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再び、盤面を動かせ。
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例の最大規模の空襲から2日間のみの空白を置き、再び1日1地域であるが再開され、徐々に日本側の損害も拡大していた。
圧倒的なキルレシオを維持しつつ、それでも当たり前のように日々攻め寄せる敵B32群。
そしてどうしても100%阻止とはいかない市民の犠牲。
陸海軍の防空部隊にも疲労の色が見えてきた。
ジェット機や対空誘導弾梅花の量産が急務であり、各地に疎開がてら分散、あるいは2ヶ所程完成していた地下の各種軍需工場は当然フル稼働していたが、兵器の特性上やみくもに粗製濫造とはいかない。
結局限られた熟練工が中心に、動員された学生達に関しては段階的にレクチャーしながら…。となる。
最前線でそれらは不足…とはならないものの、なかなか鉄壁の防空網完成とはならない。
ここは今更ではあるが、超大国アメリカとの国力と戦前からの蓄積の差を痛感してしまうところだ。
勿論戦前の総力戦研究所の予想より遥かに、重要戦略資源のシーレーン面や絶対量は良好であったが…。
何度ノックアウトしても平然と立ち上がり突進してくる相手に、結局こちらの足腰が限界を迎えてしまう可能性が大なのだ。
なんとか埒を開けねばならない。
東條首相も臨席しての、参謀本部戦略検討会議が開かれた。
概ね久保も含め、上記のような結論に達しざるを得なかった。
「陛下にあらせられても、臣民の犠牲者増加を大いに憂いておられる次第…。」
東條の言葉に、皆改めて背筋を正す。
「より防空体制の強化に…」
「それは聞き飽きた。」
「とにかく成都を再制圧だ。蒋介石も弱体化している。」
「うむ…中国国民党軍がアメリカの空路支援で復活する前には。」
「だがハワイからのみのB32来襲も脅威。」
「そこなんだがなぁ。」
自然と、皆の視線は久保拓也大本営航空参謀長の方角に向く。
結局は…
久保は口を開く。
「ふむ。いっそハワイで決戦を挑み、奪ってしまうのは如何でしょうか?
いま燃料を集めれば連合艦隊と余剰輸送船団の総力を動かし得ます。」
周囲がざわめく。
「いや…無茶だ!」
「確かに連合艦隊の体制は再生強化はされた。
しかしよしんば艦隊決戦に勝ち、ハワイを抑えても、維持はどうする!?」
「兵員物資輸送に用いた輸送船団はまた南方の輸送任務に戻さねばならん。
まだ敵の潜水艦等の攻撃で17%の消耗率。ギリギリ補填分が間に合っておると言うだけで…。船舶不足に変わりはない。」
海上護衛総隊の大井篤少将の反発が特に強かった。
「勿論、一連の事情は承知しております。
上陸部隊は一個師団プラス海軍陸戦隊。
そして維持は最高半年で、宜しいのです。」
どよめく一同。
「もう少し、詳しく説明願うか?」
山本五十六参謀総長が皆を代表する形で言った。東條首相も頷く。
「では失礼致します。
詳細をご説明する前に、この大戦を巡る状況が大きく変わった事をご念頭に頂きたく。」
地図盤の前に立った久保の言葉に、皆は首を傾げる。
「この数ヶ月の本土防空戦。
あるいはそれ以前の艦隊決戦。
いずれも少なくとも戦術的には我が方の圧勝。
戦略的にも所定の絶対国防圏を守り抜いております。
ですが…。」
「あの大統領ライアンか…」
東條の言葉に久保は大きく頷いた。
「緒戦では正直私自身も、短期間に数万名単位の人的損害が出れば、それで講和とはいかないまでも米国世論に少なからず厭戦気分が出てくると考えておりました。
ですが現実には、艦艇や航空機を無数に喪おうとも、貴重なクルーの人命が何万と失われようとも、米国は国力を総動員し、何事もなかったかのように反復して押し寄せてくる。
肝心の世論も厭戦気分とは程遠く、ライアン大統領支持一色と言っても過言ではありません。
かの御仁に不可思議なカリスマ性があるかは別口で調べないとなりませんが…。
いずれにせよ『個人主義』『人命第一』であると言う米国の先入観を未だお持ちの方がいらしたら、捨てて頂きたい。
白人の戦争の知恵を覚え、ハネ回る黄色人種の民族を殲滅!
究極そう言う思考で、現在あの国は動いていると言うことをお忘れなきよう。」
皆、ただ黙って聞き入るしかない。
「故に、戦略面プラスさらに政治的な勝利…となりますと、やはりハワイを一時的にでも占領せねばならない。
極めて重要な拠点でもある自国領…を奪取されれば、ライアン政権も無傷とはいかない。
北米大陸の喉元に刃を突きつけることともなる。
さて。具体的な作戦に入りますが…。」
一同はまた、困惑と驚愕の表情を浮かべることとなる。
択捉島、単冠湾。
すべてはここから始まった。
5月15日、久方ぶりに…いや事実上新生なった連合艦隊が集結する。
総旗艦は引き続き、対空装備、防御性と機関を改装した大和。
そして予備旗艦は武蔵。
第一空母機動艦隊は、7万トン級巨大空母 鳳凰
同型艦朱雀。
いずれも130機オーバーの艦載機、ジェット化にも当然対応している。
改翔鶴級筆頭に空母は15隻。
作戦機1200機の威容である。
久保は山口司令に侍り、第一機動艦隊旗艦鳳凰に乗り込む。
無論戦略機も搭載。
鳳凰には零風とノルニル。
他は大型空母に分散。
なお、帝都の護りとして赤松の雷電は厚木基地に配置している。
これとは別に…第二機動艦隊がアリューシャン列島に並行して空爆を仕掛け、牽制陽動を行う。
(久々の潮の匂いか…)
鳳凰の甲板に佇む久保拓也。
ライアンよ。俺は恐らく間違っているがお前はもっとだ。
自由と民主主義を口実に、若者を次から次へと死地に送り込んで何を求める!?
正直枢軸のファシズムより悪質で危険だ。
それを教えてやるよ。
帝国連合艦隊、同日1800に進発!
目標はハワイ!
圧倒的なキルレシオを維持しつつ、それでも当たり前のように日々攻め寄せる敵B32群。
そしてどうしても100%阻止とはいかない市民の犠牲。
陸海軍の防空部隊にも疲労の色が見えてきた。
ジェット機や対空誘導弾梅花の量産が急務であり、各地に疎開がてら分散、あるいは2ヶ所程完成していた地下の各種軍需工場は当然フル稼働していたが、兵器の特性上やみくもに粗製濫造とはいかない。
結局限られた熟練工が中心に、動員された学生達に関しては段階的にレクチャーしながら…。となる。
最前線でそれらは不足…とはならないものの、なかなか鉄壁の防空網完成とはならない。
ここは今更ではあるが、超大国アメリカとの国力と戦前からの蓄積の差を痛感してしまうところだ。
勿論戦前の総力戦研究所の予想より遥かに、重要戦略資源のシーレーン面や絶対量は良好であったが…。
何度ノックアウトしても平然と立ち上がり突進してくる相手に、結局こちらの足腰が限界を迎えてしまう可能性が大なのだ。
なんとか埒を開けねばならない。
東條首相も臨席しての、参謀本部戦略検討会議が開かれた。
概ね久保も含め、上記のような結論に達しざるを得なかった。
「陛下にあらせられても、臣民の犠牲者増加を大いに憂いておられる次第…。」
東條の言葉に、皆改めて背筋を正す。
「より防空体制の強化に…」
「それは聞き飽きた。」
「とにかく成都を再制圧だ。蒋介石も弱体化している。」
「うむ…中国国民党軍がアメリカの空路支援で復活する前には。」
「だがハワイからのみのB32来襲も脅威。」
「そこなんだがなぁ。」
自然と、皆の視線は久保拓也大本営航空参謀長の方角に向く。
結局は…
久保は口を開く。
「ふむ。いっそハワイで決戦を挑み、奪ってしまうのは如何でしょうか?
いま燃料を集めれば連合艦隊と余剰輸送船団の総力を動かし得ます。」
周囲がざわめく。
「いや…無茶だ!」
「確かに連合艦隊の体制は再生強化はされた。
しかしよしんば艦隊決戦に勝ち、ハワイを抑えても、維持はどうする!?」
「兵員物資輸送に用いた輸送船団はまた南方の輸送任務に戻さねばならん。
まだ敵の潜水艦等の攻撃で17%の消耗率。ギリギリ補填分が間に合っておると言うだけで…。船舶不足に変わりはない。」
海上護衛総隊の大井篤少将の反発が特に強かった。
「勿論、一連の事情は承知しております。
上陸部隊は一個師団プラス海軍陸戦隊。
そして維持は最高半年で、宜しいのです。」
どよめく一同。
「もう少し、詳しく説明願うか?」
山本五十六参謀総長が皆を代表する形で言った。東條首相も頷く。
「では失礼致します。
詳細をご説明する前に、この大戦を巡る状況が大きく変わった事をご念頭に頂きたく。」
地図盤の前に立った久保の言葉に、皆は首を傾げる。
「この数ヶ月の本土防空戦。
あるいはそれ以前の艦隊決戦。
いずれも少なくとも戦術的には我が方の圧勝。
戦略的にも所定の絶対国防圏を守り抜いております。
ですが…。」
「あの大統領ライアンか…」
東條の言葉に久保は大きく頷いた。
「緒戦では正直私自身も、短期間に数万名単位の人的損害が出れば、それで講和とはいかないまでも米国世論に少なからず厭戦気分が出てくると考えておりました。
ですが現実には、艦艇や航空機を無数に喪おうとも、貴重なクルーの人命が何万と失われようとも、米国は国力を総動員し、何事もなかったかのように反復して押し寄せてくる。
肝心の世論も厭戦気分とは程遠く、ライアン大統領支持一色と言っても過言ではありません。
かの御仁に不可思議なカリスマ性があるかは別口で調べないとなりませんが…。
いずれにせよ『個人主義』『人命第一』であると言う米国の先入観を未だお持ちの方がいらしたら、捨てて頂きたい。
白人の戦争の知恵を覚え、ハネ回る黄色人種の民族を殲滅!
究極そう言う思考で、現在あの国は動いていると言うことをお忘れなきよう。」
皆、ただ黙って聞き入るしかない。
「故に、戦略面プラスさらに政治的な勝利…となりますと、やはりハワイを一時的にでも占領せねばならない。
極めて重要な拠点でもある自国領…を奪取されれば、ライアン政権も無傷とはいかない。
北米大陸の喉元に刃を突きつけることともなる。
さて。具体的な作戦に入りますが…。」
一同はまた、困惑と驚愕の表情を浮かべることとなる。
択捉島、単冠湾。
すべてはここから始まった。
5月15日、久方ぶりに…いや事実上新生なった連合艦隊が集結する。
総旗艦は引き続き、対空装備、防御性と機関を改装した大和。
そして予備旗艦は武蔵。
第一空母機動艦隊は、7万トン級巨大空母 鳳凰
同型艦朱雀。
いずれも130機オーバーの艦載機、ジェット化にも当然対応している。
改翔鶴級筆頭に空母は15隻。
作戦機1200機の威容である。
久保は山口司令に侍り、第一機動艦隊旗艦鳳凰に乗り込む。
無論戦略機も搭載。
鳳凰には零風とノルニル。
他は大型空母に分散。
なお、帝都の護りとして赤松の雷電は厚木基地に配置している。
これとは別に…第二機動艦隊がアリューシャン列島に並行して空爆を仕掛け、牽制陽動を行う。
(久々の潮の匂いか…)
鳳凰の甲板に佇む久保拓也。
ライアンよ。俺は恐らく間違っているがお前はもっとだ。
自由と民主主義を口実に、若者を次から次へと死地に送り込んで何を求める!?
正直枢軸のファシズムより悪質で危険だ。
それを教えてやるよ。
帝国連合艦隊、同日1800に進発!
目標はハワイ!
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