新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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金髪の独裁者

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「まだ見つからんのか?」
ドイツ第三帝国、二代目総統 ラインハルト・ハイドリヒはかつての上官、親衛隊長官ヒムラーに問いかける。
「は、申し訳ございません。
なにぶん、対象が対象だけに、公開手配と言う訳にも行かず…。」
「ふむ…まぁ引き続き、『人手を割き過ぎない程度に』
継続する事だ。」
「御意!」
ヒムラーは退出する。
無理に焦らせ探し出すことはない。
あの伍長は公式には、「今は亡き偉大な帝国の始祖」であることであるし、妙な噂が広まっても困る。
仮に帝国勢力圏内に潜伏し、何か仕掛けようとしたとしても、いくつかの想定と対策はしてある。
ただ、あのような緊急脱出の手配をしていた事は想定外だったが…。
「お前が裏切っていたのを伍長に気取られていたのではないか?ん?ボルマン。」
観葉植物の影から、卑屈な笑みを浮かべながら現れた男。
「んむふふふ。なんともはや、申し開き様も御座いませぬ。
この上はマイン・フューラーの新たなる帝国がより盤石となるよう、幾層倍の精励を致すのみにて…。」
「フン…食えぬ奴よ。
まぁ良い、次の面談相手は?」
「はっ、中央軍集団のマンシュタイン元帥閣下です。」

理知的で端正な、プロイセン軍人の代表のような男が入室してきた。
「ハイル…」
「ああ、元帥、私に関してはその…。」
「はっ、そうでありましたな。
勝利万歳ジークハイル!!」
そう右手を上げたのち、マンシュタインは本題に入る。
「東部戦線、ヴァナガラの線まで押し込んだソ連軍ですが…。
そこから先の戦線をこじ開けられずにおります。
恐らくはアメリカの支援も大きいようで…。」
「兵力不足と言うことか?」
「はっ、補給に関しても、内訳は…。」
総統ハイドリヒは軽く右手を挙げる。
「よい。委細は国防軍最高司令部と詰めてもらえれば。
私からもなるべく元帥の希望に沿えるよう口利きしておく。」
「御意…痛みいります。」
ある意味では、現場の責任者としてはやりやすい。
先代のヒトラー閣下は、自身が帝国最高の名将と信じて疑わぬかのような調子で、日に日に作戦の細部に容喙してくる度合いが増してきていた。
このハイドリヒ総統は、ほぼフリーハンドで委任してくれる、それは良い。
良いのだが、先代とはまた質の違う、底知れぬ闇の深さを感じたりもするのだ。
いずれにせよ、軍事行動以外の言動に関しては、一層留意すべきであろう。

(俺は伍長と違う)
こと軍事に関しては、ハイドリヒの考えは一貫していた。
名参謀気取りで、軍事のプロフェッショナルの作戦に干渉し混乱させるような馬鹿な真似はしない。
要は総統たる俺は、極論今後どこの国を制圧するかだけ決め、あとは参謀本部と現場に任せれば良いのだ。

だが…絶対に譲れない一線はある。
 ユダヤ人を始めとする劣等人種を一掃することだ。
つまりはこの世界を文字通り…。
それがアーリア人の頂点たる我の使命…。






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