新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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告発、そして…

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ライアン大統領の指定(厳命)した1944年5月23日。
現地時間の早朝7時。
アメリカ合衆国の偉大さの象徴。
他ならぬニューヨーク、自由の女神像。
高所で彼女の顔面を磨いていた初老の男性作業員は、そのまま手を休め、なんとなしに水平線に目を遣る。
ふう、今日も天気は良さげだな。
水平線に船か。
海軍さんの軍艦かねえ。
にしてもデカイな、戦艦?

チカッチカッと、何かが光る。
え?
2秒後、凄まじい金属音と衝撃波!
「おううわん!!?」
咄嗟に「彼女」の顔面にしがみつかなければ、命綱一本で宙ぶらりんになるところだった。
まだ油断はできない、案の定、同じことが2度続く。
そして下を見下ろすと、野次馬がわらわらと…。
こりゃ仕事してる場合じゃねえな。

ホワイトハウスは騒然としていた。
「不明艦…少なくとも味方ではないのだな!?」
もう1人の副大統領、トルーマンの言葉にノックス海軍長官は汗を拭いつつ応える。
「御意…。
普通に考えればドイツ艦ですが、報告によると優に10万トン超えの超巨艦との報告…。
そうなると日本の未確認艦、モンスターX…。であるとしか…。」
「バカな!パナマ運河を通らず、南米大陸南端を迂回して…1ヶ月強もかけてか!?
(他に北極海強行突破ルートもあり得なくはないが)
それ以前に各方面の海上哨戒線に一切かからなかったとはどういうことかね!?」
コーデル・ハル国務長官も誰もが思う疑問をノックスにそうぶつけた。
「なんともはや…そもそもモンスターXなる未確認艦の性能自体が分かりかねる状態でして…海軍情報部挙げても…まともに交戦したのがあのマリアナ沖の1度きりで、しかも一方的なアウトレンジから…。」
「もういいっ。」
トルーマンも苛立ちを隠せない。
「それで肝心要の大統領閣下は!?」
「ご体調優れず、病院にて精密検査を…何処であるかはセキュリティ上…。」
女性秘書の回答に、一同はげんなりした。
だができることをするしかない。
「陸上基地からのスクランブルは!?」
ハルの問いに、途中から入室して来たスティムソンが応える。
「各基地から稼働全機、500機以上が先刻発進した。」

「いやあ絶景ですなぁ。」
その「モンスターX」こと、
帝国特種機動決戦兵器
「亜威音(アイオーン)」
その艦橋から、居並ぶニューヨークの摩天楼を眺め、森下信衛・亜威音副長は感嘆の声を上げる。
「まぁ私もたまげましたよ。
これがアメリカの圧倒的国力の象徴なんですな。」
艦長代行、松田千秋少将もそう応じる。
「どうせなら、あの自由の女神像やら摩天楼を適当にぶち砕いてやりたいですがなぁ。」
砲術長の黛中佐の言葉を、遮るように松田は手を上げる。
「ならんならん。小沢長官と久保中将の厳命だ。民間施設には一切手を出すなと…。」

先刻の砲撃は、驚くべき事に軍需工場…。
しかもデトロイトのB32製造関連施設であった…。
もはや砲撃を超えた何か…ワシントンD.C.も混乱は頂点であろう。

だが、そもそもこの作戦、威嚇が主ではない。
「機関長、主機は?」
「先刻の斉射時も出力45%」
「そちらは順調だな。
ならば、通信長頼む!」
「ヨウソロ!」

米国全土のラジオ、テレビがほぼ同時であった。
「電波ジャックだと!?」
「かなりの高出力で、対抗に30分以上は…。
まず先方がラジオで案内し、それで街頭テレビや各家庭のそれに皆が食いついてる状態でして…。」
「各局に直ぐに停波命令を!」
「待て、流石にそれクラスの強権には大統領裁可が居る。」
「だから!居ないじゃないか!どこの病院当たっても!副大統領たる君が緊急代行すれば良い!」
高官たちが言い争う間、先刻の秘書が室内にあるテレビチャンネルを合わせる。
皮肉にも、各企業に積極的に支援を与え、一般家庭へのテレビジョン普及を急加速させたのは、行方知れずのライアン大統領…。

そして、チャンネルが合い、礼服を着た日本海軍軍人…久保拓也であった。
「臨時代行特使」という肩書きを自己紹介に付け加え…。
「…現在のわが日本の意図は、天皇から一国民に至るまで、一貫して貴国との和平を望んでおります。」

クソジャップが!俺の甥っ子を殺しておいて!
最初は各所の街頭テレビでそんな声が上がる。
が…
「確かに、我が日本国及びその軍隊は、満州事変から対米開戦直後は、シビリアンコントロールの基礎さえ憲法に設定されておらず、肥大化した軍隊をコントロールできていなかった歴史があります。
戦闘上の互いの犠牲には目を瞑るとしても、明らかに非戦闘員を根拠なく虐殺する等の戦争犯罪が行われていたことは事実です。
今回あなた方との和平が成れば、実行犯、責任者の処罰は責任をもって行います。
この場はまず、各国の被害者、およびご家族の皆様にお詫び申し上げます。」
深々と頭を下げる久保。
少なからぬ割合で、各地のアメリカ国民は驚いた。
あれ?意外とまともな連中じゃね?
少なくともナチとは違う…。

久保は続ける。
「戦争には英雄的な側面があります。
我が国も例外でなく、そればかりを強調し、メディアも巻き込んで国民を駆り立て、若者を死地に送ってきました。
痛ましいとしか言いようがありません。
ただそれは、あなた方の国もそうです。
特にあなた方が熱狂し歓迎したライアン大統領。
彼が強烈に推した日本本土爆撃計画。
我が国の無辜の民を多数虐殺した事もでありますが、今アメリカ国民の皆様に知っていただきたいのは、我が国の防空戦闘により超重爆撃機B32が多数撃墜され、そして、パイロットや乗組員。つまりあなた方の息子さんや夫がこちらで算出出来ただけでも23120人、亡くなるか行方不明になっていると言うことです。
別個に先回のハワイ沖海戦ではアメリカ側の犠牲はやはり10000人を超えています。
さて、それをメディアは、いや、メディアにあなた方の大統領は正確に報じさせたでしょうか…。」
ある街の街頭テレビでは、泣き崩れる婦人が相次いだ。
同時に怒りの声も上がる。
合衆国全土に、その流れは波及した。






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