新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

文字の大きさ
上 下
132 / 166

全方位戦線

しおりを挟む
ドイツ東部戦線中央軍司令官、マンシュタイン元帥の判断は早かった。
「全地上軍は、航空支援の元可及的速やかにモスクワ東方250キロの線まで後退せよ。
情勢によってはヴォルガ川で防衛線を構築する!」
ヒトラー総統より、このケースでの現場判断は全面的に委任されている。
しかし、警戒はしていたとは言えここまで質量ともに充実しきった大反攻にさらされるとは…。

「イワンめ、こりゃまた大量に突っ込んできたモノだぜ。
しかしまあ、慣れない海上戦闘よりゃマシか。」
平原を埋め尽くす雲霞の如きソ連軍T34の群れ、そこへ47ミリ砲を撃ち込み、的確にエンジン等の急所をぶち抜き擱座炎上させる。
対空砲火も激しく、ソ連空軍が制空権を奪いかけている中で「おそろしく操縦性の悪い機体」を駆ってだ。
「やっぱりこの御仁は魔王だ…。」
スツーカの機体後席でガーデルマンは慨嘆した。

日本
帝都参謀本部。
「正直予想外だ。もちろんソ連軍がかなり回復と反攻準備を整えているとは知っていたが。」
山本の言葉に、久保拓也も頷いた。
「はい。正直私も不覚でありました。
大攻勢の規模はまぁ予測通りでしたが。
如何に急いでも秋頃かと…。」
「やはり、アメリカ…大統領のライアンか?」
「御意。ルーズベルト氏の代にも増して、レンドリースに止まらない有形無形の支援をソ連に行っているのは確実ですね。」
「ふうん、曲がりなりにも自由主義、民主主義の盟主が共産国の親玉にねえ。
ナチスという共通の敵がいるとは言え…。ちと不可解だな。」
「御意。私の方でも掘り下げてみますが。
我が国として優先すべきは…。」
「本土防空戦であるな。新型兵器やジェット機を、全土の都市や要衝、工場に回し切れるかね?」
「即100%とはいきませんが、拙速は巧遅に勝るの精神にて…。」
久保は微かに口元を緩める。

そして、4月16日…。
日本時間20時過ぎ。
彼らは来た。
「浦賀沖500キロ、哨戒中の駆逐艦群よりB32群現出との報!」
「総数600以上!一部は分派して東海、関西地区に向かう模様!」
「来襲予測地域には全て警報を発令!」
さらに…。
「東シナ海上空の哨戒型富嶽より入電!
た…大陸からもB32、推定500以上!」
参謀本部は凍りついた。
まさか…総数4桁超えの、超重爆撃機による飽和攻撃!?

しかも日本全土を的にした…。
ざわめく参謀達。
そんな中、突然二種軍装を脱ぎ出す久保拓也。
「久保君、ナニを!?」
福留参謀らが戸惑ったのも無理はない。
身体に密着した、濃紺の試作耐Gスーツ。
それを身に纏っていたのだ。
「この直下に地下滑走路があります。
本官も、零風で出る!」
……………!!

そのまま早足で本営を去る。
「や、山本閣下…。」
「まぁ、定期的なあやつの発作というか…。」
帝都防空の地上指揮は加藤建夫将軍に任されていた。

13分後には高度1万2000メートルに達する零風。
その隣に雷電。
「一杯引っ掛ける前で良かったですよ、参謀長殿!
今日、嬢ちゃんの総監は?」
「カリン…ホルテンブルグ少将には関西地区を任せている。
まぁとにかく、零風を眠らせてる場合でもないのでな。」
「なるほど、おっ、アレが梅花か。」
200近い数のオレンジ色の線。
赤松にはかろうじて、久保にははっきりと、その向こうのB32の群が映る。
敵は慌てて開発したのかデコイ…多分照明弾の応用であろう…を撒く。
が、やはりタイミング等の問題で20から30の梅花の誘導を狂わせただけで、トータル60%に迫る命中率。
「おっしゃ!かなり楽になったぜ!」
赤松の言葉に呼応するように、零戦88型105機が轟音と共に襲い掛かる。
まだ敵B32は200機弱は居る。
さらに…。88型を率いる鴛淵中佐からの報。
「敵護衛にF2H!200機以上!」
やはりな。夜間レーダーの技術は向こうが上…。
「赤松さん、デカブツは任せる!」
「無茶いうなですよ!」
「貴方だから言っている!頼みます!」
「しょうがねえなぁ。」

「鴛渕!全機リミッターを外させろ!」
「了解!全機モード変更
『トランソニック』!」
一斉に加速する88型の群れ。
時速1100キロを超え、まだ完全とは言えぬ耐Gスーツで歯を食いしばりつつ、パイロット達は米軍のお株を奪う一撃離脱戦法を繰り返す旭日の鷲達。
「また超スピード!?」
アメリカ艦載機指揮官のヘリントン大佐は目を剥いた。
まさか我が国の技術の集大成を、時速200キロ近い速度差で出し抜かれるとは…。
そして例の謎の巨大戦闘機?が弾幕の嵐…。

「おるあっ!こっから先侵入禁止だバカヤロウコノヤロウ!!」
赤松は単機で、30ミリ機関砲10門の弾幕を張りつつ、さらに47ミリ砲単発撃ちで、1分間に8から12機ペースで敵を減殺していく。
「クッ、化け物め!編隊崩すな!弾幕を…。」

言いかけたラプター総隊長機のコクピットに、47ミリ砲弾が直撃。
算を乱したB32編隊に、久保の零風が転進し、襲い掛かる。
それに30機程の零戦88型も合流する。

そう…ここで米側にのしかかった一つの問題はF2Hの航続距離であった。
一応航続距離2000キロ以上、ジェット戦闘機黎明期のドイツMe262の倍以上とはなっているが、母艦を要する機動部隊が、敵本土沖合500キロまでに接近の限界を海軍中枢命令で定められてしまっていた。(日本側に捕捉攻撃されるリスクを考えれば、これでも攻めた方だ。)
結局全力の戦闘機動を行うのは、10から15分が限界…。
ヘリントンは任務半ばに、部下に離脱を命じざるを得なかった。






しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

江戸時代改装計画 

華研えねこ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。 「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」  頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。  ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。  (何故だ、どうしてこうなった……!!)  自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。  トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。  ・アメリカ合衆国は満州国を承認  ・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲  ・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認  ・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い  ・アメリカ合衆国の軍備縮小  ・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃  ・アメリカ合衆国の移民法の撤廃  ・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと  確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

処理中です...