新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

蒼空の烈火

目が覚めた。
(ど、どこだ。)
坂井三郎の頬を、容赦ない強風が叩く。
…風防が吹き飛んでるのか。
高度は….2500。
我が零戦５４型丁改は、こちらが気を喪っている間、勝手に水平飛行に移行していてくれたようだ…。
ぐえっ…若干の吐き気。
そして頭部の激痛。
半分赤く染まった視界。
再び意識を失いそうになる。
激痛を忘れる程、心地よい位にうとうとと。
このまま…。

(三郎！しっかりおし！！)

痛む頭に響いた声。
母ちゃん！？
悪戯をする度に、ガキの頃に怒鳴られていた声そのまま。

～～～～～～！！
猛然と操縦桿を握る！

何をやっとるか俺は…！！
「必ず生き残って戦い続けろ！」
そうジャク達を叱咤し続けたのは俺ではないか！
気魄を込め直す。
まずは…周囲に敵は居ない。
現在位置の確認と燃料…。そして…。



日本艦隊上空。
「これで(本日)１１機目！」
すかさず切り返し、周辺空域把握と次の目標を探るカリン。
(上手く数的優勢の敵を乱戦に引きずり込んだのいいけど…。)
さて、肝心の敵攻撃機迎撃は…

「よし！奴らが精鋭揃いでも完全阻止は不可能。
雑魚は適当にいなして奴らのなけなしの空母から狩れ！！」
指揮官ガルベス大尉の号令の元…
高速侵入するAー１スカイレイダーの群れ。
前方に日本駆逐艦群。
間もなくロケット弾(無論その他に本命の大型爆弾、魚雷を搭載している)の射程…。
！！？
「上空！！かぶってきます！２００以上！」
なんだと！？
あの鉄壁の護衛戦闘機陣をくぐってきた奴ら？
ガルベスは振り返る。
「あ、あれはゼロじゃないです！」
マリオ軍曹が後席で叫ぶ。
「そ、それはワカる…」
ジャップ…頭発酵してんのか！？
新型攻撃機を戦闘機代わりに、だとお！？

「落ち付いて、訓練通りにやれ、貴様達のような初心者でもこれなら当たる、墜ちる！」

そう若手中心の部下達を叱咤するのは林喜重大尉であった。
次々と米軍軍用機の頑丈さの集大成の筈である筈のスカイレーダーがどんどん火を吹いていく。
「今更引けん！回避機動とりつつ敵艦に肉薄ッッ！」
ガルベス隊長は絶叫するも、自身の回避で手一杯であった。
なんだこの弾幕は…。
しかも全てが２０ミリ。

そう。両翼合計２０ミリ機関砲６門
それが流星改特種掃射型であった。
無論片翼あたり３門づつの２０ミリ全てを翼内に収められる訳はない。
既存の２門に加え、両翼に掃射ユニット…２０ミリ２門の銃身&弾薬ポッドをそれぞれ装着している。
最速は５７０キロまで落ちるが、低空域での乱戦ならば問題はない。操縦性も意外と良好であった。
しかも、これにベアキャットを振り切ったベテラン中心の零戦５４型丁改３０機以上が加わる

糞ッ！もう許さねえからなぁ。
なんやかやで、それでも２８０機のスカイレーダーが、敵戦闘機群を抜いて日本艦隊に肉薄する。
まずは行きがけの駄賃とばかりに駆逐艦、巡洋艦群にロケット弾…
「クッ、予想以上に弾幕キツいぜ！」
ある程度ロケット弾掃射で突破口を開けるものの、少なからぬ仲間が撃墜される。
巡洋艦以上の大型艦に魚雷を放とうとしても、スコールの如きそれは勢いを増す。
なんだ？なんなんだこれは！

「ひゃっほう！2機目喰ったぜ！」
はしゃぐ神戸准尉が握りしめ、上空からの敵急降下爆撃機群に放つは、２連想４式３０粍機関砲。
日本連合艦隊は、従来の高角砲を２割から３割撤去してまで、ほとんど全ての艦にハリネズミどころでない勢いで装備していた。
そう、各部ジョイントに油圧の援けを得て、ほぼ一人で自在に動かし、まるで２１世紀の射撃ゲームの要領で各個の照準で撃ちまくることができる(ただ、大和指揮所とリンクした指示に応じ、弾幕を集中させる事が出来る。)
電波信管も、電探統制射撃も出来ない状態でも、ここまで変えられるのだ。
付け加えれば、同機関砲の初速、実に１２４０m／s！
米スカイレイダー群にとっては、まさに地獄の豪雨…。

それでも、１００機前後が日本側輪形陣中心に迫る。
まずは急降下爆撃機のチーム…。