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1943年8月1日
統合参謀本部戦略会議
陸海軍、内地における頭脳の中枢が、そこに揃い踏みしていた。
参謀総長山本五十六が口を開く。
「ではここで、再度大前提となる彼我の兵力その他の状況認識を共有したいと思っておる。
情報2部の堀中佐…」
「はっ。」
元大本営陸軍情報部の堀栄三が海図の前に進み出る。
「まずはアメリカの、主に海空における兵力分析です。
基幹となる正規空母群ですが、既に連中はエセックス級を上回る新鋭大型艦を3ないし4隻の公試を終え、慣熟訓練に入っている模様。
そして前回ハワイ沖で甚大な損害を与えたエセックス級空母群ですが、結局沈没まで追い込めたのは情報を総合するに3隻のみ(フランクリン、シャングリラ、ワスプⅡ)他は既に修復を終えているものと思われます。
ここまで彼ら機動部隊の再建が遅れているのは、艦や機体よりもパイロット、艦船搭乗員の育成に手間取っているものと思われます。
だがそれらも終わりつつあり、向こう2ヶ月以内には大規模な来寇があるものかと…。
無論、要衝マリアナ諸島にです。
基幹兵力は正規空母だけでも18~20隻…。」
一同はどよめく。
「た、対する我が方は…。」
その後は久保航空参謀長が引き継ぐ。
「主力艦、艦載機搭乗員は開戦以降幸いにして温存されております。
空母に関しては葛城級2番艦、それと非装甲型ですが改翔鶴級に相当する雲竜級2隻が就役。
つごう3個戦隊11隻の第一機動艦隊が、今回動員出来る、わが唯一最大の機動戦力です。
ですが、作戦機は、先程の堀参謀の話の流れで、恐らくは我が方1000機前後に対し、敵は優に2000機は…。
無論サイパンをはじめとする基地航空隊とも連携しますが、向こうは向こうでハワイからBー29を、おそらく決戦の頃には300機超の体制で回してくるかと…。
対抗しうる我が零戦76型も、数が揃わぬうちに、そちらと情報にある米軍新型グラマンへの対処に戦力を2分され、忙殺されることとなります。
それ故、強引に防空体制ごと基地機能が潰される可能性も…。」

「話になりませんなァ!」
皆の視線が、声の主に集まる。
辻政信大佐。ビルマ方面第13軍参謀長であった。
自らを南方総軍司令官の名代として、なぜかなし崩し的にこの会議に参加していた。
「それではなんで中将が横紙破りで統帥権を一本化と称していじったのか分からぬではありませんか!?
結局貴方が海軍を私物化同然に牛耳りました、でもわれわれでは米軍を追い払えません。
恥ずかしいとは思いませんか?
結局我ら陸軍に全て負担がかかるというお話ではありませんか!?」
「口を慎め!辻!」
山下泰文中将・マレー、シンガポール方面軍総監が溜まりかねて怒鳴る。
海軍側に流石に申し訳立たないと考えての事であろう。
しかし、辻は黙らなかった。
元々自身の中での正義が許さなければ上官相手でも一歩も引かぬ男である。
「これは本官個人の意見ではありませぬ。
皇軍の悠久の大義に関わる事であります。

…そう問題の根幹は…先程も言った通り統帥権一元化と称して、その実皇軍を私物化している中将殿です。
耳障りの良い米英式の合理主義を唱え少なからぬ海軍中枢を惑わし、結果陸軍を蔑ろに…。
我々陸軍の突貫精神で血を流し得た、ニューギニアを始めとする貴重な領土を放棄後退させ…敗戦工作と言われても仕方ありませんな!
佐官から下士官に至るまで、貴方への憤懣は爆発寸前になっている。
数多の声はここ参謀本部に書き送っている通りです。
敵の次の来寇に備える前に、中将殿の現在の地位や言動のそもそもの是非を問いたい!」
陸海軍の将帥、参謀達も押し黙ったままだ。
あまりにも傍若無人な辻の振る舞いにリアクトもできなかったのもあれば、この中の少なからぬ面子が辻に公私に渡る何らかの弱みを握られていたのである。
自然、皆の視線は「中将殿」久保拓也に集中する。
勝ち誇ったような辻に対し、久保は一言、冷ややかに言い放つ。

「御高説はそれで終いかな?辻殿。」

………ッッッッ!!??


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