新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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最後のゼロ

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ぐっ…

どうにか隙を与えず回避機動はしたが、ヴァンのチームはこのトラブルを見逃す程甘くは無い。
後方からの火箭をかわし続けながら、カリンは全力で頭脳をフル回転させていた。
(MW50と、一部のシリンダーが飛んだみたいね。出せて水平600キロくらいか!?)
なんとか出来る。私なら!

「ならねえよ笑」
ヴァンはハイエナの笑みと共に、カリンの機のバックにつき離れない。
「くうぅぅっ!」
既に200mを切っている。

「よしじゃあぶち込んでやるぜ、死ねえ!」
それが最後となった。

ヴァンの言葉の。

彼のベアキャットのキャノピーがぶち砕かれる。

!!??!?!

どうなってる…ッッッ?
考えているうちにヴァンの部下たちも翼やエンジンをぶち砕かれている。

一方でカリンは全てを把握していた。
30ミリの単発撃ち。
そしてこの高周波の金属音!
「それ」は時速900キロを優に超えるであろう速度で傷ついたカリン機を追い越し様、さらに3機のベアキャットをブチ墜としていった。
「バカ拓也…。」
なんとも言えぬ笑みを浮かべるカリンの元に、機上電話から聞き覚えのある声。
「すんません姐さん!遅れました!
母艦までは自分がつきます。」
杉田庄一少尉…。
「ありがと。ここは甘えるわ。」
やや強めの緩降下で加速し、戦場を離脱する両機。

一方、異形の翼「零戦88型」を駆る久保拓也は、不敵な笑みと共に久方ぶりの本能を解き放ちつつあった。
「これよこれ。タービンの鋭い咆哮…ペラ付きに乗ってて久しく忘れてたが、これが『戦闘機』よ!」
まずは必死に個別に防戦に努めるベテラン勢の支援!

まだ4.0オーバーを維持する目を凝らし、敵指揮官クラス…数少ない敵ベテランをしらみ潰しに墜していく。
ただ一機の敵に、ベアキャットのパイロット達は露骨に動揺した。
「超スピード!?日本にジェット機とはたまげたね。」
ヘリントンもひとりごちる。

心臓たるネ69 推力2500kg
(無論ドイツ由来の技術に加え、「彼女」の手によるものだ。久保の世界では未完に終わったHeS011がベースとなっている。
機体形状は、同じ世界のアメリカF86に、日本的な曲線美を加えたような…。)
その頼もしい唸りを背に、久保は包囲の輪から逃れた手練れ数機を、我が艦隊を追い詰めているスカイレイダーの方へ向かわせる。
やらせはせんぞ…これ以上は!

そして…久保の駆る零戦88型の出現のみならず、日本戦闘機群の奮迅が遂に…。
日米戦闘機隊の均衡を突き崩した。
「…!!」
ヘリントンら米側パイロットの一部は、破局を直感した。
星マークの機体が墜ちるペースが急激にあがる…。

「何だ!?」
「一機ジャップに訳わかんねーのが!?」
「バカっ速!!?」
日本艦隊輪形陣をほぼ突き崩して、本命の戦艦、空母に迫っていたスカイレイダー群も混乱する。
しかも他にも敵はどんどん増えてくる…。
自身の味方の砲火の危険も顧みず。

葛城指揮所
「零戦88型…あれ程の化け物とは…。」
樋端航空参謀のつぶやきに、山口多聞機動艦隊司令、山口多聞は重々しく頷く。

「おそらく、最後のゼロだな。」
15分後、アメリカ全艦載機隊は壊乱した。
信じ難き勝利に、日本艦隊各艦で歓声が上がる。

「なんとも見上げた、猿どもの執念よ。
だが、それもここまでだ。」
ウィリアム・ハルゼーの猛禽の笑み。
そう、彼の艦隊前衛は、既に日本連合艦隊まで15キロに迫っていた!


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