上 下
127 / 166

容赦なき総力戦

しおりを挟む
時系列は少し遡る…。

ほぼ半数の機体が、よろばうように着陸態勢に入ってくる。
「ひでえ…。」
「弾痕が半端ねえ。」
「ジャップも噂のジェット機を相当数繰り出して来たってことだ。」
結局基地に帰投できたのは、半数を切る191機。
50機前後が中途海上不時着。
ただ9割がた危険を顧みぬアメリカ海軍飛行艇、潜水艦の救助活動により乗員のほうは救助されたが…。

ハワイの第20爆撃集団司令部の参謀達も動揺を隠せない。
「正直、戦略爆撃の運用論としては一旦中止すべきダメージだ。」
「海軍の…ミッチャーの機動部隊が無傷なら、護衛戦闘機をつけてやれたのに。」
「だが日本近海に接近するリスク、戦闘機自体も所詮レシプロ機では…」
コツン。
靴音。
あのお方だ。
各幕僚達が一斉に敬礼する。
カーチス・ルメイ少将。
この「空中艦隊」の司令官。
一同を睨め付けたのち、開口一番。
「なんなのアンタ達は!?これだけ鮮烈な戦果を上げたのに逃げ腰とか舐めてるの!?」
!!!??
「サ、サー。しかし、我が軍は実質6割の機体を喪失して…。」
「なら、その6割をまたすぐ補充すれば良いじゃない?我が軍我が国は日本とは違うのよ!」
平然と言い放つルメイ。
「…っやしかしですね。我が方のクルーはもちろん、民間人を今回以上に狙って虐殺していくようなやり口は…。
国際法以前にわが国の人道、正義がっあああっ!?」
若い参謀の身体がくの字に折れる。
ルメイが分厚く生温かい手を伸ばし、彼の股間を鷲掴みにしたのである。
あまりの光景と、ルメイのアレっぷりに、周囲は凍りつく。
「いい!?
貴方達はプロの軍人。
もし中途半端なヒューマニズムが頭を掠めるなら
その時は国家が合衆国ステイツが貴方達に要求する事を思い出して、徹底的に忘れなさい!」
「~~~ッサー!イエスサー!!」
青年は涙目を通り越してそう叫び、周囲の幕僚達も唱和した。

実際、ルメイの言葉通り、ハワイの合計3ヶ所の基地に、2日以内でB32は次々と補充されてきた。最終的に稼働機がプラス112機程になるくらいには。
プラット&ホイットニーR4360、離昇4300馬力。
最強のレシプロエンジンが、腹に響く不気味な咆哮を幾重にも上げる。
まるで日本帝国へ死刑執行宣言をするかのように…。

日本 帝都東京。
灰色の瓦礫を、護衛もつけず一人無表情で歩く久保拓也。
各所で、かつての自宅を失ったのであろう都民がすすりなく声。
手を合わせる者、正気を失っている者。
いずれ明日にも奴らは来るであろうな。
「ロクに空襲阻止もできなかったくせに、何を偉そうにクソ軍人が。」
聞こえよがしにそんなことを口にして、周囲に慌てて咎められる男性もいた。
予測通りだ。
だが、慚愧に耐えぬと言う思いには間違いない。
カリンが気丈に、凛として指揮を続けてくれているのはありがたいが…。
昨夜は東海地区に120機が襲来したと聞く。
三菱がジェットエンジンを請け負い生産している工場も当然狙われた。
松代等に機能分散していたとは言え、やはり痛手は痛手である。

そして、反復されるであろう帝都と各都市、重要拠点への猛空爆…。
久保は俯いたまま、口角を上げ…
中村もカリンも見たことのない凄絶な笑みを浮かべた。
例の新大統領…ライアンか。

ならば結構。こちらもとことん付き合ってやる。
もう、こちらの牙が届く。

シアトル。ボーイング&コンソリデーデット系列工場区画。
いきなり神経を掻き毟るどころかブチ切るような金属音。
工場内の騒音をも上回るそれに、工員の皆が手を止め天井を見上げる。
班長らがそれを咎めようとした時。
!!!
全てをかき消す爆音、爆風爆炎。
2トンクラスの爆弾もしくは砲弾が、次々と図ったように他ならぬB32生産区画を破壊していく。
貴重な機材も治具も、そして熟練工も、次々と状況把握もままならぬまま、冥府へと送り込まれていく。
たった10分に満たぬ攻撃で。

そして1時間と経たず、今度はサンディエゴの軍港、造船所が同様に、空爆か砲撃かもわからぬ猛撃に晒される。
やはり痛撃であったのは軍港施設は勿論、錬成あるいは建造中であった大型正規空母、戦艦等が粉微塵にされたことであった…。

それで、悪夢は一通り去るが、アメリカ国民は半ばパニックとなっていた。
どう言うことだ、我が軍は東京を焦土にして日本をねじ伏せつつあったのではなかったのか。

ラジオの臨時ニュースでは、表面上片道燃料の日本軍航空隊の自殺攻撃と報じられていたが…。

夕刻、ワシントンD.C. ホワイトハウス。
「情報が欲しい、どうなっているのだ今の状況は!?」
「考えられるのは例のモンスターバードですが、あれほどの投弾量は…!?」
「そんなことより沿岸の防空体制はどうなっていたのか!?」
「海軍の方こそ!」
「近海にはアンノウンの目標はいなかった。」

皆…。
!!?
ライアン大統領?
「ひとつ忘れていませんか?
マリアナ沖のあの『不明艦』を…。」
「うっ…」
「アレ、ですか…。」
未だにその実態が不明な、日本の超巨艦。
たしかに、あの時の不可解な超長距離の巨弾射撃。
奴が真犯人なら説明がつく。
しかし、幾重もの哨戒網を掻い潜って…。
解らぬことだらけだ。
「とにかく、OSSも動員し、連中の『ジョーカー』の正体と背景を解明してください。」
「御意!!」
全員が各部署に戻り、執務室に1人佇むライアン。
温和にも見えた表情が一変した。

「ジャップ…!」
机表面に拳を叩き込み、凹みと亀裂を入れる。
B32量産自体は、まもなく五大湖方面でもシアトルのそれ以上の一大ラインが完成する…とは言え、対日、対独戦にまたも面倒な足枷を嵌められたことは確かだ。

平静さを取り戻すと、若き大統領は受話器に手を伸ばす。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

我らの輝かしきとき ~拝啓、坂の上から~

城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
講和内容の骨子は、以下の通りである。 一、日本の朝鮮半島に於ける優越権を認める。 二、日露両国の軍隊は、鉄道警備隊を除いて満州から撤退する。 三、ロシアは樺太を永久に日本へ譲渡する。 四、ロシアは東清鉄道の内、旅順-長春間の南満洲支線と、付属地の炭鉱の租借権を日本へ譲渡する。 五、ロシアは関東州(旅順・大連を含む遼東半島南端部)の租借権を日本へ譲渡する。 六、ロシアは沿海州沿岸の漁業権を日本人に与える。 そして、1907年7月30日のことである。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...