新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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更なる再構築

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12月30日、GF旗艦大和、機動艦隊旗艦葛城は、損傷した多数の艦を引き連れる形で、呉に入港することとなる。
(半分弱の損傷艦は長崎、横須賀にも回航)
「人も艦も疲労困憊の極み…か。」
そう独りごちるGF長官小澤治三郎の頬も痩せこけていた。
「まあ、米国にこんどこそ決定的な痛撃を与えたことは間違いありますまい。
あとは政治の領分のはず。」
参謀長宇垣纏の言葉に、小澤は頷く。
ただ、政体、軍政を変えたとは言え、国内の継戦派は…。

「上陸したら何食べる?」
「拉麺。」
柔らかい母性と脂肪の塊の中から発せられた質問に、持ち主の若き女性エースはそう答えた。
「やっぱりな。言われると腹空いてきた。」
久保はボタンを閉める。
そんなことをしながらも、二人とも正装していた。
昨夜は流石にペースを落とし5回程度…いやそんなことはどうでも良い。
久保は午後からの会議を前に、腹拵えをしなければならない。
カリンは他の将兵同様、呉の街を満喫する予定であったが。
ノックの音。
「入って、どうぞ。」
「根尾一等水兵、入ります。」
まだ10代と思しき若者。
しかし表情は凛として、堂々たる体躯と表情。
「お寛ぎのところ、失礼致します。
お出かけの間、閣下のお部屋の清掃をさせていただきます。」
久保も立ち上がり、きっちりと敬礼で帰す。
「ご苦労様です。折角の上陸日にまですまないね。」
「いえ、この作業〆に自分も休みますので。」
「よろしくね。」
カリンもそう言って、久保の後ろにつき部屋を出る。

(散らかってるのいいけど…なんか毎回イカみたいな匂いするのなんなんだろうなぁ。
あと少し乳臭くもあるし…。
偉い人の生活って想像もつかないな…。)
そう思いを巡らす根尾であるが、身体は迅速に効率よく動くのをやめない。

「ひっさしぶりぃ大将!」
「おお!ワルキューレの姉ちゃん!いつものでええか?」
俺は一応将官なんだが、カリンの副官とでも思われてるのだろうか。
内心苦笑しつつも、なんとも言えぬ匂いに胃袋をより刺激される久保であった。
「?その子は?」
カリンの問いに、店主の脇からはにかみつつ頭を下げる若い女性。
「へい、まあ、ウチの娘で。女房と交代で。」
戻って来てくれたんだ。可愛いね、親父に似ずに。
「いえ、そんな…」
顔を赤らめる店主の娘。
(こ、好みの分かれるとこだろーな。)
失礼極まりない事を思いつつ、出されたラーメンを堪能する久保。
隣のカリンも、んー最高とか繰り返しつつ…。
周囲の卓も、客で8割がた埋まっている。
すっと視線を巡らすと、「山口多聞」の名前も。
完全に海軍公式だな笑

と…そこへ…。
「航空参謀長!」
連合艦隊司令部課員の鵜飼大尉が、駆け足で近寄ってきた。
「お食事中失礼…ハァハァ。」
「もう食い終わったよ、どうした!?」
「交渉決裂です!!」

!!?!?
隣のカリンの心拍が上がるのがはっきりわかる。
「具体的に何があった!?」
会話を始める頃には店主に多めに勘定を払い、3人とも早足でその場を離れている。
「はっ、アリューシャン方面にBー29、300機以上が現出、各基地に猛爆を加えていると…。」
搦手から来たか…。

そうは言っても北方各拠点にも、充分な陸空の戦力を配置している。
だが防空が零戦54型丁改中心…対抗は出来ても相当の苦戦を…。
「とにかく閣下は参謀本部、帝都に直行されるよう小澤長官より…。」
「了解。
ホルテンブルグ大佐も、急ぎ葛城に戻り麾下のパイロット達を掌握する様に。」
無言でカリンは敬礼。そのままカモシカのようにしなやかな走りで軍港方面へ走る。
久保自身も迎えの車に乗り、飛行場へ向かう
…。

アメリカ シアトル某所。
「まだ初期ロットの一部、12機ですが。」
「いや、素晴らしい。」
薄暗い格納庫の中で不気味に光る怪鳥。
日本のなけなしのアレよりも優に一回り以上大きい。
これが1ヶ月後、3桁単位で実戦運用可能となれば…。
あの忌まわしい猿達の国を焦土に出来る。
むろん返す刀でナチスもだ。
満足してお忍び視察から立ち去る間際、ライアン大統領は唄うように言った。
「ひとつだけ注文を。
この新鋭超々重爆の愛称は、『ピースメーカー』としてくれ給え。」





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