新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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決死の心、必死の心

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一方…。
日本側の第2次攻撃隊である。
「10時方向に確認!
電波誘導、感謝します!必ず敵艦を!」
「おう!かまして来い!だがちゃんと母艦には生きて帰れよ!」
200キロ西方に居る「誘導機」からの檄を受け取り、愛機流星改の隊内無線電話にて指示を下す、関行男大尉。

いくぞ…満里子、母さん。
関は新婚の愛妻と母の顔を思い浮かべながら、部下達と同様フルブーストをかける。
上空からかぶってくる新型グラマンの群れ。
それを必死で引き受け、流星改を守ろうとする零戦。
みな、殆どが初実戦…。
いくら猛訓練を受けたとは言え…この俺も含めどれだけが生き延びられるか。
やるしかない!

狙うは敵空母甲板、既に濃密な対空砲火の嵐と、上空からの敵ベアキャットに次々と味方が狩られていくが…。
それでも突貫しかない。
この部隊自体の編成の実態、自分達に与えられた役割は承知しつつも。
周囲を見渡しても、零戦隊が慣れぬ腕で必死に防戦するも及ばず、次々と墜ちる機体はやはり日の丸の方が…。
わが愛機も砲弾の破片でボロボロ。
だがなんとか…。
砲火の隙間から、見えてきた。
敵の浮かべる城…戦艦の向こう側!
巨大正規空母群!
「いくぞ!」
「はい!」
後席の多和田二空曹が元気よく返す。
真一文字にダイブする関大尉の流星改。
恐らくあの空母が敵新鋭の…
更に激しさを増す放火に、遂に左翼燃料タンクの防弾が抜かれて火を吹く。
クソっ!まだ投弾は早い…
後ろから悲鳴。
「多和田!!」
風防ガラスの後方が鮮血に染まる。
振り向くと、目を剥いたまま、左側の首を抉られ息絶えている青年。

すまぬ…。
さらにダイブスピードは増す。
「うおおおおおお!」
高度2300……まだだ、2200、2100…。
バキッと、左翼全体が悲鳴を上げる。
持ってくれっ…。
1700…1600…今!!!
必殺の1トン徹甲弾が、重力加速度を増しながら…ミッドウェイ級空母ヨークタウンⅡの甲板中央に命中!!
後ろ目には見えていたが、歓喜の叫びを上げている暇はない。
「ぐあおっ!!」
渾身の力で操縦桿を引き、海面スレスレで関の機体は水平飛行に戻る。
しかし、もう左翼は千切れる寸前…
当然帰還は…隊内電話も使えない!

すまん、多和田!俺は生きる!
エンジンを切り、思いつく限りの減速操作…。
そして…ギリギリ機体の形を保ち、海面に不時着水する愛機。
「がっ!?」計器板に頭をぶつける。
だがどうにか意識を繋ぐ関。
周囲には当然、アメリカの巨艦群。
誰か気付けっ。
白いマフラーを外し、必死に風防から身体を乗り出し、それを気力を振り絞って振り回す…。
海軍…軍人としては最も屈辱的な選択肢かもしれない。
だが、それでも俺はもう一度逢いたいと願った。
母さんに、そして満里子に。

米巡洋艦インディアナポリス艦橋

「1時方向、不時着水した敵機と思われます。何かあれ…白旗のつもりか?」
当直士官につられ、艦長も双眼鏡を覗く。
「…ボートを出して助けてやれ。幸い付近には敵機はいない。」
「ですが…」
「いいから助けろ。」

艦長の有無を言わせぬ言葉に、その場にいた全員が敬礼で応じた。

一方、上空の熾烈な空戦は佳境に入りつつあった。
味方は優に7割は食われただろうか。
必死に、無我夢中で飛んでいる内に、どうも敵艦隊中央に来てしまったらしい、斎藤優希少尉の流星改。
正直恐怖で既に漏らしてしまっている。
この爆弾を、とにかく手近な空母にブチ当てる。
怖い、しかしやらないと…。
そう考えた矢先、エンジンが黒煙を吹く。
「やばい!」
後席の清宮飛曹長がさけぶ。
これでは還れない。
なんてことだ…なんてことだ…。
斎藤の頭は瞬時に走馬灯となる。
同期で下だったはずの田中が、いまや立派な戦闘機エース。
数日前、体当たりしてでも敵艦を仕留めると息巻く仲間の会話に入ろうとすると、
「キサマにそんな度胸ねえだろ。」
そう拒絶された。

「うおおおおおお!!」
この男としては信じられない胆力の敵前急上昇。
そして、何型かもしれぬ空母に向け、辛うじて残る視界を頼りに突貫する。
俺は男だあー!
後席の清宮の喚き声を無視して、半ば火だるまになりながらも斎藤の流星改は、エセックス級空母ガブリエルの甲板に激突した。






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