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豪爆

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「なに!?敵戦闘機がロケット弾を!?」
「ピケットライン駆逐艦、7隻大破!」
防空輪形陣に穴が開いたか…。
ハルゼー、スプルーアンスは唇を噛む。
だが、貴様らは輪形陣中央の主力艦群までは辿り着けない!

「せめてこの俺くらいは、空母にかましてやらねえと。」
その一心で、猛烈な対空砲火の中、海面ギリギリを低空飛行する江草の零戦。
くうっ、しんどいぜ何回やっても!
だが…。
いぶかしくも思う。
対空砲火が苛烈なのはいい。問題は一発一発の砲弾だ。
なぜ、我々の近くでことごとく、計ったように正確に爆発する!?
30機以上が江草の周囲にいたが、次々と砲弾の爆発、破片の飛散に巻き込まれ墜ちていく。
「貴様たちは無理に奥を目指さず、手近な小物にぶち込んでとっとと退散しろ!
それで生還出来れば任務完遂だ!」
ほぼ全機がそれに従ったが、一機だけが江草の側を離れない。
「貴様、官姓名を名乗れ!」
「杉田庄一2飛曹であります!」
「まだ若いんではないのか。」
「すでにミッドウェイで3機墜としています。犬死はしません。」
「…ふ、そうか、頼もしいな。」

…あの海戦時、岩本と共に空母加賀を守るべくドーントレスを狩った、カリンが目撃した1機が杉田機であったのだ。
そして2機は見事な海面スレスレの飛行で、遂に敵空母を視界に納める。
「距離1000に入ったら急上昇、緩降下、それで甲板にかましてやれ!向かって左を貴様に任す!」
「ようそろ!」
2機は一気に上昇!いくつか対空弾の破片が当たる衝撃!
しかし意に介さない。
「今だ!」
「喰らいやがれ!!」
2機の両翼から放たれた三式小型焼夷噴進弾。
江草機のそれは、エセックス級空母タイコンデロガの甲板に、一発は命中。
甲板上にいた生き残りの米攻撃機群が次々と炎に包まれ、給油しかけのガソリンのタンクに引火し、爆発燃焼を起こし、少なからぬパイロットや整備員が巻き込まれる。
そしてもう一発が艦橋中央に命中。
甲板の炎と相まって、更なる爆炎となり、艦長以下のスタッフが犠牲となる…。
そして杉田機に狙われたワスプⅡは、2発ともが甲板を貫き、これまた待機していた攻撃機群を炎の嵐に巻き込む。
さらにワスプⅡにとって災難だったのが、甲板下格納庫で、再攻撃に備えて露出していた数発の爆弾の誘爆に繋がったこと…。
沖天を貫くような大爆発!
沈没こそ免れたが、上部構造物は破壊され、パイロットを含めたクルーの犠牲は4桁に達した。

混乱の中、迅速に輪形陣圏外に逃れる江草と杉田。
そして、ニュージャージーCIC。
「正規空母2隻が…。」
「だが、それで済んだとも言える。」
ハルゼーは自らを奮い立たせるようにそう言った。
とは言え、重巡以下のクラス、特に駆逐艦群の6割が何らかのダメージを喰ったのは痛い。
とにかく、敵機が一通り去ったら、何らかの反撃策を…。
「海上レーダーに感!」
オペレーターの悲鳴まじりの声。
「海上だと!?」
無論水上艦同士の遭遇戦も想定していたわけだが、早すぎる!
35ノット前後のスピードで迫ってきたというのか!?

瞬く間に彼我の距離は20000を切る。
あれは…駆逐艦…
16隻!?
「捉えたッ!
水雷戦の手並み、俺が教えてやる!」
旗艦島風に座乗するのは、南雲忠一中将。
第一特設水雷戦隊司令。
率いるはされた島風の同型艦達であった。

南雲は滾っていた。
旧態依然の序列制度により、「花の第一航空艦隊」の司令に担がれたはいいが、実際の戦いを仕切るのは源田や久保等の参謀達。
自分は昼行灯扱い。
しかし、一般的には左遷ととられるような、先日の人事は、南雲にとって僥倖であった。
今日この日の為に、俺は生きてきた。
「全艦最大戦速!雷撃戦用意!!」




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