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帝都の空

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総統ヒトラーの電撃復帰宣言は、既に騎乗もとい機上の人となっていた久保達は空の上で聞くこととなる。
本編では端折ったが、中野学校中村中佐主導のドイツ国内工作の周到さの賜物である。
そしてハイドリヒの自らパイロットの資格を持ち実際に飛ぶ程の、冒険心溢れる性格ならば、「御自ら富嶽引き渡しに立ち合い頂きたし」とのこちらの要望にも応えると思っていた。
後は、石原莞爾閣下に知らず知らず「教化」「刷り込み」を受けたヒトラーが如何なる国家指導を行うか…である。

ちなみにカリンであるが、今回の遠征飛行には同行すらしていない。
まず、ドイツ戦闘機エースパイロットとして本国に還っては?
そうヒトラー自らに提案されたが固辞。
「危なっかしい上官がいるもので。私はもう少し。」
そんな理由を言われ、総統は意味ありげに微笑みながら頷いたと伝えられる。

ただ総統の真の親衛隊たるニーレンベルク復讐騎士団の、カリンを姉と慕う少年少女達との別れに際しては、涙腺が緩みっぱなしであった。
「姉様…。」
「イーダ、そんなに…泣かないで、もうすぐ日本とドイツは隣国になるのだし。」
「ヒルダも…ルフトヴァッフェを宜しくね。」
「カリン姉様…。」
「お姉ちゃん…」

そんな事を思い返しつつ。
現在カーテローゼ・伊集院・ホルテンブルクは、参謀本部にて…
「とある宮様元帥」直々に、戦闘機総監の任命を受けていた。
また、これまで礼服はドイツ空軍のものであったのが、色は濃紺基調でブレザータイプのオリジナルなもの。
実質カリン仕様のものが仕立てられていた。
「312機撃墜のみならず、我が海軍航空の革新に貢献した功績は計り知れぬ。
どうか今後も帝国を支えてくれるよう。」
「もったいなきお言葉。
今後も一層倍の帝国への献身を誓います。」
はっとするほど美しい顔を引き締め、最敬礼するカリン。

余談だが、あの謎の超巨艦アイオーン建造に関して、久保の進言を全面的に受けいれバックアップしてくださったのは、この宮様元帥であった。
本来海軍内に於いては山本五十六らとは真逆の立ち位置におられる艦隊派の重鎮であらせられるが、一時的に建艦リソースの大半を振り分けて完成に至らしめたのは、この方が「敵艦数千隻、敵機数万機攻め寄せようとも、揺らぐ事なき超巨大戦艦」という文脈に大きな魅力を感じ、強烈にプッシュしてくださった事が極めて大きい。

さて話は戻る。
昼食会には最後まで参加するつもりのカリンであったが、どうにも落ち着かず、
「早速帝都防空体制を陸軍ともすり合わせ確認致したいので…ご容赦を」と中座してしまった。

「おやおや、久保殿の帰りには早いだろうに」
「あの年で女の身でこの重責。気を張っているのでしょう」
「まぁしかし、あのB29も帝都まで飛んで来れる訳はなし、つくづくマリアナで勝っていて良かったですな。」
まだ昼間にも関わらず、席には酒も出て、高官達は普通に呑んでしまう。

「中尉、レーダーに機影です、ウェーキ北方200キロの位置。
機数までは把握しきれませんが…。」
マリアナ決戦前の時期にようやく量産体制に入った陸海軍協用四発重爆撃機「連山」
こちらは横須賀基地所属の機上レーダー搭載型の哨戒機タイプである。
「うむ?ハワイを通り越してか?
遣独富嶽隊にしては位置もおかしい…?
念の為参謀本部、帝都防空司令部、各方面に通達!」
「了解!」

帝都防空司令部

「いやしかし、敵機の大群というのはいくらなんでも…ははは。」
「こう言っちゃなんだがウチの機上レーダーの精度はそんなに…
複数報告があったならともかく。」
「まぁ、もう少し様子見で…あのB公でもどう頑張っても足が届かん。ハワイからでは。」

「あんたらバカァ!!?」
だれ…いや!?
「せ、戦闘機総監!?」
「すぐに哨戒機を増派、そして全戦闘機隊に第1種警戒体制!
都知事(今年に入り帝都は『都』となった)に空襲警報発令の準備を!」
厚木、横須賀は稼働全機を上げる!
陸軍にも出し惜しみさせるな!」
本来むさ苦しい男の世界に美少女から美女へと成熟しつつある女性がいれば…少なからず好色な目線は向くものだが、雷撃を食らったような参謀達にそんな発想自体浮かばない。
鬼軍曹に怒鳴りつけられた新兵の如く、
色々な素朴な疑問点を唱えるものすらなく、カリンの命令を遂行せんと飛び回る。

ウウウウウ~ウウ~ウ

帝都東京に鳴り響くサイレン。
「おいおいなんだ?」
「ちょっと…まさか本物ってことはないわよねえ?」
各区の住民たちは表に出たまま、互いに顔を突き合わせていた。

「訓練にあらず!!」
トラックの荷台から憲兵が怒鳴っていた。
!!!?
「あと1時間強で敵機来襲の恐れ!
皆、『所定の行動』を取って下さいッ!!」

嘘でしょ…。

「と、とにかく急ぐぞ。」
「ち、地下壕、地下壕!」

そう、「この世界」では、開戦直前から内地の民間人の防空訓練は、バケツリレー消火、などと言ったものは一切行わず、交代で15歳以上全員が要所で地下壕掘り。
陸海軍からも無論要員を出し、既存の地下施設とも繋げた一大地下壕網を造りあげんとしていた。
まだ4割に満たない完成度。
だが都民のほぼ全員が徒歩20分以内に退避可能な安全深度の代物は間に合わせる事は出来た。

一方、浦賀沖150キロ上空。
高速偵察に上がっていた零戦76型のうちの一機。
パイロットの佐々木少尉は驚愕した。
「な…なんだあのデッカいモノ…」
上空、おそらく高度11,000に迫る高さ。
6発エンジンの…Bー29の拡大発展型!?
しかも、数が…400は優に超えてやがる!
佐々木は反射的に機上電話に手を伸ばす。


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