6軍の精鋭30万弱を丸々喪失するよりは…。
いまはありきたりですが敵に出血を強いつつ、下げた戦線を高まった反撃密度で当面防衛。
余力でモスクワ奪回を少しでも遅らせることが…。…まぁ今は最優先かと。」
「やはりソ連の波自体は止められないか…。」
「残念ながら…今のところは…。
アメリカがこちら共々総力戦体制に入ってくれないことには。
私の知る歴史以上に、ライアン一党のもたらしたテクノロジーその他がいわばソ連赤軍のブースターになっております故。」
「先日現出したMiG 15も少数だが厄介らしいしなぁ。
技術の革新速度が向こうでも早まっていると言うことか?」
「御意…」
それには一つ単純な理由がある可能性が高いが…。
今は自分の中でも確信がない。
久保は「それ」に触れることは諦めた。
しかし…。
「…ああところで、こちらはこちらで窮状であると気を回して、派遣していたドイツへの航空義勇軍は約束通りの期限で戻してくれるそうだ。
B32での移動で、そう休養含めても10日後には満州戦線に合流できると。
戦闘機総監殿が。
良かったのー。」
「はっ、はは。御意。正直申せば公私両面で。。」
何故か視線を泳がせる久保。
ソ連 クイビシェフ某所。
ここにロシア人はいない。
例の前代未聞の合衆国大統領と軍、財界の要人の一斉亡命。
その中枢のメンバー達である。
「ほぼシナリオ通りであるな。」
「日本軍も中国の攻勢の前に、満州の3分の1を放棄した。
依然米空軍は脅威だが、連中はあくまで義勇軍。大規模増派はできませんからな。」
「ふふ、ライアン閣下の仕込み通り、本国では反戦運動が高まり、議会も日和っておりますからな。」
「上手くアメリカの大陸派兵を遅らせるか抑えるかすれば…。」
「ユーラシアの大半を握る空前の版図を誇る、理想国家が出来上がりまする。」
「地上の楽園です。」
響きの良い声に、皆が振り返る。
彼らが指導者と仰ぐ、かつてキース・ライアン米臨時大統領と言われた男。
御意!などと言葉には発せぬが、その「男」に対し姿勢を正して改めて敬意を表する一同。
(そう、今度こそ叶う。このまま順調にソビエト連邦を内側からジャックして、理想の身分差も性差もない社会に…。
ファシストと資本主義の奴隷以外が皆平等に幸せを享受する社会に!
勿論。「前」で政権を握っていた忌まわしき日本も滅ぼした上で…)
彼…ではない。ライアンと呼ばれし男の中は女性であった。
蓮根。
「あの世界での」21世紀日本、最初の女性総理。
そして最期の。
思い出しても歯軋りする。
中国共産党と融和し平和をもたらしたつもりなのに、まさか自衛隊風情にクーデターを起こされるとは。
その後軟禁の屈辱に耐えきれずに自裁。
気がつけばアメリカの、いや世界屈指の富豪の一族の青年となっていた。
あの世界がその後どうなったかなどは知らない。
しかし合衆国では滑ったが統制のきくソ連邦ならば、最短距離で目指せる。
地上の楽園、平等な理想世界のカリスマになること。
そして自分を裏切った日本への復讐。
まだソ連軍としての対日参戦は今少し待つべきとのことだが…。
そう遅れはしまい。アメリカがもたついている間に速戦即決で決める。
そうその際は…日本の指導者層。
東條は勿論、岸信介。
絶対に逃さない。あやつの祖父は!
当然天皇家もだ。
すでにスターリンらもわれらが傀儡…。
後は軍事的には専門家に任せておけば…。
夢は叶う!
一方、白ロシアの某所。
あるドイツ空軍基地。
夕刻、5度に渡る航空支援を終えたドイツ空軍機が次々と帰還する。
「ヒルダ!」
妹同然の後輩を呼ぶカリン。
「姉様、ごめんなさい!編隊を離れてしまって…」
「そんな、あの状況は私でもそうした。
それよりも刹那の判断で僚機を2機守ったことを誇りなさい。
流石はヒルダね!」
「ありがとう、姉様…」
「ちょ、真っ先に胸に顔を埋めないでよ。あいつじゃあるまいし笑。
これからはあんたが頼られ、慕われる身になるんだから…。」
「わかってます。でも…。」
うんうん。
カリンの方からも強くハグを返す。
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