新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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未来への布石

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昭和12年3月。帝都内某所。
「閣下、飲み過ぎですぞ。」
「う、うーむ、下戸の身も顧みずイキスギたか…。」
関東軍参謀副長、石原莞爾は、よたよたと副官に支えられながら、自分の車へと向かう。
休暇を利用しての帰国。気心の知れた前任地での部下達との呑み会で、参謀長東條英機を散々こき下ろして盛り上がったはよいが…。
に、あの「東條上等兵」が自分を忌避するあまり、色々と手を回して閑職に追いやろうとするやもしれんな…。
そんな思いを巡らした刹那、眼前が光に包まれた。
何だ!?爆発!?
テロール!!!?
副官共々腰を抜かしてしまう石原。

だが音は一切しない、視力を一瞬失うような光が収まると、石原の眼前に、胎児のように全裸で身体を丸めた、15歳くらいの少年?
の姿があった。
「な…君…は?」
1分弱して目を開けた当人も訳がわからないという表情で、こちらを呆然と見つめる。

…結局、自身の外套を着せ、ホテルに連れていく。
厨房に残っていたコック達に頼み込み、(彼らにはいくばくか小遣いを渡して)取り敢えずスープとコーヒーを口にさせる。
「ご迷惑を…おかけします。
お陰様で人心地つきました。」
一礼する少年。
(ふむ…現状に混乱や当惑はしておるが、少なくとも精神は正常だ。)
「で、混乱しておるところすまんが、そもそも君は、何者だ?何処から来た?」
「はい…、今さっき、新聞が見えましたが、どうやら私は、頭がおかしくなったのでなければ、2030年、元号は令和の日本国沖縄から、1937年のここ大日本帝国に飛ばされてきた。
長い悪夢か妄想でなければ、そうとしか考えられないのです。。
そして、閣下が石原莞爾中将であらせられることも、判ります。」
ううむ。と腕組みをする石原。
「…正直最初に出逢ったのが私で幸いだったな。
その辺の一般人との鉢合わせならよくて精神病院。
下手すれば憲兵隊本部だ。

それで、きみは令和の時代とやらで何をしておった?」
「はっ。航空自衛隊、…所謂空軍です。
そこの那覇基地にて戦闘機パイロットを…。
階級は二佐…中佐ですね。
しかもそこで、『戦死』した時私は40手前。
つまり、この少年としての肉体も、本来のものでは無いのです…。」
「…どうも引っかかるな?普通に『空軍』『中佐』ではいかんのか?
妙に歪さを感じるなその時代の日本に。
…となるとそもそもの疑問であるが。
この後の100年弱の間、この日本に何が起こる?」
「御意。まさに本題でありますが。」
「久保拓也」は、読者もよく知る、「史実」今後の日本の辿る運命を語る。
日中戦争泥沼化。
日独伊三国同盟。
南方進出による対米英の関係悪化。
そして対米戦。
本土空襲、沖縄戦、特攻隊、原爆、ソ連参戦という雪崩の如き破局。
敗戦後の憲法。
完全な民主化、経済発展。
米ソ冷戦下の無風地帯の奇跡的平和。
繁栄を謳歌する国民…。

しかし国家観、国防意識はおざなりにされ…。おざなりにされ過ぎるあまり…。

結果、2030年の中国共産党軍の侵攻に…。

「ふむむ、まさか支那共産党がそれ程強大化するとはな…。
しかし、国共合作における狡猾さを見ると、頷けなくも無い、しかし、なまじ西洋に染まった覇道主義。これは宜しくないな。
それでは私の考える、大東亜の王道とは大きく外れてしまう。」
「仰る通りです。」
「いずれにせよ、事ここに至っては君…貴官を信じるしかあるまい。
先ずは日本を向こう数年後の破滅から救わねばならぬ。
私の考える最終戦争に、とても耐えうる状態ではないからな。向こう10年の帝国は。

…幸いなことに、貴官は現在、14か15の少年の身ということだ。
戸籍は私のツテでどうにか細工できるし、進みたい道の学費程度は工面する。
どうだね?」
「は、では…。多大なるご厚意に甘えて…海軍兵学校に。
陸軍の閣下には申し訳ございませぬが。」
「はははっ、気に病むな。
もし対米戦不可避となったらば、まず海と空を抑えねばならぬからな。
他には何か?」
「はっ、事前の手回しが各方面に必要ですが、任地にお戻りになった時にお会い頂きたい方が…。」

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