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時間との戦い。

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1943年10月
太平洋ではマリアナ、ヨーロッパではドーバー海峡を挟み、連合軍と枢軸の壮絶な航空撃滅戦が繰り広げられていた。

ワシントンD.C. ホワイトハウス

「ネオオレンジ作戦…。
Xデイはいつになるかね。」
ルーズベルト大統領の問いに、キング海軍作戦部長が答える。
「はっ、海空に加え、揚陸兵力の錬成、編成に手間取りましたが…12月中旬、クリスマス前には発動できるかと。」
「うむ…連日の空爆で敵防衛体制はジリ貧…とは言え機動部隊は強化されている。」
ゆめ油断なきよう。」
「御意。心得ております。」

これでマリアナ諸島を奪い、余勢に任せて硫黄島奪取。
そうすれば、新鋭Pー51D戦闘機の護衛付きで、数百機から1000機単位で連日に猛爆撃を加えることができる。
軍需工場に留まらず、インフラも何もかも破壊し尽くし、数ヶ月でチェックメイトに追い込めれば…(実際先月、英軍ランカスターとの混成で、ドイツ戦線で100機弱投入された同機は、ドレスデンを半ば「蒸発」させている)
あとはナチスとの戦いに専念できる。

ルーズベルトはそんな考えを巡らし、いつもの錠剤を水で流し込む。

同時期。
日本 帝都某所の喫茶店。
「すまねえな、こっちが礼だ。」
「いえこちらこそ、お待たせしまして…
しかし、『中野』さんも何かと大変ですな。
では。」
席に一人となった中村は、今の男に渡された書類の束に目を通す。
やはり…

(大和級三番艦だけではない。重巡以上の建艦計画が実質凍結されている…。
空母雲竜級の4番艦までだな。実際に進んでいるのは…。
それ以外は…中断、あるいはそもそも最初から人員資材が動いた形跡が無い…。
しかも、下手すれば開戦前から、一連の動きが仕組まれている…。)

何を考えている…久保の奴は…。

こちらは…満州は旅順。
「某施設」内。

「いや、どう頑張っても半年…。
急造なりに万全を期さねば、海軍さんの、というより閣下のご期待に沿うものにはなりませぬ故…。」
「それは、良くわかります。
ですが牧野さん。どうしても年内には余裕を持って投入したいのです。」
「それは…、資材は良いとして、人員や治具その他諸々が…。
いや、まあ、あと1000万でも予算追加頂ければ話は別ですが。無理でしょうし。」
「…わかりました。何とかしますので、何卒。」
「.…へ!?」

これしかない。なかったとは皮肉なものだが…。
開戦後、表面上は勝利を重ねつつも、質量ともに圧倒的なアメリカの工業力。国力と組織力。その皇国との絶望的なまでの差を思い知らされてきた。
敢えてそれを覆しうる「決戦兵器」はこれしかないのである。

これに全てを託すほかあるまい。


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