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驚愕

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「何っ!?日本艦隊が!?」
ハワイ真珠湾、太平洋艦隊司令部。
チェスター・ニミッツ司令長官は、手にしたマグカップからコーヒーを数滴零してしまった。
レイトン情報主任参謀が頷く。
「御意…現在はまずはマリアナ諸島へのルートを一直線に進んでおりますが…。」
「しかし我々が具体的に動いた訳でもないのに何故…?」
「そこが不可解であります。わが主力を誘いだすつもりならば、もう少し他の仕掛けがあっても良さそうなものですが…。
お後、敵全艦が25ノットで高速航行しており、潜水艦での追尾捕捉が困難であります。」
「ううむ、こちらが揺さぶりをかけたというならばともかく…。」
実際、ハルゼーからエセックス級6隻を基幹とした機動部隊での、敵ウルシー泊地やマリアナへの強襲案の具申は何度か出ていた。
が、敵防空、哨戒体制が電探の性能に劣るなりも堅実に固められていること。
なによりもベテランパイロットの操るゼロが、こちらが新鋭F6Fを投入して尚脅威であることを理由に悩みつつも却下していた。
今は艦や機体以前に、ベテランパイロット達を失いたくない情勢だ。

「とにかく哨戒機、陸軍に要請し、Bー29等も動員してもらい目を離さぬようするしかない。」
「御意…。」

一方、ハワイ沖、第38任務部隊。
司令官ハルゼーの新たな旗艦、戦艦ニュージャージー。
「何!?ジャップが艦隊を根こそぎ!?」
「はっ、複数の情報から…マリアナ方面に進出かと…。」
カーニー参謀長の言葉に、ハルゼーは鼻を鳴らす。
「奴らがそこで止まると思うか?」
「…確かに…。」
「レイ…スプルーアンスのTF58に伝えろ。
あいつと連名で、ニミッツの大将に具申する。」
「は、何と…?」
「決まってる。日本艦隊が総力を挙げて、ハワイ攻撃に向かっている可能性大、だ。」

2時間後、情報を受けたニミッツは、レイトンとそのスタッフに今一度情報を精査させ、最終的にはホワイトハウスとキング海軍作戦部長に緊急電を送る。
「日本海軍、ここハワイを目標としている可能性無視できず。
陸海空、可能な限りの増派を求む。」

果たして…

帝国連合艦隊は、翌朝4月5日、マリアナ諸島を素通りし、一路ハワイに向け転針した。

「賽は投げられた、か。」
空母葛城艦上で、腕組みをして海面や僚艦を睨む久保拓也航空参謀長。
「作戦の成算は如何でしょうかね。参謀長殿。」
振り返ると、髪を伸ばしっぱなしの小男。
しかし、ベテランパイロットにしか出せない凄みと圧は十二分に伝わる。
「岩本…少尉。」
「正直ね、前線で戦ってる者に言わせれば、この戦争は、死ぬにはバカバカしい。」
「…。」
「いや、俺は戦局がどうなろうが生き残る算段と自信はあるからいいんですがね。
今回は鍛え込んだとはいえ、実戦が初の奴らも3分の1は混じってる。
あいつらが少なからず死ぬと思うとね…。」
「確かに。
どう犠牲を少なくと思ってあらゆる算段はしたが、どうしても誰も死なないと言う訳にはいかない。」
「あんたを責めてる訳じゃない。あんたや山口さんは、まだ前線で血が流れることに対する想像力がある。
だが、この国の上の方に巣食ったクソみたいな奴らはそんな事想像したことがないと思うとね。」
「うむ。本来死ななくてもいい、戦いの無い世でそれぞれに輝ける若い連中がな…。
だが約束する。
私…俺は決して君たちの命を使い捨てにはしない。
この戦争を最低限の流血で収める。
そして、この国の有り様も、いつかは変えたい。」
「ほう、大きく出ましたな。
ならばまずはこの戦に勝たないと。」
「ああ。勿論だ。」
2人は人知れず、握手を交わした。






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