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自由の国の救世主
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アメリカ合衆国大統領、フランクリン・D・ルーズベルト急逝!
当然その報はアメリカ全土に衝撃を与えた。
マリアナ方面の大攻勢作戦頓挫(報道以上に損害が大きいらしいとの噂もかなり国民に広まっていた。)
に加えてこの非常時に相応の評価を得ていたリーダーを喪うとは…。
だがそれらは、年明け1944年早々に短期間に鎮静化することとなる。
アメリカ全土の都市部から田舎に至るまで、ニュース映画がカラーバージョンで一斉に、反復で流された。
そこに映ったのは新大統領ライアンの美々しい姿であった。
「まずは、皆様にお詫びせねばなりません。」
開口一番、そう言った。
「我々は自由と人権の敵であるファシストの片割れたる日本を撃退しつつ、欧州ではこれまた強力なナチスドイツと戦ってきました。
イギリスの支援、フランス以下占領された国々の解放もありますから、このこと自体は間違っているとは思えません。
しかし、問題は最高司令部たるホワイトハウスのレベルで、日本軍の精強さ、そして蛇のような狡猾さを完全に侮っておりました。
明らかなる失策、認めざるを得ません。
だが我々の過ちは過ちとして、新たに明らかとなったナチスとは別の奴等の凶悪さを皆様に知らしめねばなりません。
そして映像が切り替わる。
それは、1970年ごろ(元々久保拓也が居た世界線で)急速に日本内外のメディアに拡散されていた、日中戦争で日本軍が行ったとされる、中国人虐殺の「証拠写真」の数々であった。
再びライアンの顔が映る。
「ご不快に感じられた方は申し訳ございません。ですがこれが、あの日本軍の本性です。
もしハワイを皮切りに、我が国の領土が占領されることあらば、これは明日の私達の運命となるやも知れないのです。」
単なる容姿や美声と言ったものを超えて、ライアンの声には人を惹きつけ、何かを呼び覚ます不思議な力があるようであった。
「もちろん、我が軍はナチスに対してと同様、総力を挙げて太平洋戦線を建て直し、強力な機動戦力と航空兵力を復活させます!
この国にはまだ膨大なポテンシャルがある!
しかし、それには老若男女、国民の皆様の力を今少しお借りする必要がある!
どうかこの自由の国アメリカを守り、独裁悪の枢軸に勝利する為、星条旗に皆様の血涙を捧げて頂きたい!!」
全土の映画館で、歓声と拍手が上がった。
「ライアン!ライアン!!ライアン!!!」
「ジャップとナチを躊躇わずに殺せ!」
「USA!USA!!USA!!!」
アメリカ国民は熱狂し、涙を流す者も少なくなかった。
かくて少なからぬ増税、未成年者も含めた徴用も含んだ、「緊急国民総動員に関する大統領令」はほとんど主たるメディアの批判を受けることもなく通ってしまったのである。
「なるほど。なるほどなるほど。」
富嶽14号機内にあてがわれた私室。
久保拓也は相撲の四股の態勢で機体の揺れに耐えつつ、新聞を広げていた。
何故か全裸である。
しかも逸物には10キロの鉄がぶら下がり、なお仰角30°を維持している。
が、ポーカーフェイスを保ち、文面に意識を集中する久保。
(ライアンなる男がメタ情報を持っているかは別として…我が国もドイツも史実にもなかった、『戦争特化国家』たるアメリカを相手にせねばならんと言うことか…。)
憂慮はある。しかし、悦びを伴う戦慄が大いに勝った。
受けてたとうじゃないか。面白え。
ドアのノックの音。
「どうぞ。」
副官の鵜飼中尉であった。
「そろそろ、アリューシャンの想定戦闘空域に入ります。ご準備を。」
「了解した。ありがとう。」
鵜飼は久保のその姿に関しては何もいわず表情も変えず、敬礼し去って行った。
さて…
では戦るか。
当然その報はアメリカ全土に衝撃を与えた。
マリアナ方面の大攻勢作戦頓挫(報道以上に損害が大きいらしいとの噂もかなり国民に広まっていた。)
に加えてこの非常時に相応の評価を得ていたリーダーを喪うとは…。
だがそれらは、年明け1944年早々に短期間に鎮静化することとなる。
アメリカ全土の都市部から田舎に至るまで、ニュース映画がカラーバージョンで一斉に、反復で流された。
そこに映ったのは新大統領ライアンの美々しい姿であった。
「まずは、皆様にお詫びせねばなりません。」
開口一番、そう言った。
「我々は自由と人権の敵であるファシストの片割れたる日本を撃退しつつ、欧州ではこれまた強力なナチスドイツと戦ってきました。
イギリスの支援、フランス以下占領された国々の解放もありますから、このこと自体は間違っているとは思えません。
しかし、問題は最高司令部たるホワイトハウスのレベルで、日本軍の精強さ、そして蛇のような狡猾さを完全に侮っておりました。
明らかなる失策、認めざるを得ません。
だが我々の過ちは過ちとして、新たに明らかとなったナチスとは別の奴等の凶悪さを皆様に知らしめねばなりません。
そして映像が切り替わる。
それは、1970年ごろ(元々久保拓也が居た世界線で)急速に日本内外のメディアに拡散されていた、日中戦争で日本軍が行ったとされる、中国人虐殺の「証拠写真」の数々であった。
再びライアンの顔が映る。
「ご不快に感じられた方は申し訳ございません。ですがこれが、あの日本軍の本性です。
もしハワイを皮切りに、我が国の領土が占領されることあらば、これは明日の私達の運命となるやも知れないのです。」
単なる容姿や美声と言ったものを超えて、ライアンの声には人を惹きつけ、何かを呼び覚ます不思議な力があるようであった。
「もちろん、我が軍はナチスに対してと同様、総力を挙げて太平洋戦線を建て直し、強力な機動戦力と航空兵力を復活させます!
この国にはまだ膨大なポテンシャルがある!
しかし、それには老若男女、国民の皆様の力を今少しお借りする必要がある!
どうかこの自由の国アメリカを守り、独裁悪の枢軸に勝利する為、星条旗に皆様の血涙を捧げて頂きたい!!」
全土の映画館で、歓声と拍手が上がった。
「ライアン!ライアン!!ライアン!!!」
「ジャップとナチを躊躇わずに殺せ!」
「USA!USA!!USA!!!」
アメリカ国民は熱狂し、涙を流す者も少なくなかった。
かくて少なからぬ増税、未成年者も含めた徴用も含んだ、「緊急国民総動員に関する大統領令」はほとんど主たるメディアの批判を受けることもなく通ってしまったのである。
「なるほど。なるほどなるほど。」
富嶽14号機内にあてがわれた私室。
久保拓也は相撲の四股の態勢で機体の揺れに耐えつつ、新聞を広げていた。
何故か全裸である。
しかも逸物には10キロの鉄がぶら下がり、なお仰角30°を維持している。
が、ポーカーフェイスを保ち、文面に意識を集中する久保。
(ライアンなる男がメタ情報を持っているかは別として…我が国もドイツも史実にもなかった、『戦争特化国家』たるアメリカを相手にせねばならんと言うことか…。)
憂慮はある。しかし、悦びを伴う戦慄が大いに勝った。
受けてたとうじゃないか。面白え。
ドアのノックの音。
「どうぞ。」
副官の鵜飼中尉であった。
「そろそろ、アリューシャンの想定戦闘空域に入ります。ご準備を。」
「了解した。ありがとう。」
鵜飼は久保のその姿に関しては何もいわず表情も変えず、敬礼し去って行った。
さて…
では戦るか。
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