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アメリカの本意気
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「とにかく大統領にご再考願わねば!」
アメリカ陸軍長官スティムソンは足早にホワイトハウスの廊下を歩く。
敵首都の70%強を灰塵に帰したのは良いとしても、代償が新鋭超重爆撃機B32トータル792機では…。
そして貴重なクルーを3504人失っている。
そして機体の量産、補充には自信があるとの意見が大勢であったが、その矢先にシアトルの主力工場が壊滅。
最終的には五大湖に複数の基幹工場を…2箇所はすでに稼働している…作るとは言えそれも向こうの正体不明の戦力に破壊されぬとも限らない。
さらには人命だ。
如何に十二分な訓練を内地で施してから送り出しているとは言え…。
徐々に地方都市や工業地帯にも敵はジェット機を配備している。
我が国は地上発進型のPー80がようやく揃い始めたばかり。
艦載機型の高性能ジェット機を開発、空母に載せて、日本近海からB32護衛に放つ…そんな段階には至っていない。
この状況でさらに貴重なクルーと機材を死地に放ちつづけるのはあまりにも…。
「失礼致します!」
執務室のドアを開ける。
…アレ?
「副大統領殿、アポは取ってあった筈だが。」
所在無げに佇むトルーマンに、スティムソンは問いかける。
「は、大統領仰るに、火急の要件故申し訳ないと…。」
「…既に日本本土空襲で何が起きているかはご存知の筈だが。」
声に軽い怒り。
「は、犠牲が拡大している事は承知している、だが一両日中に手は打つと…。」
「手、ね…。」
スティムソンは意識して大きなため息をついて見せた。
ロスアラモス。
よもやの日本超重爆撃機の奇襲により、施設と貴重な頭脳集団を失い、存続の危機に晒されていたマンハッタン計画。
しかし、難を逃れたオッペンハイマーらの主導により、どうにか奇襲時の進捗に近いレベルには立て直して来た。
「とは言え、我々だけでは無理でした。」
第3研究棟でライアン大統領一行を案内しながら、オッペンハイマーはそう言う。
「ほほう、貴方がた以上の秀才天才が我が国に?」
頷きつつオッペンハイマーは、廊下の奥のドアを指差す。
「や、やめてくださいドク。」
「あーダメダメダメ。あともう少しで君のヒップは流体力学的に理想の…。」
若い女性秘書に絡むこのハゲた男が!?
ライアンは顔はしかめたが、なにか尋常ならざるものを感じてもいた。
「ノイマン博士、大統領閣下がおいでです。」
3秒後向き直るノイマン。
「あれ?知ってるのと違うような…。
あー思い出しました。先代の急死で代替わりしたんでしたな。」
自分の興味の外にはとことん無関心なタイプか…?
「博士に単刀直入に伺いたい。
新型反応兵器はいつ完成しますか?」
「1945年7月に実験。計算上確実に成功。
8月に2、3発を完成。その気になれば実戦に即使用可能。」
簡潔かつ明瞭な答え。
「素晴らしい。
結局当初の遅れをほぼ取り戻して下さるとは。」
ライアン大統領は数回手を叩く。
「まぁ国の予算を予定より38.5%余分に喰ったですがね」
「問題ありません。これで自由主義陣営の勝利は担保されました。」
「ふふ、しかし本当に聞きたいのはそれだけではないでしょう、閣下。」
「はい。日本の…。」
「真珠湾以降、中国大陸での迷走ぶりが嘘のように一貫した戦略戦術に基づいて動いていると言う事。
はっきり言って行動原理が我々のそれに近い。
さらに由々しきは兵器における技術力で我々を部分的とは言え大きく出し抜いていると言うこと。
特に例の巨大不明戦艦。
そこら辺が引っかかっておいでなのでしょう。
大統領閣下は。」
「…仰る通りです。」
「不明艦の件で確信しましたが。
日本政府、軍部より先に、異質な存在の匂いを感じますな。
彼らの独特の組織、文化が本来この戦争の足枷になる筈が、それを変えてしまう程の強烈な個性が。」
個性…。
来客用ソファに座っていたライアンは身を乗り出す。
「1人は軍部内。
山本五十六の側近で、誰か彼らの海軍航空の用兵思想そのものを超える発想をもった軍人…多分比較的若い人物。
そしてさらに由々しきは…。
この私に匹敵かそれ以上の超頭脳を有した科学者にして天才数学者…。
恐らくそんなところでしょう。」
ライアンもオッペンハイマーも言葉を失った。
「まぁ、OSSに依頼すればすぐでしょう。
それよりも直近の課題として…B32を護衛しうる艦上戦闘機、一応グラマン社さんの名で量産に入ったとの事でなによりです。」
サンディエゴ沖合 新生なった改ミッドウェイ級を基幹とする、第58機動部隊。
今まで聞いたことの無い類の金属音を響かせ、濃紺の翼が空を舞う。
プロペラは…着いていない。
F2Hバンシー。アメリカ海軍初のジェット艦上戦闘機。
「これは、頼もしいな。」
当然の如く現役復帰後この大機動部隊を任された、レイモンド・スプルーアンス大将が呟く。
「ああご機嫌な快音だぜ。
残念なのは、俺自身の目であれにジャップが蹂躙される様をまだ見られないってくらいか。」
車椅子に乗って、無理矢理視察に訪れたハルゼーが呟く。
(これが、彼らの為にもならない戦いを終わらせる一助になればな。)
スプルーアンスは内心で呟いた。
(2022年5月31日付けの作者近況ボードもご覧くださいませ)
アメリカ陸軍長官スティムソンは足早にホワイトハウスの廊下を歩く。
敵首都の70%強を灰塵に帰したのは良いとしても、代償が新鋭超重爆撃機B32トータル792機では…。
そして貴重なクルーを3504人失っている。
そして機体の量産、補充には自信があるとの意見が大勢であったが、その矢先にシアトルの主力工場が壊滅。
最終的には五大湖に複数の基幹工場を…2箇所はすでに稼働している…作るとは言えそれも向こうの正体不明の戦力に破壊されぬとも限らない。
さらには人命だ。
如何に十二分な訓練を内地で施してから送り出しているとは言え…。
徐々に地方都市や工業地帯にも敵はジェット機を配備している。
我が国は地上発進型のPー80がようやく揃い始めたばかり。
艦載機型の高性能ジェット機を開発、空母に載せて、日本近海からB32護衛に放つ…そんな段階には至っていない。
この状況でさらに貴重なクルーと機材を死地に放ちつづけるのはあまりにも…。
「失礼致します!」
執務室のドアを開ける。
…アレ?
「副大統領殿、アポは取ってあった筈だが。」
所在無げに佇むトルーマンに、スティムソンは問いかける。
「は、大統領仰るに、火急の要件故申し訳ないと…。」
「…既に日本本土空襲で何が起きているかはご存知の筈だが。」
声に軽い怒り。
「は、犠牲が拡大している事は承知している、だが一両日中に手は打つと…。」
「手、ね…。」
スティムソンは意識して大きなため息をついて見せた。
ロスアラモス。
よもやの日本超重爆撃機の奇襲により、施設と貴重な頭脳集団を失い、存続の危機に晒されていたマンハッタン計画。
しかし、難を逃れたオッペンハイマーらの主導により、どうにか奇襲時の進捗に近いレベルには立て直して来た。
「とは言え、我々だけでは無理でした。」
第3研究棟でライアン大統領一行を案内しながら、オッペンハイマーはそう言う。
「ほほう、貴方がた以上の秀才天才が我が国に?」
頷きつつオッペンハイマーは、廊下の奥のドアを指差す。
「や、やめてくださいドク。」
「あーダメダメダメ。あともう少しで君のヒップは流体力学的に理想の…。」
若い女性秘書に絡むこのハゲた男が!?
ライアンは顔はしかめたが、なにか尋常ならざるものを感じてもいた。
「ノイマン博士、大統領閣下がおいでです。」
3秒後向き直るノイマン。
「あれ?知ってるのと違うような…。
あー思い出しました。先代の急死で代替わりしたんでしたな。」
自分の興味の外にはとことん無関心なタイプか…?
「博士に単刀直入に伺いたい。
新型反応兵器はいつ完成しますか?」
「1945年7月に実験。計算上確実に成功。
8月に2、3発を完成。その気になれば実戦に即使用可能。」
簡潔かつ明瞭な答え。
「素晴らしい。
結局当初の遅れをほぼ取り戻して下さるとは。」
ライアン大統領は数回手を叩く。
「まぁ国の予算を予定より38.5%余分に喰ったですがね」
「問題ありません。これで自由主義陣営の勝利は担保されました。」
「ふふ、しかし本当に聞きたいのはそれだけではないでしょう、閣下。」
「はい。日本の…。」
「真珠湾以降、中国大陸での迷走ぶりが嘘のように一貫した戦略戦術に基づいて動いていると言う事。
はっきり言って行動原理が我々のそれに近い。
さらに由々しきは兵器における技術力で我々を部分的とは言え大きく出し抜いていると言うこと。
特に例の巨大不明戦艦。
そこら辺が引っかかっておいでなのでしょう。
大統領閣下は。」
「…仰る通りです。」
「不明艦の件で確信しましたが。
日本政府、軍部より先に、異質な存在の匂いを感じますな。
彼らの独特の組織、文化が本来この戦争の足枷になる筈が、それを変えてしまう程の強烈な個性が。」
個性…。
来客用ソファに座っていたライアンは身を乗り出す。
「1人は軍部内。
山本五十六の側近で、誰か彼らの海軍航空の用兵思想そのものを超える発想をもった軍人…多分比較的若い人物。
そしてさらに由々しきは…。
この私に匹敵かそれ以上の超頭脳を有した科学者にして天才数学者…。
恐らくそんなところでしょう。」
ライアンもオッペンハイマーも言葉を失った。
「まぁ、OSSに依頼すればすぐでしょう。
それよりも直近の課題として…B32を護衛しうる艦上戦闘機、一応グラマン社さんの名で量産に入ったとの事でなによりです。」
サンディエゴ沖合 新生なった改ミッドウェイ級を基幹とする、第58機動部隊。
今まで聞いたことの無い類の金属音を響かせ、濃紺の翼が空を舞う。
プロペラは…着いていない。
F2Hバンシー。アメリカ海軍初のジェット艦上戦闘機。
「これは、頼もしいな。」
当然の如く現役復帰後この大機動部隊を任された、レイモンド・スプルーアンス大将が呟く。
「ああご機嫌な快音だぜ。
残念なのは、俺自身の目であれにジャップが蹂躙される様をまだ見られないってくらいか。」
車椅子に乗って、無理矢理視察に訪れたハルゼーが呟く。
(これが、彼らの為にもならない戦いを終わらせる一助になればな。)
スプルーアンスは内心で呟いた。
(2022年5月31日付けの作者近況ボードもご覧くださいませ)
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