新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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暴露と反撃

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ホワイトハウスの高官、閣僚達も青ざめていた。
そんな中、トルーマンが発言する。
「陸軍長官、今向かっている攻撃隊を一旦待機させていただきたい。」
「!?なにを仰るか!
あの艦のアンテナ部分を破壊すれば、不可抗力という事で放送を阻止できるのだぞ!?」
「いや、『私が』聞きたい、観たいのだ。」
………!!
まだ正規に大統領代行と指名された訳ではないにせよ、トルーマンは副大統領である。
スティムソンは緊急電を発した。

亜威音艦橋。
「黛、待てっ。」
陸地、市街地への巻き込みを考え、改4式弾をギリギリまで引きつけて使おうと、対空戦闘指示を出しかけた砲術長を松田は制止する。
「いや今更…あれっ?」
黛もレーダーと肉眼の双方で気づく。
敵攻撃機群が一斉に反転。
何群かに散り、とにかくこの艦と距離を取る。
「とにかく、観たいんだ、アメちゃんも皆。」
そう森下が呟く。

そして、放送の内容はより切り込んだものとなる。
「アメリカ合衆国の偉大なる国力、それを支える国民の皆様の日々の頑張りは尊敬に値します。
しかし、その傍ら皆様が国に納めている税金。
当然少なからぬ割合で国防の為に、戦争中ですから使われるとして…。
もしそれが一部全く関係のないところに流れているとしたら…?」
テレビ前の群衆は軽くどよめく。
何言ってるんだこいつ…?
「たとえばあなた方の同盟国ソビエト連邦。
ま、勿論彼らにレンドリース(武器貸与法)で様々な、大規模支援を行なっている事は当然の事であり周知の事実なのでありますが。
実は私どもの貴国における情報網が調べた結果、その規模が公表されている金額換算の5倍になることが判明したのです!!」
「でたらめだ!」
ホワイトハウスにて、もう1人の副大統領メンチが喚く。
久保の告発はなお続く。
「確かに、アメリカ国民の皆様からすればナチスドイツは恐るべき脅威でありますし、
軍事同盟を結んでいる我が国に関してもかの国に関する人種政策にはけして同調してはおりません。
だのでソ連を長年レンドリースで助け、ナチスドイツを叩く方向に持っていく事自体は国民の大多数の皆さんも納得しているでしょう。
ですが、ソ連が東部戦線で優勢に転じてなお、この金額。
正直アメリカ自体の国防費にも迫ります。
明らかに異常でありますし、もしどうしても必要ならば何故あの大統領は皆様に説明責任を果たさないのか!?
我が日本より遥かに民主主義が成熟している筈の、皆様の合衆国での話です!」
ホワイトハウス、その他政府関連施設のスタッフ達も、テレビに見入る群衆も、この後の出来事を見逃すまいと食い入るように…。
「証拠を?勿論、その為のテレビジョンです。
こちらをごらんください。」
数枚の(マイクロフィルムから)引き伸ばされた写真。
しかし画質自体はこの時代のテレビでも文字を判読できるレベルには鮮明である。
こ、これは…。
「そうです!他ならぬキース・ライアン大統領のサイン!
いわばソ連書記長スターリンとの密約。
裏契約書とでも申しましょうか。
1943年と1944年、つまり今年の分。
不透明なレンドリース水増しの分と照合すれば明らかになるでしょう!
これは明らかに、合衆国の国益の為の友好、支援のレベルを超えています!
売国とも言って良いのでは?
我々日本が言うのも変ですが。」
「はっはっは!!話にならん!!」
ホワイトハウスで先頭切ってそう嗤ったのはメンチ副大統領であった。
「まさに猿でも作れそうなフェイク!
フェイクフェイクフェーイクッッ!!
誰が信じるか。
こんなもん無視して攻撃再開しろ。
おうテレビ消せ消せ消せ消せ。」
「本物です!」
先刻の女性秘書であった。
「最新の方は私がタイプしました。
サインの筆跡も…私が誰より見ています!
申し訳…ありません…今まで。」
「ハァ?お前何言ってるのかワカってんのか!?
女1人そう言って誰が信じるか!?
そもそも、国家に対する裏切りだぞお前!」
「どっちが裏切ってんですかねえ?」
!?
一旦中座していたスティムソンが再び入室してきた。
「な、なんだ陸軍長官」
「以前からメンチ殿の私的な贅沢の噂を色々聞いいてな。
OSSの知人数名に内々に頼んで調べてもらっていた。
その結果が届いてな。」
「え?」
「正当な国家からの給与。
それ以外に不審な献金がないかどうか。
そう、過剰なレンドリースで巨額のカネが動けば、当然中抜きの恩恵にあずかる輩も一定数でてくる。
調べたらありましたねえ!
親類名義で、口座に一月で振り込まれている謎の大金が!
しかもあんたのところの秘書と引き出しのサインの筆跡鑑定も一致したと!」
全員の視線がメンチ副大統領に向く。
その顔は青ざめ、視線は泳いでいた。
「まぁおこぼれと言うか、口止め料的なニュアンスもあったのだろう。
さあ、説明してもらいましょうか!?」
皆に包囲された格好になるメンチ。
「し、知らん!軍人風情がでしゃばるな。
事実無根だ!
誰かこいつを掴み出せ!」
スティムソンの眉が吊り上がり、メンチの胸ぐらを掴む。
「軍人風情だあ!?
その軍人が、一人一人の若い兵士が、あんたが女やギャンブルに溺れてる間に命を張ってるんだ。それをキサマ…
特別公聴会を開いても良いんだぞ…と、トルーマン副大統領も仰っている。ですよね?」
トルーマンは簡潔に「YES」と頷く。
「OSSにもだが、これは国家反逆罪容疑でFBIに出てもらう案件だ。」
「チェックメイトだ。完全に。この際、もう全て吐いてしまいなさい。」
トルーマンもそう言い放つ。
とは言え床に崩れ落ちたまま、もう声帯を動かすこともままならないメンチ。
「あなたも全ては知らされていない。
だがおそらくわが合衆国を一種見限り、大部分赤化して、特権階級だけで富を独占する。
しかも実質ソ連の支配下で…。
一定の、膨大な権力と富を維持強化できれば、寄るべとなる政体や思想や国家はどうでも良い、とてつもない寄生虫だという訳だ、セブンシスターズは。」
トルーマンの言葉に、弱々しく頷くメンチ。
そこで、この場では初めてハル国務長官が発言する。
「トルーマン副大統領、もはや安否以前にライアン氏は決定的に国民の信を喪ったと見なし、全閣僚があなたを大統領とし、アメリカ合衆国を託したいと考えますが?」
戸惑ったような表情を浮かべるトルーマンに、メンチ以外の全閣僚とスタッフが拍手を送る。」
「謹んで、神と国民に誓い奉職します。
では、さっそくだが、全軍に自衛以外の戦闘停止命令と日本との緊急講和を発したい。
そして、国内向け演説だ。」
「「御意!!」」




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