新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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拳の交換

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1944年5月19日、ハワイ沖
現地時間早朝。
「敵戦爆連合接近中!数は800以上!」
「来おったか。まぁそれ見越して、こちらから懐に飛び込んでやったのだがな。」
機動艦隊司令山口多聞は、動ずる事なく戦闘中央情報室…CICに仁王立ちしていた。
直掩戦闘機隊は450機超。
空中指揮は臨時に帝都防空の任を外れ、大鳳戦闘機隊に加わった鴛渕孝中佐が執る。
高度の優位は、7000メートル付近でわずかにアメリカ攻撃隊サイド。
F2Hが護衛するは、防御強化したAー1スカイレイダー。
魚雷は積まず、皆2トン徹甲爆弾である。

「恐らく敵主力は艦載機だけでも2000機強。陸軍機を加えれば4000に迫るやもしれない。
まだほんの序の口よな。」
山口多聞がひとりごちる。
空戦が始まった。
「第1から第3大隊まで敵戦。
残りは敵攻撃機に当たれ!1機も通すな!」
「「了解!」」
無論機体や部隊、母艦CICとの意思疎通は完璧であるが、彼ら少なくとも真珠湾から実戦経験を重ねている達人名人揃いの日本海軍パイロット達に関しては、多少の数や位置の有利など誤差以下であった。
次々と編隊の連携を切り崩され、黒煙を上げ、あるいは空中爆発して散っていくF2H、
そしてスカイレイダーも。
だがそれでも彼らは彼らで壮烈なヤンキー魂を見せる。
日本艦隊輪形陣の猛烈な対空射撃を掻い潜り、空母旭鳳に2トン爆弾が叩きつけられる。
装甲甲板をぶち抜かれ、誘爆を繰り返し大火災…。
甘くはなかったか…。
山口司令、小柳参謀は唇を噛む。
軽巡豊川にも直撃との報。
スカイレイダーの様な大型爆弾搭載機の登場で、例えば鳳凰などは木製甲板に耐熱剤加工、甲板下のフロアやヴァイタルパートを頑強にするという対応をしていたが、正直前世代の大鳳級系列には間に合わなかったと言うのが本音である。
旭鳳は辛うじて沈没を食い止める。
だが、豊川は…。
「生かして帰すな!」
山口多聞司令が吠える。
実際30ミリ機銃や4式40ミリ連装砲(正直ボフォースのパクリな所もあるが、性能は上である。)
の猛射に、零戦88型によるものも含めスカイレイダー512機の内352機が撃墜。
護衛のF2Hも似たり寄ったりの損耗率…。
「よし、直掩機収容しつつ周辺を引き続き警戒。
敵影なしと確認次第此方の攻撃隊を発進!」
御意!

その時、1人のレーダー手が挙手。
「敵大型機急速接近!
数は100機未満かと?」
「何?」
「タイミングが悪いな…まさかB32か!?
しかし、上空からの爆弾バラマキ…公算爆撃にしては機数が…。」
「いえ、それが…緩降下…にしてはやや早いペースで高度下げてます。
距離80キロで高度4500!」
「直掩戦闘機収容急げ!新たに上がった連中に迎撃させろ!
空母艦隊は防爆扉閉め!」
山口は背中に汗を掻いていた。

「よし射程に入った!全機レーダー照準定め次第斉射!」
舌なめずりしながら、B32司令ダヤン少佐は命令を下す。
「こいつはやべえ!阻止だ!」
40機程度の零戦88型が追いすがり機関砲を撃ちまくるが、通常の奴よりカタい!
束となって放たれるロケット。
前部ユニットからまず12発放ち、それを投棄し後部ユニットで再度撃つ構造。
不幸にも戦艦霧島の後部に、7~8発が命中。
主要装甲は抜かれなかったもの、中規模の火災と浸水…。
翔鶴も甲板を直撃される。
「いいゾ~これ。やりまくれ!」
対空防弾の破片が次々当たるが、しかし意に解さないダヤンや部下達の機体。
よし次は後部ユニットから…。
!?
2番機が主翼を叩き折られる。
なんだ!?
「念の為上空警戒していて正解だったぜ…」
久保拓也の駆る戦略機、零風であった。
47ミリ砲の単発撃ちを繰り返し、次々と変異種のB32に致命傷を与える。
並行し、周囲に残った零戦88型に指示を出す。
「全機、こいつらの下腹を狙え!ロケット砲のユニットが露出している!
仮に閉じていても爆弾層扉はほかに比べ脆弱だ!
「リョウ!」
急激に数を減じていくB32艦隊攻撃タイプ(?)
「全機、撃ち尽くしたら撤…」
言いかけたダヤンのコクピットを47ミリ砲弾が直撃した。
さらにフラフラと別方位に逃れた梯団は、小沢連合艦隊司令長官の号令一下、全日本戦艦が斉射した4式対空主砲弾の爆風と弾子に巻き込まれる。
結局、恐らくは9割前後のダメージを負ったB32の群れは戦場から消える。
しかし零風の機上レーダーを見て、大きく息をつく久保。
これは4桁イッてるな…。
大和と鳳凰のCICに回線を繋げる。
「小沢長官!山口司令、作戦乙案に切り替えを進言いたします。
こちらからの攻撃隊発進は当面無理です。」
「承知した!全艦全機に伝達する。」
「こちらも状況把握!こちらから戦闘機は全部出す。」
「カリン、杉田、すぐに上がれるか?」
「とっくにスタンバってるっての!」
「合点承知であります!」
「宜しく頼むぞ。必ず殲滅だ。」

アメリカ第58任務部隊の作戦機残り1350機。
一方緊急発進できた零戦88型は472機。
全くこれまでと異次元の戦闘が繰り広げられようとしていた。





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