新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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劈頭

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「くるぞ、チャンスは一回だ。」
連合艦隊出撃11時間後。
日は落ちた。
米潜水艦アーチャーフィッシュ艦長。エンライト少佐は、かすかに微笑みつつ潜望鏡を覗く。
上手く敵輪形陣駆逐艦群の哨戒を…抜けた。
「艦長。イケますぜ?」
「ああ、多分上は波が荒れてるな、若干。」
それ以前に、敵の大艦隊は巡航27ノット。
こちらに追尾され狙い撃たれるとは思ってもいないのかもだが…生憎こちらは読み切って、完全に網を張ってるんだよ!

司令塔の全員が息を潜める。
……。
抜けたか?
「艦長…。」
「まだだ焦るな副長。ここまできたら輪形陣中央…空母を殺りたい。」
日々ルーティンのように商船狩りを地道にして来た(無論ヤバい局面もあった。)
しかし、ここで大殊勲を挙げれば…。
折角向いて来た運だ。
一旦50mまで潜り、水中最大戦速で前進。
「よし、慎重に深度上げ、潜望鏡…。」
後方から爆音。
「感づかれたか!?」
「いえ、この爆雷攻撃は味方潜水艦群に…。」
「ぐっ…。すまぬ皆…。」
「いえお待ちを!味方の雷撃音、確実に数発は当たってます!」
ソナー長の上ずった声に、艦長以下司令塔の面々は色めき立つ!
やってくれた!

「重巡愛宕、被雷!!」
大和、葛城、それぞれの指揮所に衝撃が走る。
「摩耶にも2発命中!傾斜止まりません!」
長官小沢は微動だにしなかったが、かすかな脂汗は隠しようも無かった。
だが、直後に味方駆逐艦群が敵潜2隻撃沈確実との報も。
なんとか撃退しつつ、振り切れれば。


 が…。
「戦艦 陸奥、1本被雷!」
「ぬうっ!」
そこまで入り込まれているとは…。
が、被雷1本で済んだのは不幸中の幸いであった。
「陸奥、浸水軽微。現在応急班対応中。」
「主機、速力共に影響なし!」
ほっと胸を撫で下ろす小沢、宇垣ら。
虎の子の重巡2隻の上、主力戦艦まで…。
と言う訳にはいかない。 
そう簡単に大和級ありと言えども、まだ日本国民や列強各国にとっての象徴的存在長門級が簡単にどうこうなるはずもなく。

当該の敵潜水艦は取り逃したが。

ところがである。
重巡2隻の生存者収容を終えつつあった45分後、凄まじい轟音と、昼間のような爆炎!
「何が有った!?」
小沢以下幕僚達の目に、陸奥のあった方角から…。
と言うより間違いなく陸奥そのものだ。
大爆炎の中、辛うじてシルエットは見える。
しかしもう、3分の1程度しか見えない。

突然の大爆沈…としか言いようが無かった。
「馬鹿な!!たった魚雷一本、しかも重要区画でもないのに…。」
参謀の一人が発した言葉。
この謎は現代に至るも解明されていない。

大和同様、葛城の戦闘指揮所も騒然としていた。
一人、無言で腕組みをする久保拓也。
(これが歴史の揺り戻し、収束と言うわけですか。石原さん)


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