69 / 166
【新章開幕】終わらぬ、戦禍
しおりを挟む
1943年(昭和18年)4月15日
大日本帝国 帝都 首相官邸。
「話がちがうではないですかッ。」
東條英機首相は、例の甲高い声のオクターブを上げる。
「擬似文民統制」の建前から、軍服ではなくスーツ、だが本人は窮屈そうだ。
「その為に東郷外相が渡米し、野村吉三郎大使も収容所から出されたというのに。」
「左様、だが、何故か向こうの事情が変わったというのです。」
来栖外務次官が汗を拭きつつそう答える。
話は3日ほど前に遡る。
ホワイトハウスでハル国務長官と日本側との折衝の委細を詰めていた、ルーズベルト大統領に対し、秘書官が来客を伝える。
アポ無しで来るとは。
しかし、「彼ら」を断るわけにはいかない。
「ご無沙汰しております。大統領閣下。」
「こちらこそ…。」
皆が隙のないスーツ姿の壮年男性。
言葉遣いや立ち居振る舞いは、大統領に対するに相応しい丁寧なものであったが、どこかに隠しきれない傲岸さがあった。
まず、ラックフェラー会長が口を開く。
「いささか残念ですな、大統領、我々に相談なく、日本と講和などと。」
「うむ、その点は申し訳なく…。なにぶんにハワイ住民の命もかかっていた故…。」
ルーズベルトの額にかすかな汗。
「まあまあ会長どの、あのような敗北のショックの後では致し方ないでしょう。大統領としても精一杯のご判断…。」
マルガン会長が割って入る。
「しかし大統領閣下、日本との講和、同盟共闘に関して我々としては承服致しかねるというのは事実であります。」
「…どのような理由で、かな?我々としても戦力再建にかかる時間と、欧州戦線との兼ね合いで決定したギリギリの判断だったのだが。」
「その点は…、彼…キース・ライアン人類学教授の解説に任せましょう。」
30代半ばの青年が、簡潔に自己紹介と挨拶をした。
「日本軍は、これまでアジア諸国を欧米から解放する。と言う建前で、実質は侵略、制圧してきました。」
「うむ。」
「それ故に、我々は日本をナチスドイツ同様の悪の枢軸と非難し、国民感情もうまく操作して戦争に臨めた訳ですが…。
ここに来て、状況が変わりつつあります。」
「どう言うことかね?」
「はい、日本がインド、ビルマ、フィリピン等から徐々に撤兵。
最低限の兵力を駐留させつつ、現地の臨時政府に自主防衛がなしうる自前の軍隊を育成させつつ、随時兵器供与等も行なっておる事です。
つまり…侵略、植民化の為の方便でなしに、現実にアジア諸国を独立させつつある。
これが何を意味するか…?」
「つまり、我が国の有色人種のアイデンティティを刺激しつつある。と…。」
「仰る通りです。まだ少数ですが、日本人以外のアジア系、そして黒人達の中には対日戦への参加、その為の徴兵を拒否するものもでてきております。」
「…その文脈でいくならば、ますます日本との講和を進めるべきではないのか?」
「いえ、逆です。
我々アメリカ合衆国のみが、神の前には民族、人種問わず平等である社会を実現出来ることを示さねばなりません。
ひとまずは現在の日系人強制収用を解き、現政権に人種差別的意識がないアピール。一通り、申し訳程度の謝罪と補償も必要でしょう。
後は『本当に独立した』インド、ビルマ、フィリピンへの切り崩しですな。
…そして、緒戦の日本軍兵士の各所で散発した乱暴狼藉、虐殺行為の告発ですな。
…とにかく、貴方には対等の講和など認めない、歴史に残る戦時大統領になっていただかねばなりません。」
「お話しは、よく分かった。
早速、日本には講和拒絶の通告を送る。」
「…ご理解が早くて助かります。」
そう言われれば、そうせざるを得ないではないか。
君ら巨大石油メジャーの集合体。この国の軍産複合体をも動かす…。
「セブン・シスターズ」相手には。
大日本帝国 帝都 首相官邸。
「話がちがうではないですかッ。」
東條英機首相は、例の甲高い声のオクターブを上げる。
「擬似文民統制」の建前から、軍服ではなくスーツ、だが本人は窮屈そうだ。
「その為に東郷外相が渡米し、野村吉三郎大使も収容所から出されたというのに。」
「左様、だが、何故か向こうの事情が変わったというのです。」
来栖外務次官が汗を拭きつつそう答える。
話は3日ほど前に遡る。
ホワイトハウスでハル国務長官と日本側との折衝の委細を詰めていた、ルーズベルト大統領に対し、秘書官が来客を伝える。
アポ無しで来るとは。
しかし、「彼ら」を断るわけにはいかない。
「ご無沙汰しております。大統領閣下。」
「こちらこそ…。」
皆が隙のないスーツ姿の壮年男性。
言葉遣いや立ち居振る舞いは、大統領に対するに相応しい丁寧なものであったが、どこかに隠しきれない傲岸さがあった。
まず、ラックフェラー会長が口を開く。
「いささか残念ですな、大統領、我々に相談なく、日本と講和などと。」
「うむ、その点は申し訳なく…。なにぶんにハワイ住民の命もかかっていた故…。」
ルーズベルトの額にかすかな汗。
「まあまあ会長どの、あのような敗北のショックの後では致し方ないでしょう。大統領としても精一杯のご判断…。」
マルガン会長が割って入る。
「しかし大統領閣下、日本との講和、同盟共闘に関して我々としては承服致しかねるというのは事実であります。」
「…どのような理由で、かな?我々としても戦力再建にかかる時間と、欧州戦線との兼ね合いで決定したギリギリの判断だったのだが。」
「その点は…、彼…キース・ライアン人類学教授の解説に任せましょう。」
30代半ばの青年が、簡潔に自己紹介と挨拶をした。
「日本軍は、これまでアジア諸国を欧米から解放する。と言う建前で、実質は侵略、制圧してきました。」
「うむ。」
「それ故に、我々は日本をナチスドイツ同様の悪の枢軸と非難し、国民感情もうまく操作して戦争に臨めた訳ですが…。
ここに来て、状況が変わりつつあります。」
「どう言うことかね?」
「はい、日本がインド、ビルマ、フィリピン等から徐々に撤兵。
最低限の兵力を駐留させつつ、現地の臨時政府に自主防衛がなしうる自前の軍隊を育成させつつ、随時兵器供与等も行なっておる事です。
つまり…侵略、植民化の為の方便でなしに、現実にアジア諸国を独立させつつある。
これが何を意味するか…?」
「つまり、我が国の有色人種のアイデンティティを刺激しつつある。と…。」
「仰る通りです。まだ少数ですが、日本人以外のアジア系、そして黒人達の中には対日戦への参加、その為の徴兵を拒否するものもでてきております。」
「…その文脈でいくならば、ますます日本との講和を進めるべきではないのか?」
「いえ、逆です。
我々アメリカ合衆国のみが、神の前には民族、人種問わず平等である社会を実現出来ることを示さねばなりません。
ひとまずは現在の日系人強制収用を解き、現政権に人種差別的意識がないアピール。一通り、申し訳程度の謝罪と補償も必要でしょう。
後は『本当に独立した』インド、ビルマ、フィリピンへの切り崩しですな。
…そして、緒戦の日本軍兵士の各所で散発した乱暴狼藉、虐殺行為の告発ですな。
…とにかく、貴方には対等の講和など認めない、歴史に残る戦時大統領になっていただかねばなりません。」
「お話しは、よく分かった。
早速、日本には講和拒絶の通告を送る。」
「…ご理解が早くて助かります。」
そう言われれば、そうせざるを得ないではないか。
君ら巨大石油メジャーの集合体。この国の軍産複合体をも動かす…。
「セブン・シスターズ」相手には。
20
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
戦艦大和、時空往復激闘戦記!(おーぷん2ちゃんねるSS出展)
俊也
SF
1945年4月、敗色濃厚の日本海軍戦艦、大和は残りわずかな艦隊と共に二度と還れぬ最後の決戦に赴く。
だが、その途上、謎の天変地異に巻き込まれ、大和一隻のみが遥かな未来、令和の日本へと転送されてしまい…。
また、おーぷん2ちゃんねるにいわゆるSS形式で投稿したものですので読みづらい面もあるかもですが、お付き合いいただけますと幸いです。
姉妹作「新訳零戦戦記」「信長2030」
共々宜しくお願い致しますm(_ _)m
re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ
俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争)
しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは?
そういう思いで書きました。
歴史時代小説大賞に参戦。
ご支援ありがとうございましたm(_ _)m
また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。
こちらも宜しければお願い致します。
他の作品も
お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
蒼海の碧血録
三笠 陣
歴史・時代
一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。
そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。
熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。
戦艦大和。
日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。
だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。
ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。
(本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。)
※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。
第二艦隊転進ス 進路目標ハ未来
みにみ
歴史・時代
太平洋戦争末期 世界最大の46㎝という巨砲を
搭載する戦艦
大和を旗艦とする大日本帝国海軍第二艦隊 戦艦、榛名、伊勢、日向
空母天城、葛城、重巡利根、青葉、軽巡矢矧
駆逐艦涼月、冬月、花月、雪風、響、磯風、浜風、初霜、霞、朝霜、響は
日向灘沖を航行していた
そこで米潜水艦の魚雷攻撃を受け
大和や葛城が被雷 伊藤長官はGFに無断で
作戦の中止を命令し、反転佐世保へと向かう
途中、米軍の新型兵器らしき爆弾を葛城が被弾したりなどもするが
無事に佐世保に到着
しかし、そこにあったのは………
ぜひ、伊藤長官率いる第一遊撃艦隊の進む道をご覧ください
ところどころ戦術おかしいと思いますがご勘弁
どうか感想ください…心が折れそう
どんな感想でも114514!!!
批判でも結構だぜ!見られてるって確信できるだけで
モチベーション上がるから!
自作品 ソラノカケラ⦅Shattered Skies⦆と同じ世界線です
江戸時代改装計画
城闕崇華研究所(呼称は「えねこ」でヨロ
歴史・時代
皇紀2603年7月4日、大和甲板にて。皮肉にもアメリカが独立したとされる日にアメリカ史上最も屈辱的である条約は結ばれることになった。
「では大統領、この降伏文書にサインして貰いたい。まさかペリーを派遣した君等が嫌とは言うまいね?」
頭髪を全て刈り取った男が日本代表として流暢なキングズ・イングリッシュで話していた。後に「白人から世界を解放した男」として讃えられる有名人、石原莞爾だ。
ここはトラック、言うまでも無く日本の内南洋であり、停泊しているのは軍艦大和。その後部甲板でルーズベルトは憤死せんがばかりに震えていた。
(何故だ、どうしてこうなった……!!)
自問自答するも答えは出ず、一年以内には火刑に処される彼はその人生最期の一年を巧妙に憤死しないように体調を管理されながら過ごすことになる。
トラック講和条約と称される講和条約の内容は以下の通り。
・アメリカ合衆国は満州国を承認
・アメリカ合衆国は、ウェーキ島、グアム島、アリューシャン島、ハワイ諸島、ライン諸島を大日本帝国へ割譲
・アメリカ合衆国はフィリピンの国際連盟委任独立準備政府設立の承認
・アメリカ合衆国は大日本帝国に戦費賠償金300億ドルの支払い
・アメリカ合衆国の軍備縮小
・アメリカ合衆国の関税自主権の撤廃
・アメリカ合衆国の移民法の撤廃
・アメリカ合衆国首脳部及び戦争煽動者は国際裁判の判決に従うこと
確かに、多少は苛酷な内容であったが、「最も屈辱」とは少々大げさであろう。何せ、彼らの我々の世界に於ける悪行三昧に比べたら、この程度で済んだことに感謝するべきなのだから……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる