新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

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今のところ…。
目立った反駁は陸海軍とも見られず…。か。
自分でもよくもまぁ、こんな無理くりを通したものだ。
ウルシーに戻る二式大艇の機上、内心で慨嘆する久保拓也・新統合参謀本部航空副参謀長・兼第一機動艦隊航空参謀長。(少将進級)
我々の強引さのみならず、やはり、畏くもお上御自身が旧体制に危惧を抱いておられたからこそ、こうもすんなり事が通ったのであろう。
不敬かもしれないが、明治大帝に匹敵する、偉大なる大元帥にふさわしきお方なのかもしれない。
そして新参謀総長たる山本五十六閣下に進言した通りに…。

オーストラリアとの限定的講和。
こちらがニューギニア、ガダルカナル、ラバウル方面から全面撤収する代わりに、一定の重油譲渡と船舶の貸与を受ける。

沿岸部への日々の空襲、それ自体の被害も無視できぬレベルであることに加え、一向に阻止、撃退することの出来ない事で連日メディアに突き上げを食らっていたオーストラリア首脳は、この話に飛びついた。
当然、米英は猛抗議したが、
「結局アンタ達は日本を追い払ってくれなかったではないか。(意訳)」
と反論されてはどうしようもなかった。

ホワイトハウスはプリズベンに居座るマッカーサー麾下の元フィリピン方面軍に、武力でオーストラリアを威嚇すべしとの命令を一旦下すが、当のマッカーサーに兵力不足と、万一武力衝突となった場合のオーストラリア政府が日本と手を組むリスクを説かれ、断念せざるを得なかった。
まぁ、ニューギニアを中心とした数多の要衝が、無血で手に入る事には間違いないのだから…。

かくて、半ば公然と、ニューギニア周辺の陸海空の日本軍兵力は、マリアナやフィリピン方面へ無傷でまんまと避退しおおせたのであった。
(その後オーストラリアは何食わぬ顔で、米英とのうやむやな関係は継続しつつ、当面は中立の立場を保つ事になる。)

これでチェックメイトとなるマリアナを目前としたかに見えるアメリカであったが、戦線が縮小されたと言う事は同時に日本軍の反撃密度が増したという事であり、殊にマリアナ諸島は20万を超える兵力が集中し、空輸も含めた粘り強い物資補給で要塞化が進んでいると言う状況に、当初の戦略の練り直しを迫られる状況であった。

Bー29の、日によっては100機近い規模での空爆も、敵航空基地は空。
代わりにドイツの88ミリFlakのライセンス生産品が80数門待ち構えていた。
これには無視できぬ被弾、被撃墜を連日被り、遂に3月に入る頃には一旦中止せざるを得なくなった。
(元々、高高度爆撃の精度が良くなかったと言うのもある。)

そして、インドビルマ方面からも、両国の「傀儡ではない独立」を実現させる意味もあり、少なからぬ兵器装備と軍事顧問を残して、日本軍主力は撤退することとなる。
無論辻政信参謀も含め、反対論も根強くあったが、明確化された統帥権の前には中々面と向かっては反駁できない。
公然と軍中央は弱腰とアジテーションするものもいたが、見せしめに東條直属の憲兵に何人か捕縛されると、その声も止んだ。
その代わり…。
中国戦線には、陸軍は惜しげなく兵力を注ぎ込む。
戦略目標はただ一つ、米軍がBー29発進基地となしうる飛行場をことごとく制圧すること。
激しい抵抗を受けつつも、強化された航空支援もあり、3月30日、日本軍は遂に成都を制圧。
アメリカの思惑が、また一つ潰されてしまった訳である。




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