新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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最終局面

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「各艦、所定の作戦通り回頭!」
南雲の号令一下、島風級の水雷戦隊は二手に分かれる。
「クッ、急げ!こちらも巡洋艦、駆逐艦を繰り出し阻止しろ!」
ハルゼーはそう言うが、フル稼働可能な駆逐艦が南雲水雷戦隊の半分しかいない。
しかも、皆対空戦闘の前衛、警戒の役割しか、正直想定していない。
「これを狙っての駆逐艦潰しか…。」
スプルーアンスが呻く。
無論巡洋艦も戦艦も、狂った様に撃ちまくる、が、最速40ノットという、当時の駆逐艦としては実質世界最速級のスピードは、レーダー射撃誘導の支援を得てなお、捕捉困難だった。
そして、米艦隊の外周を包むようにV字状に展開する島風級駆逐艦隊。
「敵輪形陣中央まで、距離8000!」
時は来た!
「全艦、全魚雷斉射ッ!!」
南雲の号令一下、島風級14隻から1艦当たり15本。
放たれしは必殺の93式酸素魚雷!!合計210本ッ!
それが射線がクロスする様に放たれる。
いわば、雷撃版十字砲火…。
「重巡インディアナポリス、3発被雷!!」
「ヨークタウンⅡにも2発!離着艦不可能。」
「どういうことだ!?魚雷の航跡が見えん!
目視不能!!」
「ミズーリ2発命中!」
「軽巡ナッシュビル大破!」
「空母フランクリン1発…浸水止めろ!」
米艦隊の射撃管制群もようやくアジャスト、日本の憎むべき駆逐艦3隻に深傷を与えるが…。
2度目の魚雷十字斉射がさらに追い討ちをかける。
「エンタープライズ2発被雷!」
「シャングリラには3発!傾斜を止めろ!」
「ニュージャージーにも…。」
「…!」
「…!!?」

…南雲水雷戦隊が5隻を喪いつつも離脱した頃、アメリカ第51任務部隊は、遠目には浮かべる廃墟と化していた。
しかし、それでも総司令官たるハルゼーの目の光は失われていなかった。
さりとて怒り狂うでもなく、冷静に副司令スプルーアンス、参謀長カーニーを始めとしたスタッフと、救助指示と稼働戦力の整理、再編成を進めていた。
「稼働艦載機は、200機を切っています。
ハワイ陸上基地からの支援も…。」
「水上部隊で決戦のほかないか…。」
スプルーアンスが大きく息をつく。
「いけるさ、動けるアイオワ級5隻。重巡と駆逐艦は6隻づつってところか。
ここで引いたらジャップにハワイ各島を蹂躙される。俺たちのクビ程度じゃ済まなくなる。」
「一緒に乗り合わす部下には貧乏くじたが。これも軍人の務めよ。」
「そうだ、レイ。これより日本艦隊に突入する!」
旗艦ニュージャージー自体2発被雷しているが、ダメージコントロール班の奮戦で、まだ28ノットで航行可能な状態である。
これに残存航空機隊102機に上空制圧させつつ…。
その時、上空から耳障りなサイレン音。
次の瞬間。
「低い雲の中から影が現れたと思ったら一瞬だった。」
と、僚艦ミズーリのある士官は後日語る。
短い金属音の後に、ニュージャージーの艦橋が大爆発を起こした。
!!!!
周囲の艦のそこかしこから悲鳴まじりの叫びをあげる。
あれは500kgどころではない、少なくとも1tクラスの爆弾…。
爆弾は艦橋の下層部分まで突き抜け…。
かすかにニュージャージーの巨体が折れ曲がる程の爆発を起こす。
「い、いかん…。」
第51任務部隊の実質半数の指揮を担うフレッチャー少将は呻く。
あれではCIC付近に居たハルゼー閣下達は…。
駆逐艦2隻を救援に送り込むが、混乱に拍車をかけることとなる。
「まずは、ニュージャージー他の救援継続!
損傷艦も含め後送急げ!
遅れたが、本官がこれより全艦全機の指揮を引き継ぐ!」
フレッチャーは度重なる緊急事態に最速で対応したのだが…。

一方、ニュージャージーに大和級主砲弾改造の徹甲弾を撃ち込んだ「犯人」は…。
混乱に乗じ海面スレスレを飛び離脱する。
出力強化、防弾、強度、航続力、速度搭載量、明らかに異次元!
「ふ…フューラーにお供して半分ノリで亡命してきたが…。
まさかまた戦艦を狩ることになるとはな。」
Ju87J改 まさに自身の専用機と化したシュトゥーカを駆りながら、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル少佐はひとりごちた。




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