新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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【新章開幕】終わらぬ、戦禍

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1943年(昭和18年)4月15日
大日本帝国 帝都 首相官邸。
「話がちがうではないですかッ。」
東條英機首相は、例の甲高い声のオクターブを上げる。
「擬似文民統制」の建前から、軍服ではなくスーツ、だが本人は窮屈そうだ。
「その為に東郷外相が渡米し、野村吉三郎大使も収容所から出されたというのに。」
「左様、だが、何故か向こうの事情が変わったというのです。」
来栖外務次官が汗を拭きつつそう答える。

話は3日ほど前に遡る。
ホワイトハウスでハル国務長官と日本側との折衝の委細を詰めていた、ルーズベルト大統領に対し、秘書官が来客を伝える。

アポ無しで来るとは。
しかし、「彼ら」を断るわけにはいかない。
「ご無沙汰しております。大統領閣下。」
「こちらこそ…。」
皆が隙のないスーツ姿の壮年男性。
言葉遣いや立ち居振る舞いは、大統領に対するに相応しい丁寧なものであったが、どこかに隠しきれない傲岸さがあった。
まず、ラックフェラー会長が口を開く。
「いささか残念ですな、大統領、我々に相談なく、日本と講和などと。」
「うむ、その点は申し訳なく…。なにぶんにハワイ住民の命もかかっていた故…。」
ルーズベルトの額にかすかな汗。
「まあまあ会長どの、あのような敗北のショックの後では致し方ないでしょう。大統領としても精一杯のご判断…。」
マルガン会長が割って入る。
「しかし大統領閣下、日本との講和、同盟共闘に関してとしては承服致しかねるというのは事実であります。」
「…どのような理由で、かな?我々としても戦力再建にかかる時間と、欧州戦線との兼ね合いで決定したギリギリの判断だったのだが。」
「その点は…、彼…キース・ライアン人類学教授の解説に任せましょう。」
30代半ばの青年が、簡潔に自己紹介と挨拶をした。
「日本軍は、これまでアジア諸国を欧米から解放する。と言う建前で、実質は侵略、制圧してきました。」
「うむ。」
「それ故に、我々は日本をナチスドイツ同様の悪の枢軸と非難し、国民感情もうまく操作して戦争に臨めた訳ですが…。
ここに来て、状況が変わりつつあります。」
「どう言うことかね?」
「はい、日本がインド、ビルマ、フィリピン等から徐々に撤兵。
最低限の兵力を駐留させつつ、現地の臨時政府に自主防衛がなしうる自前の軍隊を育成させつつ、随時兵器供与等も行なっておる事です。
つまり…侵略、植民化の為の方便でなしに、させつつある。
これが何を意味するか…?」
「つまり、我が国の有色人種のアイデンティティを刺激しつつある。と…。」
「仰る通りです。まだ少数ですが、日本人以外のアジア系、そして黒人達の中には対日戦への参加、その為の徴兵を拒否するものもでてきております。」
「…その文脈でいくならば、ますます日本との講和を進めるべきではないのか?」
「いえ、逆です。
我々アメリカ合衆国のみが、神の前には民族、人種問わず平等である社会を実現出来ることを示さねばなりません。
ひとまずは現在の日系人強制収用を解き、現政権に人種差別的意識がないアピール。一通り、申し訳程度の謝罪と補償も必要でしょう。
後は『本当に独立した』インド、ビルマ、フィリピンへの切り崩しですな。
…そして、緒戦の日本軍兵士の各所で散発した乱暴狼藉、虐殺行為の告発ですな。
…とにかく、貴方には対等の講和など認めない、歴史に残る戦時大統領になっていただかねばなりません。」
「お話しは、よく分かった。
早速、日本には講和拒絶の通告を送る。」
「…ご理解が早くて助かります。」

そう言われれば、そうせざるを得ないではないか。
君ら巨大石油メジャーの集合体。この国の軍産複合体をも動かす…。
「セブン・シスターズ」相手には。







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