新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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共産化阻止戦線

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そして、1944年も12月。
共産党が奪った政権は中華人民共和国となり、じわじわと日本が奪った領土を奪回しつつあった。
ここで、日本帝国は予備兵の一部再徴集を決め、再び満州、関東軍100万人体制で防衛体制を固める。
そして防衛線、反撃戦力をアメリカ軍共々満州に…。
つまり中国領の放棄であった。
参謀副総長となった久保にとっても、予想を超える中国共産党…中共の人民解放軍の侵蝕速度であった。
まぁ、米英のトルーマン、チャーチルの両首脳が、中ソ共産主義陣営を完全に脅威MAXの敵として認知してくれたことはプラス面ではあるが。
ただ、我が国は奴等の防波堤、極東の不沈空母として過酷な運命に晒される。
その事は覚悟せねばならない。
我々のみならず国民全員が。

やる事は色々ある。
だがいずれにせよ共産主義体制の脅威は確実に殲滅する。
その一手は既に打ってある。

ソ連東部戦線。スターリグラード周辺空域。
「何だこの数…と言うより赤軍の新鋭機…。」
ドイツ空軍の戦闘機パイロットが呻いた。
雲霞の如き赤い星付きの敵新鋭機、MiG9H。
前述の如く元々のソ連技術陣のオリジナルに、ノイマン博士率いる科学者集団が大幅に手を加えたものだ。
それでもドイツ空軍のTa183フッケバインの性能には及ばない。
だが3倍近い数の暴力。
それでも練達のドイツ軍パイロット達は奮迅。互角の空戦を繰り広げる。
「エーストゥー!」
最初の敵を屠る。
武装SS空軍そして、「復讐騎士団」所属のヒルデガルド・フォン・アウグスト曹長。
まだ18歳の少女とは思えない、歴戦のエース達が舌を巻く技量であった。
「我々は4機、最低でも2機編隊で常に動け!」
既に350機を超えるスコアを誇るエーリッヒ・ハルトマン大尉。
率いる大隊全員に、そして直属の僚機に指示を徹底させる。
(しかし、こうも乱戦であると色々厳しい。
皆個人技にも長けているからまだバラけても戦えはするだろうが。)
急速にスコアを稼ぎつつも、ハルトマンは危惧する。
そして、ヒルダである。
「くっ、かぶられた!」
敵が手練れと見て、3、4機のチームを組んで食いついてきたのだ。
むろん返り討ちにして、9機目までを墜とすが…。
残弾が…。
あと1機食えるかどうか、そこへMiG9の10機を超える群れがたかってくる。
思いつく限りの機動を試みるが…。
ダメだ…
死神の冷たい手が、心臓を鷲掴みにする…。
誰か…。

後方で爆音。それも立て続けに!
え!?
振り返ると赤い機体。
それもフッケバインより2回り大きい。
それが機種の、大口径砲を間断なく単発撃ちし、あるいは両翼の機関砲をフルバーストし、周辺の機体を悉く薙ぎ払う。

空戦の概念を変えてしまうような凄まじい破壊力…。
まさか…。
「その機体」はヒルダ機の横に並ぶ。
懐かしい、愛しい声。
「やっぱりヒルダだ、遅くなってごめん、頑張ったね!」
「ね、姉様…。」
驚愕と歓喜と安堵で思わず落涙してしまうヒルダ。」
「田所、遠野の88型はヒルダ曹長機を援護して一旦基地へ。
残りはドイツ軍に合流援護。
庄一、いくわよ!」
「押忍!姐さん!」
戦略機ノルニルと天雷が、30ミリ砲の豪雨でソ連空軍機の群れに恐るべき弾幕射撃を行う。
「なんだアレは…ぐああ!?」
「助けてくれ!」
「あのマーク、日本機ヤポンか!?」
「ど、どうしてそうなる…。」

混乱する間にもソ連軍機は次々と火だるまになり、空中で四散し、翼を折られる。
「退くな!あの大型戦闘機から殺れ!」
しかし、再度活力を取り戻したドイツ戦闘機隊も加わり否応なしに押し戻され、対地攻撃機も含め総崩れとなる。
「いやはや、日本人の技術力も侮れない。
まぁアメリカと分けた程だから当たり前だが…。」
ハルトマンは苦笑混じりに1人ごちた。

眼下では…。
我がスツーカの群れが敵の戦車群を狩っていた。
恐ろしく操縦性が悪そうな、47ミリ砲?を装備した機体が、そんなデメリットなど存在しないかのように自在に機体を操り、次々と新型T 34を擱座に追いやっている。
まぁ、細かく見るまでもなく、かの魔王か。

ハルトマンは敵攻撃機シュトゥルモビクを2機撃墜の後、麾下の大隊に、深追いせず、編隊崩さず帰投せよと命じる。
まぁ、半分以上はどうしても乱戦でバラけてしまっているようだが。
今日のところは、空陸両面でわずかだがソ連赤軍の戦線を押し戻す事に成功したようではある。

その夜、基地宿舎。
階級相応の個室を与えられ、ベッドに横になるカリン。
(ちょっと昂っちゃってるか…まぁ3時間でも寝られればいっか。)
…因みに戦闘機総監は日本本土にいる久保拓也が臨時兼任、代行している…。

そこへ、ノックの音。
拳銃に手をかけるが、すぐにドアの向こうが誰か気づく。
「いいよ、ヒルダ、入って。」
恐る恐るといった体で、ヒルダはガウン姿で入って来た。
「カリン姉様、ごめんなさい、今日は。」
「ヴォルター中隊長から怒られたかな?
でも、カリン程の腕があるからこそ、やむを得ない時以外の単機戦闘は危険なのよ。
昔は私も失敗したけど。
中隊長には私からも話しておくから、次回からは彼の2番機で極力離れず、堅実な編隊空戦の基本を徹底してね。
私もそういう時期があって、今なんとかこうしていられるから。」
こくりと頷くヒルダ。
笑顔でカリンは、おいで、一緒に寝ようと手招きする。
素直に応じた「妹」をベッドへ抱き寄せる。
まだ、少しは私が守らないと。
「姉様…」
昔みたいね。
どうしても、胸にヒルダの顔がいってしまう。
それは、よいのだけど。
「愛してるわよ。」
「姉様、姉様。私も。」
2人は互いにキスを交わした。





 
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