新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

文字の大きさ
上 下
116 / 166

第三部スタート ホワイトハウス・ダウン!?

しおりを挟む
1943年12月26日
アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス

合衆国大統領フランクリン・D・ルーズベルトは、執務卓の眼前の書類…日本帝国に事実上の講話受諾の旨伝える親書に愛用の万年筆を走らせようとしていた。今まさに…。
目を覆わんばかりの対日戦の犠牲に、世論も欧州戦線に集中すべしの方向に傾斜。
そして態々向こうから中国大陸での権益の共有(実質譲渡と言うに等しい)
さらには三国同盟の脱退を申し出ている。
これは我が方の政治的勝利。
そのように強硬派も言いくるめることもできよう。
彼のペンの先が紙面にキスしかけた瞬間。
ぐわっと扉の開く音。
!?

誰だ?いやかなりの人数の気配。
「書類から手をお離しください。ルーズベルト大統領閣下。」
顔を上げるルーズベルト。
…!!
巨大軍産複合体
「セブン・シスターズ」の要人が軒並み顔を揃えていた。
元々ルーズベルトに侍っていた、副大統領ウォレス、ハル国務長官ら高官達も怯む空気。
前回の顔ぶれと、一部、違う。
軍人のスティムソンも怯む、美々しいが高圧的な何かを…。
スーツの群れの中心から、長身の白人男性。
40歳手前という実年齢より若々しい。
しかしその印象以上に…。
「き、君は…キース・ライアン…博士。」
ルーズベルトはうめくように言った。
黙って微笑み返すライアン。
「何の用かと思えば…。
いくらあなた方でも
、通用しないぞこんな横槍は…。」
精一杯毅然として応えたルーズベルトであったが、スーツの群れからは冷笑が返されるのみ。
「横槍は貴方の今のご判断です。
この大戦後、アメリカが世界の政治経済を掌中におさめる。
その過程の戦いを、よりにもよって我が方圧倒的優位にある時点で、しかも成り上がりの日本人に実質勝ちを譲るような真似…。
大統領とは言え正直看過いたしかねます。」
「圧倒的…優位…?」
何を言っているのだ、此奴らにこそ我が国、我が軍の現状がわかりすぎるほどわかっているは…

!!!
ルーズベルトの頭部全体に、鈍器で殴られたような激痛。
「は…が…」
そのまま机に突っ伏してしまう。
「大統領閣下!」
「そら言わぬことではない。
明後日の方向に根を詰めすぎるからですぞ。」
薄笑いを浮かべるライアン。
しかし、周囲の男達は迅速に動き、医療スタッフらしきチームにルーズベルトを託す。

そして…当たり前の様に…
合衆国大統領の席に腰を据えるライアン。
「!!おま…なんのつもりだ!
クーデターでも起こしたつもりか!
許されるとでも…」
いきりたったスティムソンの前に一枚の書類。
「なっ…。」
「おわかり頂けたでしょうか。
前大統領自らのサインで、副大統領兼大統領特別顧問のポストを昨年の時点で拝命し、そして有事の際の臨時代行の指名を頂いているのです。」
「……!!」
そ、そんなことが、この合衆国の最中枢で…。
呻くが、どうしようもない。
「さて…」
すっ、と「副大統領」ウォレスに向き直るライアン。
「臨時代行の権限は無論貴方にもあります。
ご自身の選択次第では、代わりに此処に座って頂くことも可能ですが?Mr.ウォレス?」
「いっ、いえ…私…いや当職にはお受けしかねる大任と…そのあの、ライアン新大統領…閣下を輔弼する現在の職務を、当面は…」
「そうですか。」
ニコリと笑って、正面に向き直るライアン。
「では早速…ソ連方面の情勢から。」
「はい、最新の情報を統合しますと、ウラル方面から我が友邦ソ連はナチスドイツをじわじわと押し戻しております。
半年強で最低でもモスクワ奪回はできるかと。」
秘書官然とした白人女性が、当たり前のように進み出て報告する。

なんてことだ…
スティムソンは内心呻いた。
何を普通に仕切ってるんだよ。
だが、どうしようもない。
国民にはオブラートに包み「キース・ライアン新大統領」と言う現実が違和感なく受け入れられるように報道されるのだろう。
「時にスティムソン陸軍長官?」
「む、はい?」
「難渋しているという対日戦ですが、新たな戦略爆撃のアプローチ。
それの準備が整いつつあります。」
「はい?」
わからん。
何かはあるのだろう。
しかし、悠々表に出ず安楽椅子で指だけ動かしていれば良い筈のこいつらが、ここまでドラスティックに我が国を統御しにかかるとは…。

何が目的なのだ…?




しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

暁のミッドウェー

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年七月五日、日本海軍はその空母戦力の総力を挙げて中部太平洋ミッドウェー島へと進撃していた。  真珠湾以来の歴戦の六空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴が目指すのは、アメリカ海軍空母部隊の撃滅。  一方のアメリカ海軍は、暗号解読によって日本海軍の作戦を察知していた。  そしてアメリカ海軍もまた、太平洋にある空母部隊の総力を結集して日本艦隊の迎撃に向かう。  ミッドウェー沖で、レキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、ホーネットが、日本艦隊を待ち構えていた。  日米数百機の航空機が入り乱れる激戦となった、日米初の空母決戦たるミッドウェー海戦。  その幕が、今まさに切って落とされようとしていた。 (※本作は、「小説家になろう」様にて連載中の同名の作品を転載したものです。)

処理中です...