新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

文字の大きさ
上 下
87 / 166

作戦発起へ

しおりを挟む
そして1943年12月4日、呉、連合艦隊総旗艦 大和艦内
連合艦隊司令部が一同に会し、迫り来る次期対米邀撃戦の作戦会議が行われていた。
「まずは久保君が米国内でゾルゲに作らせた情報網によりますと…。
敵主力のハワイ発進は遅くとも14ないし15日…」
参謀長宇垣纏が、そう切り出す。
「我が方はそれに先んじて、明後日1600にここを進発。
ウルシーで追加航空戦力を収容し、10日までにはマリアナ近傍にて万全の邀撃体制をとる。
ここで問題となるは当然敵の来寇兵力であるが…
機動部隊基幹となる正規空母は新鋭を少なくとも4隻含み21から23隻。
作戦機は艦載機だけで優に2000機強…。」

幕僚達からため息が漏れた。
それに加え、定期便でハワイから三桁単位で飛んできているBー29が、いざ決戦となれば、より集中的にマリアナ全域に襲来するのだ…。
それに対して動かせる我が方の総航空兵力は、基地航空隊合わせても1500機弱…。
基地航空隊が結局Bー29対策に忙殺されるであろうことを考えると、わが機動部隊艦載機は優に2倍の敵に相対せねばならない。
しかも敵艦載機は高性能機に刷新…。
これでは、マリアナは…。
ん?
…妙だな。
いつもは小沢長官、山口司令の名代と言わんばかりにほぼ全ての作戦概要を語る久保拓也航空参謀長が、無言のまま腕組みをしたままだ。

幕僚の何人かが訝しむ中、以降は小沢連合艦隊司令長官自らが、後を引き取る。
「皆も承知の通り、ここに来て彼我の国力差が決定的なものとなっている。
しかしこれは予想していた事だ。
普通に正面から四つに組めば必敗…。
が、我が方もパイロットの練度、零戦76型の優位性、水上艦艇等の活かし方。
それらの要素で対抗できる要素はある…。
故にこちらも策を講じる。
例の情報網により、敵新鋭機の航続力、性能諸元。それらの詳細が判明した為、この作戦を実行する。」
小沢は自ら海図を指さす。
「敵新鋭戦闘機の作戦行動半径は、最大でも1000キロ。
一方、我が方の、零戦76型、54型は増槽の選択次第で1300キロとなる。
つまりは、この距離の優位を利用する。
敵機動部隊が攻勢に出られない距離から、先手を打って攻撃隊を発進させる。
いわゆる『アウトレンジ』戦法である。」
幕僚達がどよめく。
確かに理論上は可能だが…。
「そこまでしてでも、今次作戦は敵に先んじなければならん。
無論、ここに居る久保航空参謀長も検討し、可能と判断してのことだ。」
久保は静かに一礼する。
ところで…と小沢は唐突に話題を転ずる。
「例のアレは間に合いそうかね。」
「はっ、かなりギリギリになるかと。
微妙な線ではありますが、急かしては全てが水泡に期しますので…。」

小沢は無言で頷く。
会議はその後、3時間ほど続いた。


しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

処理中です...