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狂気の激突

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「B32、東京、大阪、名古屋…。
合計822機のうち撃墜698機だと!?」
「海軍の護衛戦闘機隊も半分喰われた。
ニミッツ提督は空母部隊を下がらせている…元々日本近海侵入自体危険な賭けであったしな。」
ハワイ、第20爆撃団の幕僚達は互いに青ざめた顔を見合わせる。
「正直、各隊からは出撃拒否の動きも出ている。なんとかなだめすかしてはいるが。」
「護衛戦闘機をつければ何とか、と思った矢先の対空誘導弾の雨だ。無理もないな。」

「アンタ達?なにをネガティブになってんの?」
他ならぬルメイ司令官。
「別命ない限り、爆撃任務は継続よ!
本日も予定通り、日本東海地区の工業地帯を叩きます。機数は482機。昨夜補充機が間に合って良かったわねえ。」
…………!!!

ダメだ、疑念の表情すら浮かべたらダメだ!
爬虫類の様な目で、なぜか幕僚達の下半身よりに視線を巡らすルメイ。
皆、慌てて股間を隠す。

「不服がないなら、2時間後の出撃に備えて準備なさい。」
「サー!イエッサー!!」
なにかが間違っている…。
しかし合衆国が命じる以上、われわれは、無論1番過酷なのはクルー達だが…とにかく一つの戦争機械と化すしかないのだ。

かくて、再び三菱、中島が愛知、三重に分散させた工場、および都市部への空襲は決行された。
途中機体不具合もあり442機。
それでも圧倒的だが、零戦88型80機の邀撃、そして梅花の200発を超えるつるべ撃ちに遭い、目標破壊は30%未満。
262機を失い這々の態でハワイへ逃げ帰る事となる。
だがルメイは表情一つ変えず、
「あと2往復もすれば目的完遂じゃない。」
と言い放ったという。
その日の夜、集団脱走を図った20名程のB32クルーが捕らえられ、うち7名は抵抗したとしてその場で射殺されることとなる。
残りも異例すぎるルメイの息がかかった参謀による即決裁判により銃殺刑。
「ここはこの大戦でも極めて特別な最前線だから」
という論理で…本国にも伝わったが問題視されることもなく。該当者は戦死扱いとされた。
いずれにせよ全爆撃団が50%前後の損耗率にも関わらず、表面上は不満一つ無く、連日その後も出撃していくこととなる。

ここで、話は中国大陸方面に飛ぶ。
日本帝国VS中国国民党政府軍&共産党八路軍。
中国西方で一進一退の激戦…。
に見えたのだが、総統蒋介石は困惑していた。
日本軍に何が起こっている?
対米戦開始時のラインを死守するのは分かる。
そこを再度切りとろうと攻勢をかけるとさっと引く。
しかし深追いするといつの間にか増えた装甲車両に乗った歩兵部隊や、規模はさほどでもないがドイツ張りの機甲師団に包囲され、空爆も含め手痛いダメージを食らう。
なぜか兵力を半減させ、満州含め50から60万程度の総兵力とは思えない精強ぶりであった。
こちらは援蒋ルートを絶たれ、近代兵器的にはけして優位ではない。
まぁソ連上空を通した空路等アメリカイギリスからの支援がゼロというわけではないが。
ただ何故か、「国民党政府は未だに日本軍を大陸から駆逐していない!」と勝手にハードルを上げられ、軍内や国民からの突き上げも無視できないものになっていた。
内部で煽っているのは、あの毛沢東一党だと分かってはいるのだが。
しかし明るい材料もある。
2週間以内にアメリカの超重爆撃機隊が成都に(結局日本軍は一時的に確保するに留まり、早々に放棄した。)
噂の巨大空中艦隊で、日本本土を灰塵に帰せば、また他の占領地も叩ければ、戦局は一気に好転する。
今のところ蒋介石は、そこに望みを繋ぐしかなかった。

一方、日本である。
帝都、航空技術廠地下施設。
久保は満足げに、そそり立つモノを…
見上げた。
「まだ誘導の精度が…50キロ半径だからな。
敵都市、施設等を確実に狙うにはまだ遠い。」
「だが、なんなら適当に撃って、ブラフに使うことはできるな。」
中野学校の中村はそう言った。
「ああ。だがやるなら確実に、完全な不意打ちで敵の急所を叩きたい。」
「まあ、それもそうか。ドイツもフォン・ブラウン博士が同じようなモノを開発していたな。
しかしお前…また大陸の友軍に新たな油田を見つけさせたらしいな。
いい加減タネを教えてくれても良さそうなものだが…。」
「べつに、ただ化石が大量に見つかる地層がある地域と聞いてた。もしかしてというカンが当たっただけだ。」
「まぁ、そういう事にしておこうか。
こちらが一応殴り勝ってるとは言え、流石にあれだけの化け物に毎日来られては日本のが先に限界が来る。
まだ色々腹案がありそうだな?」
「もちろんさ。」
その久保の声色に、改めて中村は思う。

(お前、自分で気づいているか?
いまのお前は、日本を守るという使命感とは別個に、戦争を楽しんでいるぜ?)

場は再び変わり
1944年4月14日早暁。
ソビエト連邦中西部、ノヴォシビルスク近傍。
ドイツ第3帝国陸軍、その林の中のトーチカのひとつ。
「おいっ、クルト起きろ。」
「んあ?あとちょい…。」
ブラウンシュヴァイク二等兵の言葉に、同僚はまどろんでいた、が、その後に続く轟音と地響き、金属音を聞き完全に目が覚める。
「嘘だろ…」トーチカの外を覗く。
けもの道のような林道を、ソ連軍のISー2重戦車が列をなし驀進している。
砲弾、空爆の着弾音も…。
「ヤバい(確定)」
「なんてこったい!繋がるとこどこでも連絡しろ!
ソ連赤軍の大攻勢だ!!」
「ヤー!!」
自分達の延命にすらならないとは思いつつも…。
ブラウンシュヴァイクは機関銃の銃把を握る。

バグラチオン作戦。
その幕開けであった。









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