上 下
58 / 166

金髪の独裁者

しおりを挟む
「まだ見つからんのか?」
ドイツ第三帝国、二代目総統 ラインハルト・ハイドリヒはかつての上官、親衛隊長官ヒムラーに問いかける。
「は、申し訳ございません。
なにぶん、対象が対象だけに、公開手配と言う訳にも行かず…。」
「ふむ…まぁ引き続き、『人手を割き過ぎない程度に』
継続する事だ。」
「御意!」
ヒムラーは退出する。
無理に焦らせ探し出すことはない。
あの伍長は公式には、「今は亡き偉大な帝国の始祖」であることであるし、妙な噂が広まっても困る。
仮に帝国勢力圏内に潜伏し、何か仕掛けようとしたとしても、いくつかの想定と対策はしてある。
ただ、あのような緊急脱出の手配をしていた事は想定外だったが…。
「お前が裏切っていたのを伍長に気取られていたのではないか?ん?ボルマン。」
観葉植物の影から、卑屈な笑みを浮かべながら現れた男。
「んむふふふ。なんともはや、申し開き様も御座いませぬ。
この上はマイン・フューラーの新たなる帝国がより盤石となるよう、幾層倍の精励を致すのみにて…。」
「フン…食えぬ奴よ。
まぁ良い、次の面談相手は?」
「はっ、中央軍集団のマンシュタイン元帥閣下です。」

理知的で端正な、プロイセン軍人の代表のような男が入室してきた。
「ハイル…」
「ああ、元帥、私に関してはその…。」
「はっ、そうでありましたな。
勝利万歳ジークハイル!!」
そう右手を上げたのち、マンシュタインは本題に入る。
「東部戦線、ヴァナガラの線まで押し込んだソ連軍ですが…。
そこから先の戦線をこじ開けられずにおります。
恐らくはアメリカの支援も大きいようで…。」
「兵力不足と言うことか?」
「はっ、補給に関しても、内訳は…。」
総統ハイドリヒは軽く右手を挙げる。
「よい。委細は国防軍最高司令部と詰めてもらえれば。
私からもなるべく元帥の希望に沿えるよう口利きしておく。」
「御意…痛みいります。」
ある意味では、現場の責任者としてはやりやすい。
先代のヒトラー閣下は、自身が帝国最高の名将と信じて疑わぬかのような調子で、日に日に作戦の細部に容喙してくる度合いが増してきていた。
このハイドリヒ総統は、ほぼフリーハンドで委任してくれる、それは良い。
良いのだが、先代とはまた質の違う、底知れぬ闇の深さを感じたりもするのだ。
いずれにせよ、軍事行動以外の言動に関しては、一層留意すべきであろう。

(俺は伍長と違う)
こと軍事に関しては、ハイドリヒの考えは一貫していた。
名参謀気取りで、軍事のプロフェッショナルの作戦に干渉し混乱させるような馬鹿な真似はしない。
要は総統たる俺は、極論今後どこの国を制圧するかだけ決め、あとは参謀本部と現場に任せれば良いのだ。

だが…絶対に譲れない一線はある。
 ユダヤ人を始めとする劣等人種を一掃することだ。
つまりはこの世界を文字通り…。
それがアーリア人の頂点たる我の使命…。






しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

蒼海の碧血録

三笠 陣
歴史・時代
 一九四二年六月、ミッドウェー海戦において日本海軍は赤城、加賀、蒼龍を失うという大敗を喫した。  そして、その二ヶ月後の八月、アメリカ軍海兵隊が南太平洋ガダルカナル島へと上陸し、日米の新たな死闘の幕が切って落とされた。  熾烈なるガダルカナル攻防戦に、ついに日本海軍はある決断を下す。  戦艦大和。  日本海軍最強の戦艦が今、ガダルカナルへと向けて出撃する。  だが、対するアメリカ海軍もまたガダルカナルの日本軍飛行場を破壊すべく、最新鋭戦艦を出撃させていた。  ここに、ついに日米最強戦艦同士による砲撃戦の火蓋が切られることとなる。 (本作は「小説家になろう」様にて連載中の「蒼海決戦」シリーズを加筆修正したものです。予め、ご承知おき下さい。) ※表紙画像は、筆者が呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)にて撮影したものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

日は沈まず

ミリタリー好きの人
歴史・時代
1929年世界恐慌により大日本帝國も含め世界は大恐慌に陥る。これに対し大日本帝國は満州事変で満州を勢力圏に置き、積極的に工場や造船所などを建造し、経済再建と大幅な軍備拡張に成功する。そして1937年大日本帝國は志那事変をきっかけに戦争の道に走っていくことになる。当初、帝國軍は順調に進撃していたが、英米の援蔣ルートによる援助と和平の断念により戦争は泥沼化していくことになった。さらに1941年には英米とも戦争は避けられなくなっていた・・・あくまでも趣味の範囲での制作です。なので文章がおかしい場合もあります。 また参考資料も乏しいので設定がおかしい場合がありますがご了承ください。また、おかしな部分を次々に直していくので最初見た時から内容がかなり変わっている場合がありますので何か前の話と一致していないところがあった場合前の話を見直して見てください。おかしなところがあったら感想でお伝えしてもらえると幸いです。表紙は自作です。

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

【架空戦記】炎立つ真珠湾

糸冬
歴史・時代
一九四一年十二月八日。 日本海軍による真珠湾攻撃は成功裡に終わった。 さらなる戦果を求めて第二次攻撃を求める声に対し、南雲忠一司令は、歴史を覆す決断を下す。 「吉と出れば天啓、凶と出れば悪魔のささやき」と内心で呟きつつ……。

処理中です...