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太平洋艦隊最悪の日
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再び時系列は戻り…。
カリンは機上の人となり、ノルニルのコクピットで、味方戦艦部隊の主戦場に向かっていた。
何処かあの日の記憶がぶり返し、とろんとした目と表情。
しかしあきれたことに半ば無意識で操縦も率いる零戦88型部隊43機への指示も的確にこなしていた…。
「敵戦艦群、8000まで接近!」
「いかん、モンタナ級の高初速砲を水平撃ちされたら…!」
大和級の装甲も危うい。
「大和級と長門は各砲塔各個に応射!
あと金剛級以下は2艦で1艦を狙え!」
砲戦指揮を委ねられた宇垣が叱咤する。
ぶっちゃけ射撃管制もクソも無いノーガードの殴り合いとなっていた。
「ウィスコンシンⅡ、艦橋倒壊!砲塔から誘爆!」
「ミシシッピ通信途絶…。」
「落ち着け、まだ、1.5倍の数的優位は動かん。」
ミズーリⅡで砲戦指揮を執るリー提督は冷静さを崩さない。
だが、既にこのミズーリ含め中軸モンタナ級全てがダメージを負った状態。
しかし1隻でも最後に残れば勝利だ。
リーもスプルーアンスも肚を括っていた。
「金剛級、(比叡)に命中!完全に沈黙!」
「長門にも命中弾!」
歓声が上がる。
大和級だ。
あの手負いの怪物2隻を仕留めれば…。
残存モンタナ級2隻が砲撃を始めた瞬間…。
上空から響く金属音。
「まだ残っていたのか!?」
スプルーアンスが呻く。
まだアメリカ側も上空護衛に100機以上のF2H戦闘機を残していたが…。
それらも零風、ノルニル、天雷の3機の「戦略機」により、瞬く間に、戦闘機動に入る前にぶち墜とされていく。
更に零戦88型20機余が上空制圧に加わり、そして空域に睨みを効かせる。
その上で、22機の爆装した同型機がアメリカ戦艦部隊に襲いかかる。
操縦するのは戦闘機でなく、ベテランの艦爆パイロット達であった。
臨時増設したダイヴブレーキ、最高950キロの降下速度。
悪魔の熟練度で落とすは、大和級主砲流用の徹甲爆弾。
スプルーアンスは一瞬瞑目した。
アメリカ戦艦残存12隻が、素人目にも致命的とわかる大爆発を起こす。
実際この後7隻が沈没に至る。
それ以外も、完膚無きまでに戦闘力を喪失した。
「スプルーアンス閣下、他の司令部の皆様も…最早…急ぎ退避を。
残存の駆逐艦に今ならなんとか。」
艦長の言葉に、虚ろな目で応える。
眼前に迫ったと言っても良い日本戦艦部隊…。
なぜか一切の砲撃をやめている…。
「小沢長官、宇垣さん、横槍を入れて申し訳ございませんでした。
帝国海軍の堂々たる艦隊決戦に。」
零風から大和に呼びかける久保拓也航空参謀長。
「いや、気にしなくてよい、というより、正直救われた、感謝する!」
「長官の仰る通り…貴官の参謀本部で預かる責任を思えば当然の事、紙一重だった。
ご苦労様…。」
「恐れ入ります。」
…確かに、別の意味でも紙一重であった。
野中大佐の富嶽からのHEMP、電磁パルス攻撃がすべっていたら、充実しきった戦闘能力の米艦隊に勝てたかどうか。
辛勝や痛み分けでは、戦略目的は達成できないのだ。
しかし、みんなが力を尽くしてくれたおかげで…。
感謝ッッ!!
「長官、戦艦部隊は後方で休養と応急修理を。
あとは水雷戦隊、空母護衛の改秋月級9隻で対空対潜警戒致します。」
「承知した。」
上陸作戦はその後だ。
改秋月級は、各種レーダー、ソナーは日本軍における最先端。対空、対潜、水雷戦全方位対応の、後の世のイージス艦の雛形とも呼べる「準・巡洋艦」であった。
一方、大破した大型艦の応急処置を終え、ふらふらと撤収していくアメリカ艦隊。
重巡シカゴ艦内。
「スプルーアンス閣下、お休みを…。」
その疲労困憊振りを見かねたムーア参謀長らが進言し、リー提督が後を引き継ぐ。
「貴君らも、末端に至るまで救助作業終了後は休養を交互に取り給え。それからはオアフ島近傍まで後退しつつ、艦隊を再編せよ。」
「御意!」
再編と言っても艦種は巡洋艦駆逐艦のみで戦闘可能なのは40隻をとうに切っている。
敵はまだ、高速水雷戦隊健在。
空母機動艦隊にも余力をのこし、何よりあのモンスター、大和級2隻がしぶとく生き残っている。
当然彼らは、ハワイ、特にオアフ島奪取まで諦めないであろう。
絶対不利でも逃げる訳にはいかぬ。
合衆国軍が自国領を見捨てることは許されないのだ…。
遅くとも明朝には、彼らは来る…。
そのオアフ島はじめハワイ諸島。
軽いパニックが起こり、港湾部に万単位の市民が押し寄せる事態が発生していた。
もちろん日本海軍の艦隊との大海戦があると言う報道は聞いている。
しかし地上軍の輸送船などは伴わず、こちらに日本軍が押し寄せてくるなどとは聞いていない。
敵恐るるに足らずとはよく言ったものだ。軍は最早信用ならない。
何故か日本地上部隊の存在と、アメリカ海軍の大敗の情報が夜19時ごろに急速に皆に広まってしまったのだ。
「落ちついて下さい皆さん!
民間船は外洋進出禁止です。
出ても日本軍も…。」
そこへ計ったように日本軍の艦載機が飛来。
ビラをばら撒く。
『我が日本軍は明日正午までは、皆様のおられる民間居住区には一切立ち入りません。
また基本的に一貫して皆様の避難を優先致します。
山中でも結構ですし、もし民間船に乗ってアメリカ本土に避難を頂くのも自由。
その時船の両舷に赤十字を分かりやすく描いてくだされば、わが日本軍は攻撃は一切いたしませんのでご安心ください。』
…………!
アメリカ軍、当局も止めることは出来ず、突貫的に塗装や旗を下ろした民間船舶に分乗し、2万人以上の住民が避難していくのを止めることはできなかった。
カリンは機上の人となり、ノルニルのコクピットで、味方戦艦部隊の主戦場に向かっていた。
何処かあの日の記憶がぶり返し、とろんとした目と表情。
しかしあきれたことに半ば無意識で操縦も率いる零戦88型部隊43機への指示も的確にこなしていた…。
「敵戦艦群、8000まで接近!」
「いかん、モンタナ級の高初速砲を水平撃ちされたら…!」
大和級の装甲も危うい。
「大和級と長門は各砲塔各個に応射!
あと金剛級以下は2艦で1艦を狙え!」
砲戦指揮を委ねられた宇垣が叱咤する。
ぶっちゃけ射撃管制もクソも無いノーガードの殴り合いとなっていた。
「ウィスコンシンⅡ、艦橋倒壊!砲塔から誘爆!」
「ミシシッピ通信途絶…。」
「落ち着け、まだ、1.5倍の数的優位は動かん。」
ミズーリⅡで砲戦指揮を執るリー提督は冷静さを崩さない。
だが、既にこのミズーリ含め中軸モンタナ級全てがダメージを負った状態。
しかし1隻でも最後に残れば勝利だ。
リーもスプルーアンスも肚を括っていた。
「金剛級、(比叡)に命中!完全に沈黙!」
「長門にも命中弾!」
歓声が上がる。
大和級だ。
あの手負いの怪物2隻を仕留めれば…。
残存モンタナ級2隻が砲撃を始めた瞬間…。
上空から響く金属音。
「まだ残っていたのか!?」
スプルーアンスが呻く。
まだアメリカ側も上空護衛に100機以上のF2H戦闘機を残していたが…。
それらも零風、ノルニル、天雷の3機の「戦略機」により、瞬く間に、戦闘機動に入る前にぶち墜とされていく。
更に零戦88型20機余が上空制圧に加わり、そして空域に睨みを効かせる。
その上で、22機の爆装した同型機がアメリカ戦艦部隊に襲いかかる。
操縦するのは戦闘機でなく、ベテランの艦爆パイロット達であった。
臨時増設したダイヴブレーキ、最高950キロの降下速度。
悪魔の熟練度で落とすは、大和級主砲流用の徹甲爆弾。
スプルーアンスは一瞬瞑目した。
アメリカ戦艦残存12隻が、素人目にも致命的とわかる大爆発を起こす。
実際この後7隻が沈没に至る。
それ以外も、完膚無きまでに戦闘力を喪失した。
「スプルーアンス閣下、他の司令部の皆様も…最早…急ぎ退避を。
残存の駆逐艦に今ならなんとか。」
艦長の言葉に、虚ろな目で応える。
眼前に迫ったと言っても良い日本戦艦部隊…。
なぜか一切の砲撃をやめている…。
「小沢長官、宇垣さん、横槍を入れて申し訳ございませんでした。
帝国海軍の堂々たる艦隊決戦に。」
零風から大和に呼びかける久保拓也航空参謀長。
「いや、気にしなくてよい、というより、正直救われた、感謝する!」
「長官の仰る通り…貴官の参謀本部で預かる責任を思えば当然の事、紙一重だった。
ご苦労様…。」
「恐れ入ります。」
…確かに、別の意味でも紙一重であった。
野中大佐の富嶽からのHEMP、電磁パルス攻撃がすべっていたら、充実しきった戦闘能力の米艦隊に勝てたかどうか。
辛勝や痛み分けでは、戦略目的は達成できないのだ。
しかし、みんなが力を尽くしてくれたおかげで…。
感謝ッッ!!
「長官、戦艦部隊は後方で休養と応急修理を。
あとは水雷戦隊、空母護衛の改秋月級9隻で対空対潜警戒致します。」
「承知した。」
上陸作戦はその後だ。
改秋月級は、各種レーダー、ソナーは日本軍における最先端。対空、対潜、水雷戦全方位対応の、後の世のイージス艦の雛形とも呼べる「準・巡洋艦」であった。
一方、大破した大型艦の応急処置を終え、ふらふらと撤収していくアメリカ艦隊。
重巡シカゴ艦内。
「スプルーアンス閣下、お休みを…。」
その疲労困憊振りを見かねたムーア参謀長らが進言し、リー提督が後を引き継ぐ。
「貴君らも、末端に至るまで救助作業終了後は休養を交互に取り給え。それからはオアフ島近傍まで後退しつつ、艦隊を再編せよ。」
「御意!」
再編と言っても艦種は巡洋艦駆逐艦のみで戦闘可能なのは40隻をとうに切っている。
敵はまだ、高速水雷戦隊健在。
空母機動艦隊にも余力をのこし、何よりあのモンスター、大和級2隻がしぶとく生き残っている。
当然彼らは、ハワイ、特にオアフ島奪取まで諦めないであろう。
絶対不利でも逃げる訳にはいかぬ。
合衆国軍が自国領を見捨てることは許されないのだ…。
遅くとも明朝には、彼らは来る…。
そのオアフ島はじめハワイ諸島。
軽いパニックが起こり、港湾部に万単位の市民が押し寄せる事態が発生していた。
もちろん日本海軍の艦隊との大海戦があると言う報道は聞いている。
しかし地上軍の輸送船などは伴わず、こちらに日本軍が押し寄せてくるなどとは聞いていない。
敵恐るるに足らずとはよく言ったものだ。軍は最早信用ならない。
何故か日本地上部隊の存在と、アメリカ海軍の大敗の情報が夜19時ごろに急速に皆に広まってしまったのだ。
「落ちついて下さい皆さん!
民間船は外洋進出禁止です。
出ても日本軍も…。」
そこへ計ったように日本軍の艦載機が飛来。
ビラをばら撒く。
『我が日本軍は明日正午までは、皆様のおられる民間居住区には一切立ち入りません。
また基本的に一貫して皆様の避難を優先致します。
山中でも結構ですし、もし民間船に乗ってアメリカ本土に避難を頂くのも自由。
その時船の両舷に赤十字を分かりやすく描いてくだされば、わが日本軍は攻撃は一切いたしませんのでご安心ください。』
…………!
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