新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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鋼鉄のアイオーン

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よりによって、この「不沈艦」の急所に…。
誰もがそう思う中、大和艦長森下信衛は冷静だった。
「応急班急げ。想定通りの対応でよい。
手順を踏めば他区間への引火誘爆は無い。
構造上全て直撃食らっても爆炎は上方へ逃げる構造になっている!
態勢整い次第、各主砲塔は斉射続けい!!」
艦橋正面の炎の柱。その光に森下は顔をオレンジ色に染めていた。
「霧島!直撃2!前方主砲群使用不能、火災…。」
「こちらもぶち食らわせろ!」
「テーッ!!!」

米旗艦モンタナ
「先刻の大和級(推定)より発砲炎!!」
「何!?」
数十秒後。
モンタナ艦橋、そしてCICが揺れる。
「第二砲塔被弾ーゥー!!」
「クソが!装甲を抜かれただと!?」
ハルゼーは怒りの咆哮。
しかし、一隻も逃すまいと近接砲戦を挑んだ自身の責任でもある。
「数的優勢を活かせ!モンタナ級2隻は大和級に傾注!」
長砲身高初速の40センチ砲が吠える。
他のアイオワ級も、日本の旧式戦艦群に存分に鉄火の暴力を振るう。

「山城被弾、後部砲塔周辺炎上!」
ぎりっと歯噛みする森下。
やはり総合的火力と、命中精度は向こうが上か…。
「モンタナ級2隻、本艦と武蔵に砲火集中の模様!」
「上等!殴り返せ!」
2大巨艦が連合艦隊の尊厳を賭け、合計18門の巨砲をぶっ放す。
しかし、モンタナとニュージャージーⅡに至近弾1発づつ与えたのみ。
一方で…。
衝撃によろめく大和乗組員達。
「ぐっ…被害状況知らせ!」
「左舷艦橋下部直撃、ですが装甲は無事…」
「機銃、両用砲の連中避退させておいて正解だったか…」
だが凶報はそのあとだった。
「霧島、傾斜止まりません!」
「山城、扶桑も火災止まらず…」
「長門、主砲使用可能は2番のみ…。」
…!!!
熱湯の中で溶けゆく雪の塊の様に、我が連合艦隊が誇る黒鉄の城が次々と消えていく…。
森下1人でなく、大和統合指揮所の全員が、背中に滝の様な脂汗をかいていた。
司令長官ある小澤も…。表情は変わらねど軍刀を握りしめる手には満身の力が込められていた。

ここで…死…我々の敗北すなわち、日本帝国の滅亡…。
そんな思いが脳内を去来した時、どこからかの無線電話音声が指揮所に響く。

「久保1番より連合艦隊司令部へ…申し訳ありません…ベアキャット撒くのに手間が…。」
「!久保か!まさか、まだ敵さんの上空にいるのか!?」
そう叫んだのは宇垣だった。
「なんとか弾着観測、誘導できる目処がつきました。」
おおおっ、かすかな希望のどよめき。
宇垣は小澤と目線を交わし、頷く。
「判った久保!委細任せる!指示を!」
「了解!モンタナ級2艦にまず攻撃集中!先刻より100手前に修正、目標速度…。」
攻撃可能な日本戦艦全てが、反撃の斉射!

「ニュージャージーⅡに直撃!」
「第4砲塔、貫通は免れましたが内部機構が損壊…」
「クッ!」
そしてモンタナにも物理的激震。
こちらは艦尾甲板付近に直撃。
ヴァイタルパートは無事だが、無視し得ぬ火災は艦内外の将兵を動揺させる。
「落ち着けい。データに従い手数を重ねれば順当にこちらが勝つ。」
戦艦部隊指揮官、老獪なリー提督は各艦に改めて命令徹底させる。
アイオワ級群も、数隻を中破させられつつ的確な射撃。
鉄火の嵐は、更に精度を増す。
「山城、霧島、総員退艦命令!」
「金剛も傾斜止まらず!」
「長門も…」

まずい…。
雲量の少なさを幸い、高度8000から5.0を優に超える視力を活かし夜間射撃サポートしていた久保であったが…。
到底追っ付かない。
個艦の戦闘力を勘案すれば実質5倍近い戦力差…。

あとは水雷戦隊…。
が、木村昌福中将が臨時に統合指揮、巧みな艦隊運動で翻弄していたそちらの戦線も、すこしづつ綻びが生じていた。

こちらは、「武蔵」艦内。
「第三砲塔爆発炎上!!」
「クソ、装甲が…ぐあああああああ!!?」
「応急、あと救護班急げえー!」
「ぶ…分隊長…このまま…では…。」
「藤浪ー!傷は浅いぞしっかりせい!!」

畜生…

1人の水兵が、周囲の地獄絵図を見回す。
われらが武蔵、大和でも、アメリカには勝てないのか。
大軍艦旗も、俺たちも海の藻屑に…。

その思いは大和統合指揮所の連合艦隊(GF)司令部も一緒であった。
「全艦に達せよ…最後まで、撃ち続けろ。」
小澤がそう声を絞り出した。
「我らが滅ぶにせよ、敵の艦砲戦力を少しでも減殺すれば、後を引き継ぐ守備隊、内地に逃げ損ねた民衆の犠牲も減る…。」

そういうお覚悟ならば。
宇垣は大きく頷いた。
再び振動。
幸い2発の至近弾で済んだが、次の斉射では…。
森下は前方を睨む。
例のモンタナ級の先鋒とばかりに、恐らくはアイオワ級6隻が距離をさらに詰めてくる。

次の斉射~

耳を掻きむしる金属音。
アイオワ級の先頭、その艦橋が消し飛び、更にオレンジ色の大爆炎。
!!!???

何が起きた!!?
日本側以上にモンタナCICのスタッフが混乱していた。
直ぐに2番艦も大破炎上…。

敵の別働隊…!?
いや、半径50キロ圏内に敵大型艦は居ない…なのに!?
「何が起こってるッッッ!!?」
ハルゼーの叫びは全幕僚内心の代弁でもあった。
「まだです!サウスダコタⅡ、大破炎上!」
「重巡オプティマス通信途絶…。」
なんだ、何なんだこれは。
5分前までの絶対優勢は一体…。

一方、その上空。
「へへへ…はははははははははは!!
やったぜ、よくぞ間に合わせてくれた!」
久保は呵呵大笑していた。
奇跡は、起こった。

数十機上空警戒に当たっていたベアキャット。
そのうちの一機が照明弾を投下し…

「それ」のシルエットは浮かび上がった。

「VF810 アルファより司令部及び各艦へ…これは…。
大和級どころじゃない!
12万トン、いや、下手すれば…。
15万トン級の極超弩級…戦艦!!!??」

「~~~~~~!!????!」
これが…帝國特種機動決戦兵器
通称「亜威音」の鮮烈デビューであった。






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