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桜は燃える、だが散らず

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「はははっ。
オモシロ過ぎるぜ。
本当にたった2機で敵さんの大群を抑え込んでやがる。」
富嶽隊指揮官 野中中佐は気勢を上げつつ、麾下の編隊に緩降下を命じる。
全機800キロに迫る速度で、平常運転でスコールの如く展開されるアメリカ機動部隊の対空砲火圏内に迫りつつある。
一定数配備されていたコルセアの直掩部隊がなんとか阻止行動にかかるが…。
「ダメです。このままではピケットラインを…少なくとも過半数は突破されます!」
悲鳴混じりの報告に、ミッチャー中将は眉間に皺を寄せる。
「慌てるな、奴らの狙いはご自慢の多連装ロケットでわが正規空母群の甲板に大穴を開ける事だ。
低空で速度が落ちたタイミングで、戦艦、重巡の砲火網で狙い撃てばよい。」
が…。
「敵、高度4500で…爆弾らしきものを投下!」
「いや、あれはロケットだ。」
多数のそれを束にして放つのではなく、1機あたり2発?かなり大型のものを!?
「閣下、あんなところから放つとは、まさか誘導弾では?」
参謀の問いに、ミッチャーはかぶりを振った。
「いや、奴らの技術力を侮る訳ではないが、連中の有する電子機器の技術からして、少なくともロケットの形では無理だ。」
「という事は、遠隔操作?」
「ああ、おそらくドイツのフリッツXの応用だろうな。」
ならば対処方は決まっている。
とうぜん、母機は無線誘導しなければならない訳であるから、放ったロケットを肉眼で捉えられる空域に留まり、しかも急激な挙動は誘導中できない。
その間はこちらから鴨撃ちし放題という訳だ。
モンスターバードの強靭性に懸けて居るのかもしれないが、それは我々の艦と機体を舐め過ぎだというものだ。

すかさずミッチャー司令部は全艦、全戦闘機隊に指令を出す。
が…
「!?敵爆撃隊、高速反転、離脱していきます。」
何!?
司令部スタッフ達は動揺した。
撃ちっぱなしで平然と逃げていくだと!?
まさかあの大型ロケット弾が、自動誘導式…?

だが数は精々30発未満。
「直掩戦闘機隊、各艦対空システム、排除せよ!」
が、件のロケット群は優に950キロを超える速度。
それぞれの大きさは戦闘機より小ぶりな程度か?破壊力は…。
「クッ、ダメだ、電波信管の反応が追いつかない!」
「速すぎます、輪形陣中心に肉薄!距離…」
「落ち着けい!当たらなければどうという事はない!全艦全速!一斉90°回頭!」
さぁ、仮に誘導装置的なものがあるとして、その速度できちんと作動するのか?

が…。
「敵ロケット弾も一斉に転舵!こちらに食いついてきます!」
!!?
いや、各個の誘導までができるとは…。

「できそうっス!なんとか…。」
富嶽初号機、爆撃手中里飛曹長が操作レバーを握りながら覗き込んでいるのは…。
テレビジョン受像機のモニターであった。
当然白黒画面、解像度も高くはない。
時折画面自体もザラつく。
だが艦種を特定、誘導するには十分であった…。
まぁ受像機、ロケット弾側に積んだ撮影カメラ、発信機ともそれぞれ100キロを超えるのだが…。
「頼むぜアツシ!」
「親分」野中五郎大佐の号令に、中里は無言で頷く。
「距離500、ちょい右、ヨーソロー、ヨーソロー 今!」
画面が一瞬白く染り、そしてブラックアウト…

「命中!…と思われ!」
「間違いねえだろうな!?」
そこへ通信士官の報告。
「多分中里のも含まれてるでしょう。やつらデカぶつに次々食らって泡食ってますよ!」
うおおおおっと、機内で歓声が上がる。

ミッチャーの目の前で、地獄絵図が繰り広げられていた。
座乗する機動部隊旗艦ワスプⅣが、甲板部分の半分がめくり上がり、赤黒い炎と化している…。
エセックス級のノウハウを踏襲し、さらに改良されたダメージコントロール能力で沈没は免れた。
だが艦載機やパイロット、クルー達の犠牲が…。
そして周囲を見渡しても最低正規空母3、戦艦2が中破以上の被害を…。
どうしてこうなった。
アメリカ海軍屈指の空母部隊指揮官が、現実を咀嚼出来ぬまま、幕僚達に半ば抱えられながら退艦していく。

これが、久保拓也が「彼女」の頭脳を借り完成させた、無人自爆ロケット攻撃機、
「桜花11型」の初陣であった。




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