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自由と民主。その闇に。
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ハワイ占領さる!
アメリカ本土は騒然となっていた。
号外まで各主要都市でばら撒かれた。
そもそも我が海軍の兵力が圧倒的な上に、巨人機B32の空襲で日本は息も絶え絶えではなかったのか!?
政府や軍はなにをしてるんだ。
というより我々を騙しているのではないのか!?
ライアン大統領はすかさず全国放送で演説を行った。
「占領といいましても、日本軍は我が軍事関連施設しか制圧できておりません。
つまりハワイ住民に死傷者は皆無です。
しかもやっと占領したはよいが、彼らにとってハワイは日本からあまりに遠く、早晩補給が続かなくなり餓死か撤退かを迫られることとなりましょう。
もちろんこちらからのハワイ奪回作戦。
及び本土西海岸の徹底した防衛強化も積極的に進めておりますので、まずはデマに惑わされず、国民の皆様にあられては冷静な対応及び、自由と民主主義の砦たる合衆国の一員であるという自覚を忘れず、引き続き国のための献身をお願いする次第であります。」
…不思議なことに、このレベルの内容でも、ライアンという男の口から発せられると人々を安心させ、そこからさらに昂揚すらさせるのだ。
カリスマなどという平易な表現では、この男の妖しき魅力を説明できないものがあった。
それは政権掌握時のドイツ国民を熱狂させたアドルフ・ヒトラーの民主主義国家版とも言えた…。
「ところでスティムソン長官。」
その日一通りの予定を終えた所に、偶々報告に訪れた陸軍長官にライアンは問いかける。
「やはり国民の手前、早期にハワイに居座った日本軍は駆逐したい。
わが合衆国の誇るB32超重爆撃機。
稼働機はなんやかや1000機はあると聞きます。
600から700機の数で一斉飽和攻撃すれば、敵陸海軍を壊滅ないしは撤退に追い込めるのでは?」
スティムソンは2秒ほどあんぐり口を開け。
その後かぶりを振った。
「お言葉ですが大統領閣下、それはあまりにリスクが多すぎます。
彼らの空母機動部隊は小規模ながらまだハワイ周辺で睨みを効かせておりますし、奪取した飛行場にも陸軍機が海路輸送等でハワイ奪取の際、ほぼ同時に進出しているとの情報。
無論我が方を質的に上回るジェット戦闘機です。
それでもゴリ押しすれば敵を追討できましょうが、これまでの戦訓から見て、敵艦隊からの対空砲撃を含め、優に60%超えの損害は受けましょうぞ。」
「ふむ?消耗した分は十二分に余裕を持って補えるのでは?
他ならぬ合衆国の国力ですよ?
当然人員もいなくなれば国内で十分育成…というよりむしろパイロット余りと聞いておりますが?」
コイツほんま…!
「大統領閣下!待って頂きたい!
B32が1機墜されれば、12人のクルーが最悪犠牲になる可能性があるのですぞ!?
無論陸軍航空隊や海軍潜水艦群は救助に作戦の度に全力を尽くしますが限界がある。
何のかのでこれまで、2万5千人のクルーが、アメリカの若者達が、戦死または行方不明となっている。
しかもそれをマスコミには隠して…。
それに加えて海軍も…」
「それまでにして頂きましょうか?」
完全にライアンの腰巾着枠として、補佐官を務めるビズベリー・メンチが大統領の代わりに言い放つ。
「大統領閣下は合衆国3軍の最高司令官でいらっしゃる。
如何に民主主義の軍隊と言えど抗命に取られかねない言動は謹んで頂きたい!
そう、ここが日本やドイツであったら、銃殺刑ですぞ貴方は。
ここが寛容で自由な国であってよかったですなぁ。
しかし、やはり日々国家に献身的に尽くしておられる、間違いなく合衆国史に残るライアン大統領閣下に対する非礼は詫びねばなりません。」
「何が言いたい?」
「そのままの意味です。先刻の非礼を大統領閣下に全力で詫びてはいかがでしょうか?と申し上げているのです。跪いて。
つーか、詫びろ。
詫びろ詫びろ詫びろォ!!」
な、なんなんだコイツは、コイツらは。
貴様らこそ合衆国軍を、いや国そのものを弄んでいるのではないか?
とりあえずこのクソな補佐官をぶん殴って、辞表を叩きつけようか!?
当然そういう激情がスティムソンの胸中に沸く。
だが。
私がいなくなれば陸軍、そして海軍の首脳もライアンのイエスマンでなし崩し的に固められていく流れを作ってしまう。
その思いでどうにか感情を制御し、さらには自ら膝を折り曲げさせる。
跪いたスティムソン陸軍長官。
「…申し訳…ございませんでしたッ!
大統領閣下!!」
なんなんだクソ、この茶番は。
当の大統領ライアンは、資料に目を向けたまま頷く。
「まぁ、そこまでなさらずとも。
『私の提案』を明日中に第20爆撃団に決行させて下さればよいのですから…。」
「は、はい。これにて失礼致します…」
ホワイトハウスの廊下を歩きながらスティムソンは頭脳をフル回転させる。
アーノルド将軍、ルメイらと詳細は詰めねばならないが…。
搭載可能なだけの集束ロケットユニットを多数機に乗せ、まだ量産品がロールアウトしたばかりの誘導爆弾。
それらを有効に使い、ハワイの民間人を巻き込まず、限定的かつ熾烈な攻撃で日本陸軍部隊と海軍を駆逐、いや殲滅しなければならない。
どうせやるならば、この不毛な戦争を終わらせる一撃となるように…。
「さて、そろそろかな?」
ハワイオアフ島、アメリカ陸軍航空隊基地。
鹵獲したB32の視察名目で足を運んだ久保拓也。
一応一通り目を通すと、先刻本土から飛来したばかりの富嶽の方に足を向ける。
ちなみになんやかや、今回の強襲作戦後無傷で稼働している富嶽はもう各基地に合計5機となっている。
そして、増加試作という名の生産も3ヶ月前に停止…。
次の段階よな。
そして全ては予定通り。
件の富嶽内に設けられた一室。
ドアの前に女性看護師が立っていて、互いに礼を交わし、ノックして入る。
笠原めぐみ…。が、椅子に腰掛け何やら分厚い本を読んでいた。
足音でようやく気づいたようだ。
「あっ、もう着陸したんですね。
すみません。中将。ありがとうございます。」
「いやこちらこそ、空の長旅を…。」
例によってそわそわしているめぐみに、久保は荒い息と共に劣情の象徴を突きつけた。
アメリカ本土は騒然となっていた。
号外まで各主要都市でばら撒かれた。
そもそも我が海軍の兵力が圧倒的な上に、巨人機B32の空襲で日本は息も絶え絶えではなかったのか!?
政府や軍はなにをしてるんだ。
というより我々を騙しているのではないのか!?
ライアン大統領はすかさず全国放送で演説を行った。
「占領といいましても、日本軍は我が軍事関連施設しか制圧できておりません。
つまりハワイ住民に死傷者は皆無です。
しかもやっと占領したはよいが、彼らにとってハワイは日本からあまりに遠く、早晩補給が続かなくなり餓死か撤退かを迫られることとなりましょう。
もちろんこちらからのハワイ奪回作戦。
及び本土西海岸の徹底した防衛強化も積極的に進めておりますので、まずはデマに惑わされず、国民の皆様にあられては冷静な対応及び、自由と民主主義の砦たる合衆国の一員であるという自覚を忘れず、引き続き国のための献身をお願いする次第であります。」
…不思議なことに、このレベルの内容でも、ライアンという男の口から発せられると人々を安心させ、そこからさらに昂揚すらさせるのだ。
カリスマなどという平易な表現では、この男の妖しき魅力を説明できないものがあった。
それは政権掌握時のドイツ国民を熱狂させたアドルフ・ヒトラーの民主主義国家版とも言えた…。
「ところでスティムソン長官。」
その日一通りの予定を終えた所に、偶々報告に訪れた陸軍長官にライアンは問いかける。
「やはり国民の手前、早期にハワイに居座った日本軍は駆逐したい。
わが合衆国の誇るB32超重爆撃機。
稼働機はなんやかや1000機はあると聞きます。
600から700機の数で一斉飽和攻撃すれば、敵陸海軍を壊滅ないしは撤退に追い込めるのでは?」
スティムソンは2秒ほどあんぐり口を開け。
その後かぶりを振った。
「お言葉ですが大統領閣下、それはあまりにリスクが多すぎます。
彼らの空母機動部隊は小規模ながらまだハワイ周辺で睨みを効かせておりますし、奪取した飛行場にも陸軍機が海路輸送等でハワイ奪取の際、ほぼ同時に進出しているとの情報。
無論我が方を質的に上回るジェット戦闘機です。
それでもゴリ押しすれば敵を追討できましょうが、これまでの戦訓から見て、敵艦隊からの対空砲撃を含め、優に60%超えの損害は受けましょうぞ。」
「ふむ?消耗した分は十二分に余裕を持って補えるのでは?
他ならぬ合衆国の国力ですよ?
当然人員もいなくなれば国内で十分育成…というよりむしろパイロット余りと聞いておりますが?」
コイツほんま…!
「大統領閣下!待って頂きたい!
B32が1機墜されれば、12人のクルーが最悪犠牲になる可能性があるのですぞ!?
無論陸軍航空隊や海軍潜水艦群は救助に作戦の度に全力を尽くしますが限界がある。
何のかのでこれまで、2万5千人のクルーが、アメリカの若者達が、戦死または行方不明となっている。
しかもそれをマスコミには隠して…。
それに加えて海軍も…」
「それまでにして頂きましょうか?」
完全にライアンの腰巾着枠として、補佐官を務めるビズベリー・メンチが大統領の代わりに言い放つ。
「大統領閣下は合衆国3軍の最高司令官でいらっしゃる。
如何に民主主義の軍隊と言えど抗命に取られかねない言動は謹んで頂きたい!
そう、ここが日本やドイツであったら、銃殺刑ですぞ貴方は。
ここが寛容で自由な国であってよかったですなぁ。
しかし、やはり日々国家に献身的に尽くしておられる、間違いなく合衆国史に残るライアン大統領閣下に対する非礼は詫びねばなりません。」
「何が言いたい?」
「そのままの意味です。先刻の非礼を大統領閣下に全力で詫びてはいかがでしょうか?と申し上げているのです。跪いて。
つーか、詫びろ。
詫びろ詫びろ詫びろォ!!」
な、なんなんだコイツは、コイツらは。
貴様らこそ合衆国軍を、いや国そのものを弄んでいるのではないか?
とりあえずこのクソな補佐官をぶん殴って、辞表を叩きつけようか!?
当然そういう激情がスティムソンの胸中に沸く。
だが。
私がいなくなれば陸軍、そして海軍の首脳もライアンのイエスマンでなし崩し的に固められていく流れを作ってしまう。
その思いでどうにか感情を制御し、さらには自ら膝を折り曲げさせる。
跪いたスティムソン陸軍長官。
「…申し訳…ございませんでしたッ!
大統領閣下!!」
なんなんだクソ、この茶番は。
当の大統領ライアンは、資料に目を向けたまま頷く。
「まぁ、そこまでなさらずとも。
『私の提案』を明日中に第20爆撃団に決行させて下さればよいのですから…。」
「は、はい。これにて失礼致します…」
ホワイトハウスの廊下を歩きながらスティムソンは頭脳をフル回転させる。
アーノルド将軍、ルメイらと詳細は詰めねばならないが…。
搭載可能なだけの集束ロケットユニットを多数機に乗せ、まだ量産品がロールアウトしたばかりの誘導爆弾。
それらを有効に使い、ハワイの民間人を巻き込まず、限定的かつ熾烈な攻撃で日本陸軍部隊と海軍を駆逐、いや殲滅しなければならない。
どうせやるならば、この不毛な戦争を終わらせる一撃となるように…。
「さて、そろそろかな?」
ハワイオアフ島、アメリカ陸軍航空隊基地。
鹵獲したB32の視察名目で足を運んだ久保拓也。
一応一通り目を通すと、先刻本土から飛来したばかりの富嶽の方に足を向ける。
ちなみになんやかや、今回の強襲作戦後無傷で稼働している富嶽はもう各基地に合計5機となっている。
そして、増加試作という名の生産も3ヶ月前に停止…。
次の段階よな。
そして全ては予定通り。
件の富嶽内に設けられた一室。
ドアの前に女性看護師が立っていて、互いに礼を交わし、ノックして入る。
笠原めぐみ…。が、椅子に腰掛け何やら分厚い本を読んでいた。
足音でようやく気づいたようだ。
「あっ、もう着陸したんですね。
すみません。中将。ありがとうございます。」
「いやこちらこそ、空の長旅を…。」
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